満ち満ちた現実の中で"混乱"は贅沢となる【読書記録】「軽薄」(著:金原ひとみ)
本を読むことで手に入るもの = 思い込みを捨てること
今年最後の読書記録は金原ひとみさんの「軽薄」です。
「蛇とピアス」で20歳で芥川賞作家となった金原ひとみさん。
その芥川賞受賞から15年たった2018年の1冊です。
この1冊を読むだけでそれまでは当たり前が当たり前でないこと気づきます。今回のnoteはこの「軽薄」読んで気づいたことを言葉にしていきます。
このnoteでは、書評を中心に読書に関する記事を発信しています。ぐちゃぐちゃになった頭の中を読書で整理してみると、それだけで人生がラクになります。人生をラクにする1冊を紹介するnoteです。
すべてを台無しにするかもしれない19歳の甥との関係
カナは19歳の甥の弘斗と関係を持つ。
建築家ル・コルビュジエの本、夫の本を届けるために一人暮らしをしている弘斗の家に訪れそこで突然手首に強い力がかかる。手首を掴まれたのだと気付く。混乱する自分に混乱して一線を越えてしまう。
一つ分かるのは、思いもしない形で訪れた身体的な触れ合いに、体が混乱しているという事だった。夫や恋人でない男が自分に触れるという事は、これほどまでに自分を揺るがすのかと唐突に思い知る。
カナに妄執する弘斗は危うげで、家庭を持つ29歳の女とまだ何も持たない未成年の男の関係が突然始まり、それがなぜか続けられていく。
カナは経済力のある15 歳年上の夫と間の一人男の子を授かり、高級マンションに住み、スタイリストの仕事も順調だ。ベビーシッターも雇い、それで育児と家事を見事に両立している。
世間的には何不自由のない生活。でも何かが欠けている。
19歳の甥には全てを許した自分に、あらゆる角度から疑問が芽生える。
18歳の頃カナは元恋人に刺されるも一命を取り留め、そこから逃げるように英国に留学をしてそこで今の夫と出会い結婚。
その夫、スタイリストとして担当しているモデル、昔自分を刺した元恋人、周囲の男たちとの関係も絡み合って揺れ動きながら弘斗との先の見えない関係を続けていく。
弘斗とこうしている事がばれたら、私はきっと夫と姉と両親に絶縁される。俊の親権もとられるかもしれない。
弘斗との関係は今の生活を台無しにするかもしれないと感じながらも、関係を続けている中で弘斗が過去の暴力事件を隠していたことがわかる。弘斗は中学のフランス語の教師だった彼女に暴力を振る事件を起こしていた。
弘斗は恐らく殺意を持って自分の元教師であり恋人に暴力をふるったという事だ。私は突然与えられた情報の多さに混乱し始めていた。
目の前で起きる出来事、事実に対してその場その場で自分を守るためのもっともらしい理屈を積み重ねてきた。
そのカナが”甥の弘斗との関係”に対して出した答えとは?
人は自分の意思に従って行動しているのか?
人が何か行動をするとき、決断をするとき、それに対していちいち明白な理由なんてないのかもしれない。
そう考え見ると、この1冊を次の3つの視点で読んでみるとさらにおもしろくなる。
①”弘斗との関係”を受け入れたのはカナの意思?
「無理矢理されたなんて思っていない」
「俺が無理矢理やらなきゃカナさんは抵抗していた」
弘斗の言葉に嫌悪感が募っていく。
自分が卑怯な人間に貶められている気がした。
「私は自分の意思で受け入れたの」
もう起きてしまった事実。
目の前で起きたどうしようもない現実が先にあって、それを受け止めるために”意思”というものがあるのかもしれない。
②人間の行動にいちいち明白な理由なんてないのかもしれない
人間が行動する時、こうだからこうと明白な理由が必ずしもあるわけではない。恋愛や性のことであればならなおさらだ。
その日その瞬間、欲しいものが目の前にあれば気持ちはそこに流されてゆく。でも失いたくないものもあるから、狡猾にでも抜け目ないように振る舞う。
カナさんが狡いのは、そうやって俺の事を自分の息子みたいに思ってくれて、性的な関係も受け入れるくせに、恋愛っていう土俵には上げない所だよ。
それはたから見れば"軽薄"にも見えるが、それは生きることが上手だとも言える。逆にこれができないと生きることが難しくなるのかもしれない。
③"混乱”は現実を生きていくための贅沢かもしれない
"弘斗との関係"は現在を一変させる可能性がある。
谷を転げ落ちるかのように急激に現状を変える可能性がある。
人生とはただの暇つぶしでしかなく、人が生まれてから死ぬまでにする全ての事が暇つぶしであるという事実から目を逸らすための現実逃避の手段が、人生に意味や目標を見出すという行為なのではないかと思ってしまう。
満ちることに麻痺してまったら、逆に混乱を手にしたいと思うようになるのかもしれない。
一時の混乱、混乱した自分を受け入れる
混乱は贅沢にもなりうる。
快適さ安心感に満たされる。その安心感が問題になる。
そうなるとさらに満たされるのではなくて混乱が欲しくなるのかもしれない。
混乱を混乱のまま甘受しながら、私はまた眠りについた。
贅沢はつかの間の快楽、あくまで一時のもの。
そう考えてみると贅沢も悪くない、人生がラクになるかもしれない。
オススメです。
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