技術をつなぐ経営者たちの選択 #04 デルタックス―身内を入れないと決めた会社の託し方―
株式会社デルタックスは、1998年の創業以来、横浜市神奈川区を拠点に、工場やビルなどの特別高圧・高圧電気設備の点検・測定・試験を手がけてきた電気設備保全の専門企業です。電気事業法によって年1回の実施が義務づけられている停電点検をはじめ、各種試験・診断で設備の状態を可視化し、劣化リスクを分析したうえで最適な改修・更新計画を提案しています。試験器の校正機器や保護具性能試験の設備も自社保有し、点検証明書の発行まで自前で完結できる体制を整備。メーカーを問わずどの機器にも対応できる技術力を武器に、毎年必ず需要が発生する事業基盤を築いてきました。
創業者である藤井憲仁氏と小田代洋氏が長年にわたり大切にしてきたのは、お客様からの信用・信頼と、怪我をしない安全な作業体制でした。一方で、事業を支える「人」が採用できないという構造的な課題に直面し、事業承継を意識し始めてから約5年を経た2021年、マイスターエンジニアリンググループへの参画を決断します。
仕事はあるのに、人がいないから請けられない――創業から23年を重ねた会社を託すという決断の内側では、何が起きていたのか。お二人に加え、グループ参画後にマイスターエンジニアリングから着任した湊清宏代表取締役社長、そしてマイスターエンジニアリングの小田真一朗常務取締役が、決断の背景とグループ参画後の変化を語り合います。
対談者プロフィール
● 藤井 憲仁 / 株式会社デルタックス 創業者
1998年に株式会社デルタックスを創業(1999年1月設立)。特別高圧・高圧電気設備の点検事業を一代で築き上げ、メーカーを問わない技術力と安全第一の作業体制を会社の柱としてきた。2021年、マイスターエンジニアリンググループへの参画を決断
● 小田代 洋 / 株式会社デルタックス 創業者
藤井氏とともにデルタックスを創業したメンバーの1人。長年にわたり、現場と採用活動の最前線に立ち、会社の成長を支えてきた
● 湊 清宏 / 株式会社デルタックス 代表取締役社長
マイスターエンジニアリンググループより着任し、グループ参画後のデルタックスの経営を牽引。採用・人財・組織づくりの強化に取り組む
● 小田 真一朗 / 株式会社マイスターエンジニアリング 常務取締役
マイスターエンジニアリンググループのM&A領域を担当し、技術サービス連邦経営の推進を通じてグループの拡大・深化に取り組む。本対談インタビュアー

事業承継を考え始めたきっかけ
メーカーを問わない技術力と、「堅いビジネス」の裏にあった採用難
小田:まず、株式会社デルタックスの事業内容と強み・特徴について教えてください。
湊:当社の事業内容は、特別高圧・高圧電気設備の点検・測定・試験です。メーカーを問わず点検ができる点を強みとしています。会社によっては一定のメーカー、機器への対応を受け付けていないこともあるようですが、当社に関してはそうした制約が一切ありません。また、年次点検は電気事業法によって年に1回、必ず実施することが義務づけられているため、毎年必ず仕事が発生するという点で、非常に堅いビジネスでもあります。
小田:創業以来大切にされてきた、会社としてあるべき姿や想いについて教えていただけますか。
藤井:1998年に創業し、翌1999年1月に会社として設立しました。当初はお客様を得るのに大変苦労しましたね。それが4年目くらいから、ようやく増えてきました。振り返ると、お客様からの信用・信頼が何より大事だという思いを持ち続けてきたこと、そして怪我なく安全に作業をすることを常に頭に置いてきたことが、仕事につながっていったのだと思います。
小田代:会社を作るときに決めていたのは、エンドユーザーを追いかけるということです。同業には、メーカーの仕事を主体にしている会社もありますが、我々はあくまでエンドユーザーと直接向き合うことを大事にしてきました。もう一つは、身内を会社に入れないということ。身内を入れると組織がガタガタになってしまうんですよね。この2つは、創業のときから決めていて、これまでずっと貫いてきました。
小田:長く経営を続けられる中で、事業承継というテーマを意識され始めたきっかけは何だったのでしょうか。
藤井:意識し始めたのは2016年頃です。2人とも年齢が上がってきたということもありましたし、次を担ってくれるだろうと思っていた人間が独立してしまったこともありました。ちょうどそのタイミングで、以前から来ていたM&Aのお誘いの電話やダイレクトメールに、一度会うだけ会ってみようということになったんです。それまで3年ほどは、正直そうした話をほとんど無視していたのですが。
小田代:「では後継者は誰か」と考えたときに、恥ずかしい話ですが社内にはいない。じゃあどうしようかと。
藤井:マイスターエンジニアリングと初めてお話ししたのが2019年頃、グループに参画させていただいたのが2021年です。ちょうど60代を超えたあたりで、そろそろ本当に判断をしないといけないという時期でした。
小田:事業承継以外にも、感じていらっしゃった経営課題はありますか。
藤井:事業承継以上に大きかったのは、採用の問題です。誰に事業を託すか以前に、そもそも人財を育てようにも人が入ってこないという状況でした。それなりの規模の会社でも採用に苦労している中で、うちのような小さな会社にはなかなか応募が来ません。採用支援会社にお金を出してかなりの金額で募集をかけたり、小田代さんのほうで学校訪問を何年か続けたり、説明会に足を運んだりもしました。ただ、それでも結局1人も採用につながらなかった。このままだと「仕事はあるが請けられない」という状態になってしまうと危惧するようになりました。
小田代:我々の仕事は、人がいなければ請けられません。目の前に仕事があっても、手が足りなければお断りするしかない。そこが一番のネックでした。「募集をかけても人が集まらない」――この課題を突きつけられたことが、M&Aのお話を本格的に進める決め手になったんです。

マイスターエンジニアリングとの出会い
細かな質問が、安心感に変わった
小田:一度お話を聞いてみようというところから、マイスターエンジニアリングと実際に接点を持っていただいたわけですが、最初はどのような印象を持たれましたか。
藤井:会社の説明や経緯を伺う中で、すごく積極的で、これから伸びていく会社だなという印象を持ちました。お話自体も誠実で、思っていたよりも意欲的で、「若い」というイメージがありましたね。特に印象的だったのは、実際にお会いした際に我々の仕事、そしてデルタックスという会社について、非常に細かく質問をいただいたことです。本当に我々の会社を理解しようとしてくれていると感じましたし、その姿勢に安心感を持ちました。
小田:私たちとしても、設備管理は手がけているものの、御社が専門とされる自家用電気設備の年次点検については、正直なところ本質的な部分までは分かっていませんでした。だからこそ、そこにきちんと入り込んで理解したいという想いが強くありました。
藤井:当社の仕事は一言では説明しづらい、分かってもらいにくいんです。「電気工事業」と言うと、多くの方は電気工事をイメージされますが、実際の業務内容とは少し違う。そこをどう分かりやすく伝えるかは、我々自身にとっても難しい課題でした。
決断に至るプロセスと、社員への配慮
小田:実際に検討を始めるまでには、社内での承継やほかの選択肢も含めていろいろな迷いがあったと思います。本格的に検討を始めようと思っていただいたのは、なぜでしたか。
藤井:先ほどお話ししたように、(マイスターエンジニアリング社が)意欲的でこれからの成長が見込めそうだという印象があったことに加えて、こちらがM&Aを検討する理由をお話しした際に、非常に誠実に答えていただいたことが大きかったです。仲介に入っていただいた会社の担当者も、終始丁寧に付き合ってくださって、安心感のある方でした。話しているうちに信頼関係を築くことができたのが、一番のきっかけだったと思います。
小田:実際に話を進めていく中では、例えば譲渡対価はどうするかなど、かなり踏み込んだ内容もお伺いすることになりました。その過程で、立ち止まりたくなったり悩んだりされたことはありましたか。
藤井:立ち止まろうと思うほどではなかったのですが、財務資料や就業規則など、いろいろな資料を提出してほしいという依頼が続いた時期がありました。ちょうど継承の問題を抱えている中で繁忙期と重なったこともあり、正直「これはなかなか大変だな」と感じたことはあります。
小田:その点は、こちらの事業理解が至らなかった部分もあったと思います。振り返ると、繁忙期を避けて進めるべきだったと反省しています。最終的には弊社から意向表明書をお送りし、ご承諾をいただいた後、企業調査(デューデリジェンス)のプロセスに入らせていただきました。
藤井:グループに加わるということは、ある意味で健康診断を受けるようなものだと思っていました。そこで社員のことや会社のこと、あの過程を通じて改めて整理できた部分もあります。決まるまでは社員に分からないように進めていましたから、そこは気を遣いましたね。
小田:社員の皆さんの不安という意味では、就業規則や給与水準が変わってしまうのではないかという懸念もあったかと思います。
藤井:はい。実際にそういう不安を持っていた社員もいたと思います。就業規則については、当初から変わらないと伺っていて、まとまってからも実際に変わりませんでした。そこは我々が最も重視していた条件です。もう一つ強くお願いしていたのが、採用をしっかりやってもらうということ。そこはしつこいくらいにお伝えしていたと思います。
グループ入り後の変化
1年目の停滞を越えて、社員数は倍に
小田:実際にグループに参画されてからのプロセスの中で、期待とのギャップを感じられたことはありましたか。
藤井:最初の1年目はなかなか人が入ってこず、正直「これは大丈夫かな」と思う時期もありました。採用の成功を第一の条件としてお願いしていたぶん、なおさらでしたね。ただ、その後だんだんと人が入るようになり、今振り返れば、その不安も自ずと和らいでいきました。
湊:言い訳になってしまいますが、最初の1年はまだまだ事業理解が浅く、どういう人を採用すれば長く続けてくれるのか、どういう人がこの仕事に向いているのかを見極めている時期でもありました。それが1年かけて蓄積されたことで、2年目以降は成果として現れてきたと思っています。ご心配をおかけしたのは事実ですが、社員数はグループに加わった当初の10名弱から、今は22名を超えました。倍以上になった計算です。
小田:人が増えたことで、社内にはどのような変化がありましたか。
藤井:事務所を新たに追加で借りて、仕事がしやすく、物の管理もしやすくなりました。湊社長がまんべんなく目を配ってくれていますし、いい感じで回っているのかなと思います。実際に人が増え始めたことで、社員自身にも余裕が出てきました。以前は少ない人数でどうやって回すのか、どうやって休みを入れようかと、そればかりでしたから。人が少ない時には連勤も当たり前だったんです。そうでないと会社が回らなかった。今は連勤もほとんどない状態になって、辞める要因が一つ減ったのかなと思います。

変わらなかったお客様との信頼関係
小田:逆に、変わらなかったものについてはいかがですか。
藤井:心配していたことの一つが、会社が変わることでお客様がどう見るかという点でした。ただ、参画後に周辺のお客様へきっちり説明をして、理解していただけた。お客様が変わらなかったというのが、一番大きいと思います。
小田代:変わらなかったのはまさにそこで、お客様からの信頼度ですね。グループに入って評価が変わるのかなと思っていたのですが、全然変わらない。むしろ評価は上がっていますから、それは非常に良かったと思います。
小田: お二人が技術的にも経験的にも支えてくださっていることには大変感謝しています。冒頭でおっしゃっていた、エンドユーザーをしっかり見てお客様の目線で仕事をしていく。そのやり方も変わっていない。そこが本当に大切なことですね。
社員一人ひとりに起きた変化
小田:最近入ってきた社員の方々については、いかがですか。
藤井:正直、ここ1年半から2年くらいで入ってきた子たちとは、まだあまり話せていないので把握しきれていない部分があります。ただ、いろいろ準備している中で声をかけたりすると、のびのびと仕事をしているなという感じはします。
小田代:一方で気になっているのが安全面です。たまに現場に出ると、検電器を使わずに作業を始める姿を見かけることもあります。作業前に責任者が検電して「異常ありません」と確認してから作業にかかるわけですが、それとは別に、自分が着手する場所は自分で確認しなさいと、私は口を酸っぱくして言ってきたんです。その意識がまだ甘いかなと。実際に自分の身を守るのは検電器しかありません。我々は電気が「生きている」「死んでいる」という表現をするんですが、「ここは死んでいるから大丈夫だよ」と言われて作業したら、実際には生きていた。そういう事例がいくつもあるんです。だから必ず検電してくださいと伝えています。

小田:社員の数が増えていく中で、そうした基礎教育の部分はまだ強化する余地がある。そういう課題として受け止めています。
藤井:個々の性格の根本は変わっていないと思います。ただ、良いところが伸びたり、悪いところが少し抑えられたりという変化は見えますね。
小田代:仕事に対する取り組み方については、グループ入りしてから意識が上がったのかなと感じています。それを継続できるかどうかは別問題ですけれども、以前と比べて考え方が変わってきたような感じはありますね。
小田:人数が増えたことで、役割に余裕が出たことも大きいでしょうか?
湊:M&Aの前から会社にいた方々と、後から入ってきた方々とでは違いがあると思っています。特に以前からいた方々はかなり変わりました。最初の頃は、あまり他人に興味がないというか、教えることもせず「自分たちで勝手に触ってくれ」というストロングスタイルだったんです。今ではそれが割となくなり、後輩には声をかけてあげる、教えてあげるということができるようになりました。役割が明確になってきたと思います。
ある社員は、当時は現場に人がいなかったこともあって現場のマネジメントを担っていたのですが、正直それが得意ではなかった。今は少し現場から引いて、営業的な側面を担当してもらっています。そうしたらすごくハマって、現場ではじっくり考えられないことを、腰を据えて考えられるので、技術的なアドバイザーとしてお客様から大変高い評価をいただいています。これも社員の役割による変化の一つかなと思っています。
新しく入った方々は、この会社で電気をやりたいという気持ちで入ってきていますので、非常に真面目です。ただ安全面など基本的なところは、2~4年目の社員ですから、まだまだこれからですが、それでも意欲があるというのは評価してあげるべきところかなと思っています。

今後の展望
小田:今後、デルタックスをどのような会社にしていきたいとお考えですか。
湊:事業として大きく変えるつもりはありません。人々の生活のベースになっていると言っても過言ではない、重要な社会インフラである電気設備と誠実に向き合っていくという軸はこれからも変わらないと思います。一方で、働き方の面では、労働時間をなるべく短くする、過酷な勤務にならないようにするなど、時代の流れに合わせて変えるべきところは変えていきたいと考えています。
もう一つは人財です。これから働き手が減っていく中で、限られた人財の中で運営していかなければなりません。今いる社員を含め、これから電気設備の点検の仕事をやってみたいと思ってくれる人たちをマイスターエンジニアリングと協力しながら、いかに集めていけるかが課題だと思っています。
小田代:営業の強化も大きなテーマです。
湊:我々の商品は無形のエンジニアリングサービスなので、事業内容そのものを理解してもらうのがなかなか難しい。時間と技術者、機材の有無を組み合わせて営業をする必要があり、現場と機器を理解していないと前に進められない仕事です。そこをどう仕組み化していくかが、私の次の課題だと感じています。
藤井:あわせて大事なのが、次を担う中核人財を育てることです。最近入ったばかりの社員でも、良い芽があればしっかり育てていく。そうしないと、湊さんの仕事がどんどん増えてしまいますから。育成には一時的な労力が伴いますが、将来を見据えて誰に託していくかを考えていただければと思います。
湊:会社を大きく、強くすることも大事な仕事ですが、それ以上に自分の次を誰がどう担っていくかを見極めることが、非常に大事なミッションだと思っています。

承継を考える経営者の皆さまへのメッセージ
小田:最後に、承継を考え始めた頃のお二人と同じように、事業の今後を考えている経営者や後継者の方々へメッセージをお願いします。
藤井:最初はたくさんの悩みがあると思います。まずはマイスターエンジニアリングに話を聞いてもらうだけでも、安心できる部分が出てくると思います。不安なことを含めてぶつけてみて、誠実に答えてもらえるかどうかを見ていただければと思います。マイスターエンジニアリングは、当社がグループに加わった後もほかの会社のM&Aを進めていて、実績のある会社ですので、安心してご相談いただけるのではないでしょうか。
小田代:もう一つお伝えしたいのは、相手先とどれだけ良い関係を築いていけるかが、成功を左右するということです。我々もそうでしたが、声をかけてくる会社は何社もあると思います。その中でどこを選ぶかが、まず大事ですが、選んだ後は「自分で決めた会社だ」という気持ちをしっかり持って、いかに良い関係を築いていくかが一番大切だと思います。

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