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こういう子を救いたいと思っていた─元教員が読んだ『黄色い家』川上未映子著

今回は、川上未映子著『黄色い家』のレビューです。

第75回読売文学賞、王様のブランチBOOK大賞2023を受賞し、2024年本屋大賞にもノミネートされた作品です。


この小説はミステリーではないのですが、謎がいくつかあるので、ネタバレのないように感想を書きます。安心して読んでください。


問題を抱えた4人の少女と40代女性との疑似家族生活の物語

Amazonページの出版社によるあらすじはこちら。

十七歳の夏、親もとを出て「黄色い家」に集った少女たちは、生きていくためにカード犯罪の出し子というシノギに手を染める。危ういバランスで成り立っていた共同生活は、ある女性の死をきっかけに瓦解し……。人はなぜ罪を犯すのか。世界が注目する作家が初めて挑む、圧巻のクライム・サスペンス。

Amazonページあらすじ(中央公論新社より)

もう少し詳しいあらすじを紹介します。

  • 2020年、40歳の花は、ニュース記事に黄美子の名前を見つける。60歳の黄美子は若い女性への監禁・傷害の罪に問われ逮捕されたという。20年前に黄美子と深い関わりがあった花は、同居生活を送っていた蘭に連絡をとる。


  • 20年前、主人公の高校生、花は、母親の恋人にアルバイトで貯めたお金を盗まれ、途方に暮れていたところを、以前母親が1か月不在だった時に、一緒に生活し、世話をしてくれた黄美子という女性に助けられる。


  • 黄美子が知り合いから譲り受けた物件で、2人は「れもん」というスナックを開業する。黄美子の古い友人である、クラブのママ琴美と、裏社会に生きる在日韓国人ヨンスが何かと2人の生活を助けてくれる。


  • 黄美子と花は、花の同年代の2人、キャバクラで生計を立てていた蘭、裕福な家の生まれだが毒親の元に育った桃子と出会い、2人も「れもん」で働き始め、4人は「黄色い家」での共同生活を始める。


  • 生活費を稼ぐために、花はヨンスから紹介されたヴィヴと共に、カード犯罪の「出し子」という危険な仕事に手を染めます。やがて、蘭、桃子も「出し子」を始め、花がリーダー的な存在になっていく。


  • 花は、皆のために頑張っているのに、誰も理解してくれないと孤独を感じ、次第に暴走していきます。


  • 共同生活は、ある人物の死をきっかけに崩壊する。この人物が亡くなった経緯も謎だったが、終盤で明かされる。


  • 舞台は再び2020年。黄美子について知りたい花。蘭に連絡するも、拒絶された彼女がとる行動は。


登場人物と物語の流れは、このような内容です。花の母親はスナックに勤めていて、子どもに愛情を感じていないわけではないのですが、自分本位な生き方をしています。


花は2度に渡って母親に裏切られます。必死に貯めたお金を、1度目は母親の彼氏、2度目は母親に渡してしまいます。


黄の女、黄美子とは何者か

黄美子は母親の友人で、母親に頼まれて花と1か月暮らしたことがあります。母親と違い、布団をきちんと畳み、部屋の隅々まで拭き掃除をする黄美子。


1か月後、花が困らないように、冷蔵庫に食べ物をぎゅうぎゅうに詰め込んで姿を消した黄美子。


物語冒頭で語られるこのエピソードから、すでに読者は違和感を感じます。黄美子はニュースで報じられたような犯罪者のイメージとはかけ離れているからです。


黄美子は本当に若い女性を支配するような人物なのでしょうか。


名前にも含まれているように、黄美子は黄色へのこだわりを持っていて、風水にもはまっており、黄色いグッズを集めて「黄色コーナー」を作っています。花も影響を受けて黄色を大事にするようになり、4人で住む家の壁を黄色いペンキで塗ったりします。


黄美子は、店の経営に関わることが理解できていない様子。ヨンスが何かと黄美子のサポートをしています。


ある理由で「れもん」を失った後、花が「出し子」に手を染め、蘭や桃子を引き込んで「れもん」を復活させようとする際も、黄美子はぼんやりしていて理解できていない場面が何度かでてきます。


「そういう難しいことがわからない」というのが黄美子の口癖。ヨンスの言葉からも、黄美子には何らかの障害があることが示唆されています。


「よくわからない」と言いながらも、3人の少女たちとともに生活し、見守っている雰囲気。そっと寄り添い、言葉をかけ、一緒にテレビを見る。何をするわけでもないのですが、少女たちと一緒に居続ける黄美子。


花の母親は、金の無心に来る時だけ現れるのに対し、花に寄り添う黄美子からは「愛」や「母性」を感じます。物語が進んでいくにつれ、黄美子がなぜ犯罪者になったのか、という疑問が募っていきます。


社会の隙間にこぼれた少女たち

この本を中盤過ぎまで読んで、こんな投稿をThreadsにしました。

『黄色い家』を半分以上読んだところです。 私は元教員です。 主人公のように、学校に行く意味を見出せない子と、これまでたくさん出会ってきました。 お金にしか人生の価値がないと思っている子。お金のために苦労している親を助けたい、または、親のようになりたくない。だから自分は早く就職して早くお金を稼ぎたい。 専門学校や大学に進学するのは人生の遠回りだし、そんなお金もない。 バイトをして、昼間は疲れて眠ってしまい、高校を辞めてしまう。 辞めたら、バイト代では生活していけなくて、手っ取り早く働ける仕事につく。 主人公の花は、バイトして貯めたお金も、家出して水商売で貯めたお金も全部、母親にとられてしまいます。でも、母親は、悪気があってとっているわけではない。母親も、社会の闇に飲み込まれて、だまされている被害者。 それでも、疑似家族に初めて愛情を感じて、生きる希望を見出そうとする花。 どうなるんだろう。 こういう子を救いたいと思って頑張ってきたことを思い出しました。 社会が変わらなければ、個人が頑張っても無駄だとは思いたくなかった。

花の母親も、成育歴に問題を抱えていたのでしょう。花は必死に貧困のループから抜け出そうとするのですが、失望を何度も経験し、家出を決意したのです。


黄色い家に集まった4人は全員が貧困というわけではないのですが、本当の「家族の愛」を知らない、または欲していた4人だったのではないでしょうか。


「出し子」のアルバイトを紹介するヨンスも、在日韓国人として、差別と偏見の中で育ち、兄とともに裏社会の人間になった人。軽犯罪を繰り返して生きていますが、黄美子を不憫に思い、支えている、優しい心の持ち主なのです。


花の行動は犯罪なのですが、どうして罪を犯さなけれはならなかったのか、犯罪の入り口に気づくきっかけは存在したのか、簡単な言葉では語れない、少女のサバイバルストーリーだと思いました。


こうすればよかった。社会が悪い。犯罪は絶対にいけないこと。社会を変えなければいけない。そんな言葉が、どれも当てはまるようで当てはまらない。


考えれば考えるほど、花にとっての幸せが何だったのか、わからなくなるんです。しかし、物語の最後に花がとったが、すべてを物語っています。


花は、誰かに寄り添ってほしかったのだと。


ぜひ、最後まで読んで確かめてみてください。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました!


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秋月みりーほ | 人生の選択を、自分の言葉で 最後までお読みいただきありがとうございます。 いただいたチップで、本や有料記事を購入して、自分の文章に磨きをかけたいです。皆さんに還元できるような記事が書けるよう、応援してください! あと、たまにスタバのコーヒーが飲めたら、舞い上がって喜びます✨

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