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【直木賞候補作】塩田武士『踊りつかれて』レビュー──匿名の暴力と希望の物語

第173回芥川賞・直木賞の、「該当作なし」という報道に耳を疑った方も多かったと思います。私もその一人でした。


直木賞候補作の中に、今回紹介する作品『踊りつかれて』がありました。作者の塩田武士さんは、前作『存在のすべてを』で直木賞を受賞しなかったのがむしろ不思議なくらいです。



それくらい、前作は圧倒的な傑作でした。読後、しばらく放心状態になってしまったくらい。


それだけに、直木賞候補作になった今作は、どのような内容なのか、とても気になりました。


480ページの大作でしたが、あっという間に読み終わる、衝撃的かつノスタルジックな作品でした。私たち一人一人が、「自分のことかもしれない」と、自分を問いたださなければならない。そんな問題が浮き彫りになった作品です。


この作品の最後には、物語全体に影響を与える謎の答えがあります。そのネタバレが決してないように感想を書きました。安心して読んでください。


📕あらすじ


首相暗殺テロが相次いだあの頃、インターネット上にもう一つの爆弾が落とされていた。ブログに突如書き込まれた【宣戦布告】。そこでは、SNSで誹謗中傷をくり返す人々の名前や年齢、住所、職場、学校……あらゆる個人情報が晒された。

ひっそりと、音を立てずに爆発したその爆弾は時を経るごとに威力を増し、やがて83人の人生を次々と壊していった。

言葉が異次元の暴力になるこの時代。不倫を報じられ、SNSで苛烈な誹謗中傷にあったお笑い芸人・天童ショージは自ら死を選んだ。ほんの少し時を遡れば、伝説の歌姫・奥田美月は週刊誌のデタラメに踊らされ、人前から姿を消した。

彼らを追いつめたもの、それは――。



* * *



■宣戦布告■



よく聞け、匿名性で武装した卑怯者ども。



SNSなんてなくなればいいのにな。えっ、ダメ? 余計なこと言うなって? そうだよなぁ。やっとおまえら権力者になれたもんな。炎上させて誰かが何かを諦めたときに、社会を変えてやったと実感できるもんな。そうやって表面的な正義感で研いだナイフで、悪意の塊でつくった毒で世直ししてるもんな。



やっぱり俺は週刊誌とおまえたちを赦せない。

だからやってやるよ。俺には俺の、ケジメのつけ方ってもんがあるんだよ。



これから重罪認定した八十三人の氏名、年齢、住所、会社、学校、判明した個人情報の全てを公開していく。

八十三なんて数字は氷山の一角に過ぎない。だが、図に乗ってると、次はおまえの番になるから肝に銘じておけ。



明日にはおまえたちの人生はめちゃくちゃになっている。

奥田美月や天童ショージのように。

せめて今日を楽しめ。あばよ。

文藝春秋によるAmazonページのあらすじより



📕SNSの匿名性は、なぜこんなにも人を攻撃的にするのか

奥田美月を週刊誌で、天童ショージをSNSで追い詰めた83名が、『踊りつかれて』というブログの記事『宣戦布告』で個人情報を晒されるところから、物語が幕を開けます。


週刊誌の暴露記事により奥田美月は90年代に姿を消し、天童ショージは、SNSでの日に日に強くなる言葉の暴力により、自ら命を絶ってしまいます。


SNSで天童の不倫を責め立てていたのは、「普通の」人達でした。最初のうちは、みんなの感想に乗っかってSNSにコメントを書いていただけ。


でも、そのうち、どんどん言葉が攻撃的になっていく。そして、いつしか、攻撃的なコメントをするたびに、気持ちがスッキリした自分に気づいてしまう。


匿名性に守られていることで、簡単に人間は狂ってしまう。しかも、正しいことをしていると錯覚してしまう。その恐ろしい事実の描写に、ページをめくる手が震えました。


『踊りつかれて』で個人情報を暴露した瀬尾政夫。彼はブログで、「うしろめたさを知らない人間は、その無邪気さが刃になることを知らない。後ろめたさから逃れられない人間は、自らを正当化する過程で正義を失うことに気づかない」と語ります。


ある人物が物語後半で語った、次のセリフが、SNSによる現代病を明確に表現しています。


「SNSの最大の罪は、バラバラにあった多様性の象徴みたいな種々の物差しを、銀行の合併みたいに画一的にしていったことや。広まったように見えて、狭まったんや。」


SNSでは、多様な意見があふれているのに、ある日突然、何かのきっかけで、一方向に矢印が向いてしまう恐怖を感じさせる表現でした。


📕なぜ瀬尾政夫は、誹謗中傷を断罪したのか

瀬尾を弁護することになった久代奏は、天童ショージの同級生。なぜ瀬尾が自分を指名したのか。奥田美月、天童ショージとの関係についても探り始めます。


やがて、瀬尾が美月の音楽的才能を見出し、美月が有名歌手になる後押しをした人物だということがわかります。美月が壮絶な半生を送ったのち、夢を叶えた歌手だったということも。


では、なぜ瀬尾は美月だけでなく、お笑い芸人である天童のことも、自分の人生をかけてまで守ろうとしたのでしょうか。


その答えは、終盤に明かされます。天童の同級生でもあった久代を、瀬尾が弁護に指名した理由もわかります。


天童が何を思い、瀬尾がどんな思いで『宣戦布告』の記事を書くに至ったのか。瀬尾の願いは何だったのか。その謎が解ける時、この物語は幕を閉じます。


ぜひ、最後まで読んでください。SNS時代に翻弄されることなく、また悲観することなく、希望を持って生きることの大切さを教えてくれる物語でした。


私はnoteに希望を持って記事を書いています。SNSでの言葉を決して刃にせず、希望につなげたい。そんな思いを強くしてくれた小説でした。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。







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秋月みりーほ | 人生の選択を、自分の言葉で 最後までお読みいただきありがとうございます。 いただいたチップで、本や有料記事を購入して、自分の文章に磨きをかけたいです。皆さんに還元できるような記事が書けるよう、応援してください! あと、たまにスタバのコーヒーが飲めたら、舞い上がって喜びます✨

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