リビングが、私のアトリエ
洋裁日和〜リビングで作るということ〜
「さあ、始めよう。」
そう思ってから、10分ほど

まずは、リビングの机の上を片付けるところから始めなくてはならない。

普段の生活で使っていたものをしまい、裁断ばさみや定規、型紙を並べていく。
作業を始める前の、この時間も、もう仕事の一部になっている。
今の家には、作業部屋がない。
裁断も縫製も、リビングでするしかないのだ。

先日、つぶら君に聞かれた。
「なんでリビングで裁断するの?」
「ここしか広い場所がないからね。」
そう答えると、
「そうだね。」
と、あっさり返ってきた。
その一言が、妙におかしかった。
今日作っているのは、東京のお客様からご依頼いただいた一着。

袖ぐりの形を確認しながら、袖を丁寧につけていく。
静かなリビングで、一針ずつ作業を進める時間は、昔と何も変わらない。
けれど、ひとつだけ変わったことがある。
それは、作業を始めることよりも、「どこで終わるか」を考えるようになったことだ。
リビングは生活の場所でもある。
だから、広げた道具をきちんと片付け、元の暮らしに戻すところまでが仕事になる。
始まりと同じくらい、終わり方も大切なのだ。
和歌山ではコロナ禍も重なり、開店休業のような時間も長かった。
島根へ引っ越してから3年。
「洋服を教えています。」
そう伝え続けてきた。
すぐに生徒さんが集まるわけではなかった。
それでも最近になって、
「相談したいです。」
そう声を掛けてくださる方が少しずつ増えてきた。
大きな教室ではない。
専用のアトリエもない。
それでも、今ある暮らしの中でできることを続けていけば、必要としてくださる方とのご縁は少しずつつながっていくのだと感じている。
リビングは生活の場所。
でも、机の上に道具を広げれば、そこは私にとって小さなアトリエになる。
今日もまた、暮らしの中で、一着の洋服を仕立てている。
