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倫理観を軽視していたパルワールド ~他業種と異なるゲーム業界の暗黙知~

ゲーム好きの方であれば、この騒動はご存じかと思います。
今回の件は、ゲーム業界に興味のある方、またゲーム業界を目指している方にとっても学びのある出来事だと思い、取り上げることにしました。


巷では、「どの特許で訴訟をしたのか?」「なぜ今の時期なのか?」という考察が中心ですが、今回の出来事は以下の点が大事だと思っています。

開発元のポケットペアは、ゲーム業界のことを良く理解していなかった


それぞれの業界には、他業種とは異なる暗黙的な倫理観があります。
そして、その暗黙知は理由があるから存在しています。





《生活に必要のないものを売っている》

私の勤めていたゲーム会社の社長が常々言っていた言葉です。
これには、いくつかの含意があります。

  • 不景気になれば、まっさきに買われなくなる不安定な業界

  • ユーザーの期待を超える価値がなければ評価されない

という分かりやすい意味もあります。
しかし、直感的には分かりづらいですが、以下の意味もあるのです。

自社の行為が、他社にも迷惑をかけることになる


一般的な経営理論だけを学んできた人は、この観点が抜けていることがあります。


◎生活必需品では起きない現象

例えば、食品業界で A 社の商品に粗悪品が見つかったとします。
すると消費者は

消費者「じゃあ、B 社の商品を買おう」


となります。
他社の不祥事が、自社の好機になったりするのです。
これは良い悪いではなく、生活必需品にはそういう力が働くという意味です。

ゲーム業界ではどうでしょうか?
特にお子さんのいる家庭の場合は、そうはなりません。

母親「やっぱり、ゲームなんかは止めなさい」


こうなる危険があるのです。

素材提供:Adobe Stock


ゲームなんかなくても生活はできますし、もっと言えば、娯楽なんかゲーム以外にもあります。業界自体から、ユーザーが離れていってしまうわけです。


◎横のつながりが強いゲーム業界

ゲーム会社同士は、たしかにライバルです。
しかし、一緒にゲーム業界を盛り上げていく仲間であるという意識も非常に強いです。

ゲーム業界で コラボ作品 が多いのは、そのためです。
これは、生活必需品を販売している業種では、あまり見ない現象だと思います。

これは、単純に「その方が儲かる」というだけでなく、土台の脆いゲーム業界を少しでも強固なものにするために「協力して IP(知的財産)を育てる」という選択をしているためです。

そのため、ゲーム会社というのは IP の大切さを身をもって理解しており、他社 IP に対しても非常に気を遣います。
「著作権に触れていないから大丈夫」などという考えは持っておらず、他社 IP の広告効果に許可なく乗っかる、という行為自体がタブーなわけです。

素材提供:Adobe Stock


ゲーム業界の横のつながりは、古い慣習といったものではなく、何回も衰退の危機を経験してきた中から生まれた 教訓 でもあるのです。


《ゲーム業界における特許》

では、ゲーム会社は仲良しこよしで、馴れ合いをしているのかと言えば、そんなことはありません。自社 IP を守るための「刀」をしっかり研いでいます。
それを行っているのが各社の法務部です。


◎ゲーム会社の特許申請が多い理由

大手ゲーム会社は「それ、誰でも思いつくんじゃないか?」
というような特許をたくさん取得しています。

理由としては

「著作権」という権利は意外と弱い


という事情があります。
法律の内容には深く踏み込みませんが、「完全な模倣」や「データ流用」でもない限り、訴訟で勝つのは困難です。

素材提供:Adobe Stock


つまり、著作権だけでは自社 IP を守るには不十分なのです。
そのためにゲーム会社は特許をたくさん取得しています。


◎「抜かない刀」がゲーム業界の特許

しかし、それらの特許は ”行使されることなく” 多くのゲームで使用されています。各社が特許権を常に行使していたら、世の中のゲームの 99% は消滅するでしょう。

しかし、この特許の多さがゲーム開発の妨げになるということはありません。
それは、特許が行使されるのは、以下のような場合に限られるからです。

著作権的に踏み越えてはいないが、倫理的に踏み越えてきた場合


ゲーム業界における特許というのは、いつでも 斬り捨て御免 はできるが、抜くことはない侍の刀のようなものなのです。

素材提供:Adobe Stock


そして「相手に刀を抜かせるような真似はしてはいけない」というのがゲーム業界の暗黙の倫理観なのです。


《倫理観への意識が低かったポケットペア》

「パルワールド」の開発者インタービューを今でも見ることができます。その中に気になる一文があります。

「発売できるのか」というのは少し過激な質問ですが、弊社は真剣にゲーム作りに取り組んでおり、当然ですが、他社の知的財産権等を侵害する意図は全く御座いません。法務のレビューも受けており、現時点で他社様から何らかの具体的なアクションを頂いた事も御座いません。インターネットでは様々な噂が飛び交っておりますが、安心してご購入頂ければ幸いです。


やはり、倫理的に問題ないか の判断が、すっぽり抜けている気がします。
「利用できるものは利用して利益を上げるのは当然」というビジネスマインドだけで判断してしまったのかもしれません。

また、レビューを行った法務関係の人(法務部か顧問弁護士か不明ですが)も、ゲーム業界に詳しい人ではない気がします。
詳しい人であれば「著作権には抵触していない」というだけで GO サインは出さないはずです。


◎自分たちが「何をしたか」に気付けてはいない

訴訟を受けて、ポケットペアは声明を出しています。しかし、その中にも気になる一文があります。

今回の訴訟により、ゲーム開発以外の問題に多くの時間を割かざるを得ない可能性がある状況は非常に残念ですが、ファンの皆様のため、そしてインディーゲーム開発者が自由な発想を妨げられ萎縮することがないよう、最善を尽くしてまいります。


今回、余計なコストを背負ったのは「刀を抜かざるを得なかった」任天堂の方になります。
そして、他のインディーゲーム開発者が、同特許で訴えられることはありません。寧ろ、任天堂が訴訟に出なかったら、自社 IP を育てている他のゲーム会社が安心して開発を続けられなくなります。

やはり、自分たちのどの行動に問題があったのか?という部分が、まだ理解できていないのだと思います。




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