【企画参加】風🍃チリンっと鳴るたび思い出す夏の話🎐
どうも、ミナトです。(๑╹ω╹๑ )
今回は、【ちび創作大賞】に参加してみました⸜(*ˊᗜˋ*)⸝
テーマは天野 雫さんの「風」です。
バスを降りると、夏のにおいがした。

青い稲が、風でいっせいに揺れる。ざわざわという音が、波みたいに田んぼの向こうまで走っていく。
汐は麦わら帽子を押さえて、その音の行く先を目で追った。
祖母の家は、この道の突き当たりにある。
もう、誰も住んでいない家。
今日は、その片付けに来た。夏の間に家の中のものを整理して、少しずつ空っぽにしていく。大人たちはそう決めた。
仕方のないことだと、わかっている。
わかっているけれど、足は少しずつ重くなった。
風だけが、あの頃と同じ速さで、汐を追い越していった。
家の中は、時間が止まっていた。
畳のにおい。日に焼けた柱。茶の間の隅には、あの古い扇風機がまだ置いてあった。
スイッチを入れると、ぶぉん、と懐かしい音を立てて首を振り始める。

子どもの頃、汐はこの扇風機の前に陣取るのが好きだった。顔いっぱいに風を受けて、あーーーと声を出すと、声が震えて宇宙人みたいになる。
「汐は風が好きだねえ」
祖母はいつも、麦茶を出しながら笑っていた。
「ばあちゃんもね、風の音がすると、寂しくないんだよ」
あの時は、意味がよくわからなかった。
一人で住むこの家で、祖母が何を聞いていたのか。風鈴の音か、稲の揺れる音か、それとも
もういない誰かの、気配のようなものだったのか。
扇風機の風が、埃をすこし舞い上げた。
光の中で、埃はきらきらと踊って、消えた。
片付けは、夕方までかかった。
最後に残ったのは、縁側の風鈴だった。
祖母が毎年、夏のはじめに吊るしていたガラスの風鈴。青い金魚が描かれていて、短冊はもう日に焼けて白くなっている。
これも、外さなきゃいけない。
汐は縁側に立って、手を伸ばした。

その時だった。
りん、と鳴った。
風が、吹いた。
田んぼを渡ってきた夕方の風が、庭の木を揺らし、汐の髪をさらって、風鈴を鳴らした。
りん。りりん。
夕焼けの光の中で、ガラスの金魚がゆらゆらと泳ぐ。
風の音がすると、寂しくないんだよ。
祖母の声が、聞こえた気がした。
ああ、そうか、と思った。
風は見えない。もういない人と、同じで。
音がする。髪が揺れる。風鈴が鳴る。
私が風を覚えている。匂いも。
ちゃんと、そこにいるのだ。
汐は鞄の中にそっと風鈴をいれた。
連れて帰ることにしたのだ。

自分の部屋の窓辺に吊るそうと思う。
都会の風は田んぼを渡ってこないけれど、それでも風は吹く。
ビルの間を抜けて、洗濯物を揺らして、きっと窓辺まで届く。
そうしたら、りん、と鳴る。
その音がするたび、思い出せばいい。
青い田んぼも、古い扇風機も、麦茶の氷の音も、「風が好きだねえ」と笑ったあの声も。
夜風が、背中を押すように吹いた。
振り返ると、誰もいない家が、夕闇の中で静かにこちらを見ていた。
「また来るね」
汐が言うと、返事の代わりに、鞄の中で小さく、りん、と鳴った。
風は、見えない。
だけど、いなくなった訳じゃない。
それを教えてくれるために、
夏の風と共に、風鈴は鳴るのだと思う。

今日はここまで✨️
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