母は今日も怒っている。
僕は32歳になった今も、毎日実家でご飯を食べる。風呂も洗濯も実家。
ただ、寝るのは自分の家だ。実家から歩いて2分のアパートに帰る。
この話を友人にすると決まって「それなら実家に住めば?」「アパート代もったいなくない?」と言われる。
でも、この生活には理由がある。
僕の母は、ヒステリックなのだ。
芸人ラランドの“お母さんヒス構文”を聞いて思わず「これ、僕の母の話だっけ?」と思ったし、安心した。この世の中にはたくさんのヒスお母さんであふれているのだ。是非、喫茶店などに集まりコーヒーフロートを溶かしながら語り合いたいものだ。
小さいころから、母の料理を食べていると
「私が頑張って作っても誰も美味しいって言わない!美味しくないなら食べなくていいのに!」
とブツブツ言われる。
慌てて「美味しいよ」と返すと、
「私が言ってから美味しいって言うんじゃ遅いのよ!」
とさらに怒られる。
最近も、実家の冷蔵庫にR-1がたくさん入った袋が二つあったので「飲んでいい?」と聞くと、
「いっぱいあるから飲んで!でも手前から飲んでね!」
と言われた。
しかし二つとも同じくらい手前にあった。間違えると怒られるので「どっち?」と尋ねると、
「手前って言ってるんだからこっち!」
と片方の袋をグイッと後ろに押し込み、もう一つを指さした。
あまりに自然な動作だったので、思わず「え?」と思った。
「今さ、同じ位置にあったのに、こっちの袋を後ろに押したよね?」と聞くと、
「うるさい!賞味期限見ればわかるでしょ!早いほうから飲んでほしいの!なんでこんなこと言わないと分からないかな!」
と倍怒られた。
その日は、負けてはいけない気がしてしまい、僕は反撃した。
「どっちかわからなかったから確認しただけだし、事実として同じ位置にあったのに、なんでこんな怒られなきゃいけないの?」と伝えると、
「見たらどれが賞味期限早いかなんて分かるでしょ!全部私が説明しないと分からないの?」
と倍の倍怒られた。
もうめんどうになってしまったので
「倍〜の倍のファイト、倍倍ファイバイCANDY TUNE〜」と歌いながら自分の家へ逃げた。ある程度の距離が必要なのだ。
翌日には、僕も母も何事もなかったように過ごす。次の日に持ち越さないのが、僕らのルールだ。
ここまで読むと母の悪口を書いているように見えるかもしれない。
でも、僕は母にとても感謝している。
僕は会社勤めをしながら画家として活動している。
仕事のあと家事をして絵を描くとなると、どうしても制作時間が削られてしまうし、体力的にも厳しい。なので実家に甘えている。
母も僕の画家としての挑戦を応援してくれている。
だから僕は、日頃の感謝を込めて、美味しそうなお菓子やお酒を見つけると買って実家へ持っていく。
母と分けて食べて、同じ味に感動する時間が、僕はけっこう好きだ。少し不器用なまま同じテーブルに座り、同じ味を分け合う。
母の怒りは突然で、僕には理解できないことも多い。それでも、僕の絵を誰よりも応援してくれるのは母だ。
親子というのは、不思議だ。一番近くにいるのに、一番うまく気持ちを伝えられない。それでも、今日もまた同じ食卓を囲む。
それが親子というものなのかもしれない。
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