今日のジャズ: 6月18-19日、1985年@ニューヨーク “Sister Cheryl”by Tony Williams
June 18-19, 1985 “Sister Cheryl”
by Tony Williams, Wallace Roney, Donald Harrison, Bobby Hutcherson, Mulgrew Miller & Ron Carter at M&I Recording Studios, New York for Blue Note/Capitol Records (Foreign Intrigue)
一言で表現するなら初夏の透明感。現代ジャズドラミングの完成系を築き上げたトニーウィリアムスによる爽やかなニューヨークの響きが感じられる演奏です。この稀代の天才ドラマーの産み出した名曲で、生涯にわたって演奏し続け、ウィントンマルサリスのデビューアルバムでも演奏されています。
以下紹介曲での演奏から約二十年が経ち、ウィリアムスの叩き方や演奏スタイルが随分と変化して、リズムの取り方の自由度が更に高くなっていることが分かります。いわゆる「チンチキ、チンチキ、ガシャーン」という典型的なスタイルから脱却しているのです。そして全体的に音の鮮明さと新鮮味を強調した録音となっています。
ドラマーがリーダーとなる作品は、テクニックに焦点を当てるか、作曲や編曲を推すパターンのどちらかのスタンスを取るパターンが多いように思いますが、この演奏で体現されているように両方を追求できていているのが天才たる所以だと考えます。それは大御所ドラマーのアートブレイキーが長年に亘って率いたジャズメッセンジャーズの進化版のように感じられます。これは現在最高峰ドラマーの一人、ブライアンブレイドが統率するバンドにも引き継がれる天才の系譜だと思います。
本演奏では、自ら叩く自由度の高いドラムに対して、若手主体のホーンセクションには統制を効かせる事でリズムをキープしてバランスを取り、そこに清涼感あるビブラフォンとピアノを交互に浮遊させる構成です。
マイルスの後継者と形容されたウォレスルーニーによる溌剌とした音色で展開するトランペット、爽快なボビーハッチャーソンのビブラフォン、軽快なマルグリューミラーのピアノのソロが続きますが、それもマイルスバンド時代の勝手知ったる盟友ロンカーターの堅実でやや粘着質のベースがあって成立しています。各演奏者の個性を活かしながらも、まとまりのある調和したオーケストレーションとなっているのは、リーダーのウィリアムスの手腕によるものと推測します。特に音域が重なる難易度の高いピアノとビブラフォンが織り成す調和が素晴らしいと思います。
乾いた冒頭のドラムの鳴り、ズシンとくるタムタム、響き渡るシンバル、とめどなく押し寄せて尽きることの無い荒波のような自由奔放なリズムが聴きどころです。ドラムを追っかけて聴くと、リズムが何処かで裏返って気付いたら戻っている、そんな感じです。ソロ演奏者の伴奏でもタイトな刻み方を交えて、絶えず鼓舞することで演奏に刺激を与えていることが分かります。この演奏者の中では最古参のベテランに入るボビーハッチャーソンのビブラフォンへの鼓舞が一際激しく聴こえるのは、ウイリアムスとほぼ同世代演奏者への愛の鞭のように聴こえます。
オーディオ的には乾いたバスドラムに加えて、ビブラフォンの響き方、5:32からのバシャバシャ大きな水飛沫を左右からかけるようなシンバルが聴きどころです。
新生ブルーノートレーベルによる作品で、ブルーノートのオタクであり、未発表音源発掘家のマイケルカスクーナのプロデュース作品です。スタジオはルディバンゲルダーではなくて、45番街のタイムズスクエアから二ブロックの好立地、名門ジャズクラブのバードランドと同じブロックにあるM&I Recording Studioが採用されています。同スタジオのホームページには、本作を含めた収録アルバムの写真が掲載されています。

そのスタジオのピアノは、マンハッタンでも指折りと自称する1924年製のスタインウェイBモデルだそうです。それを意識して改めてピアノを聴いてみるとスタインウェイ特有の鳴りと響きが味わえます。少し古風なためかキレ重視で響きが軽く聴こえますが、本曲にかなりフィットしている音色です。

因みに同じく1920年代に製造されたフランス産プレイエルの音色に興味がある方はこちらをご覧ください。こちらはチェンバロ的な響き方で、音色がかなり異なります。
そのスタインウェイBシリーズを購入されてバリバリ弾きこなしている超有名な演奏家、かてぃんさんの記事がありましたので、そのリンクを貼らせていただきます。ここまで弾きこなせるとピアノも嬉しそう。
本収録スタジオから歩いて10分程の近くにある、名門アバタースタジオでの収録作品はこちらからどうぞ。季節の違いとスタジオの個性が空気感や音質から感じ取れるかも知れません。
最後に、ウィリアムスの名演は、こちらもどうぞ。テナーの巨人にすら容赦無く叩きまくって新たな一面を引き出しています。
