見出し画像

ジャズ記念日: 5月16-17日、1966年@ニュージャージーRVG

May 16-17, 1966 “Summer Samba”
by Walter Wanderley, Joe Grimm, Bucky Pizzarelli, Urbie Green & Bobby Rosengarden at Rudy Van Gelder Studio Englewood Cliffs for Verve (Rain Forest)

米国での1960年代のボサノバブームを受けて、ジャズとボサノバの融合が進行していきます。本曲は、ブラジル人オルガニスト、ワルターワンダレイによるブラジル人作曲家マルコスヴァーリの楽曲の米国録音作品です。北半球の春の季節に録音された「サマーサンバ」は、陽射しがそれほど強すぎない良い塩梅で、日光浴にはもってこいの心地良い感じの雰囲気です。

「ブラジルのナンバーワンオルガニスト」という触れ込みがアルバムジャケットに記載されているワンダレイの本作は、アメリカ市場向けにジャズ風の少し落ち着いたテンポとリズムでアレンジされた、プロデューサーの意図が明確に反映された内容かと推測します。

何処かで耳にした事があるメロディー、まさにこの音楽、昭和時代の学校の給食時間にBGMとして流れていそうな雰囲気があって微笑ましさもかんじます。明朗で耳触りが良くて万人受けしますよね。そしてトーンが全体的に明るくて春先にピッタリの作品です。

親友の結婚パーティー用の音楽の選曲を依頼されて、催し物後の歓談タイムに本アルバム楽曲を採用したところ、温まった会場の雰囲気をごく自然に引き継いで良い塩梅に談笑を盛り立て、見事にはまった様を見て一人満足していたのは忘れられない思い出です。

しかしながら、耳を凝らしてよく聴いてみると、そこにはイージーリスニングよりも奥深い世界があります。それは、本作品の翌年にCTIレーベルを立ち上げて、ジャンルを超えたクロスオーバー音楽を開拓した名プロデューサーのクリードテイラーと、決して手を抜かない名エンジニアのルディバンゲルダーによる録音という組み合わせだからかと思います。加えて本ヴァーヴレーベルを代表するヴァルヴァレンティンまでもが、録音エンジニアとして名を連ねる、大変豪華な布陣もあってか、音楽の構成も演奏品質もさることながら、録音もすこぶる良いのです。

ワルターワンダレイのアルバムにブラジル録音作品とアメリカ録音作品があって、聴き比べると前者はサンバ的にテンポが速く、後者はジャズ寄りのゆったりとしたテンポで収録されています。ブラジルではダンスを、アメリカではイージーリスニングを前提とした音作りをしていると推測します。その背景からか伴奏者はブラジル人とアメリカ人の混成になっていて、サンバでもなく、ジャズでもない、ボサノバ特有の中間を行く丁度良い塩梅のバランスが取っているように思われます。結果、冒頭から最後まで、耳心地良い、決して嫌味にならない軽快さで駆け抜けて行って、何度聴いても飽きない名盤となったのでしょう。

ワンダレイは、これまで紹介した、コッテリとした黒人系オルガン奏者のスタイルとは一線を画しています。左手でバックグラウンドミュージック的な和音を小さな音で地味に長きに渡って流しつつ、右手で際立った旋律を奏でるというスタイルが、典型的なジャズ奏法とは異なるのも面白いところです。軽快なサウンド志向なので、ジャズオルガンに必須のレスリースピーカーが使われている形跡は感じられません。

この曲はスタンゲッツのボサノバの名盤、本作約二年前の”Getz/Gilberto”で名を成した女性ボーカリスト、アストラッドジルベルトにも取り上げられて有名となったスタンダード曲です。因みに、その”Getz/Gilberto”は、先のヴァーヴレーベル、クリードテイラー、ヴァルヴァレンティンの組み合わせは同じです。録音スタジオと録音技師が異なるので、そこを意識して聴いてみると面白いかもしれません。

アルバム名は、ブラジルらしく翻訳すると「熱帯雨林」で、アルバムジャケットは、ヴァーヴを始めとして数え切れない程のアルバムジャケットを手掛けたアーシーリーマンによるものです。有名なところでは、ビルエバンスの以下名盤があります。本作も含めて文字のフォントの使い方に特徴があるようです。これらの制作側の組み合わせは、ヴァーヴの王道の一つの形と言えそうです。

瑞々しい演奏の「お城のエバンス」

そして本アルバムの裏側には、曲目リストとライナーノーツが達筆なコメントとサインと共にあって、一見よく分かりませんが、これは男性ジャズボーカリストの大御所、トニーベネットによるものです。

「エラ、エリントン、ベイシー、シナトラが好きなら、ワルターワンダレイの音楽も気に入るでしょう」と最大の賛辞を送っています。

ワンダレイとアストラッドジルベルトの本曲の共演作にご興味があれは、こちらもどうぞ。ブラジル陣ミュージシャン主体で編成されていて、ノリが更に軽快な演奏です。ポピュラーミュージックとして、ラウンジかプールサイドで流れている感じでしょうか。本日の紹介曲と制作陣も録音スタジオも同じ、且つ四ヶ月後に収録されたアルバムなので、その聴点での愉しみ方はありそうです。硬派のイメージの強いルディバンゲルダーが、こんなポップなアルバムまで手掛けていたとは意外な発見でもあります。音楽は異なれども、いつもの通り、しかめっ面で手を抜く事なく生真面目に録音していそう。

最後に、やっぱり泥臭いオルガンが好き、という方はこちらをどうぞ。ハモンドオルガンの歴史についても触れています。

ボサノバのリズムと共に素敵な一日をお過ごしください。

いいなと思ったら応援しよう!