今日のジャズ: 2月17日、1986年@ハリウッド “So What” by Larry Carlton
“So What” recorded on Feb. 17, 1986
by Larry Carlton, Gary Grant, Jerry Hey, Mark Russo, Terry Trotter, Abraham Laboriel, John Robinson & Alex Acuña at The Baked Potato, Hollywood for MCA (Last Nite)
ラリーカールトンと言えば、フュージョンやロック、特にスティーリーダンでの活躍に象徴されるスタジオミュージシャンとしての敏腕ギタリストのイメージが強い側面がありますが、ジャズを題材として自らの音楽観に基づく自在な演奏を手掛けているのがこのアルバムです。
自身同様にテクニシャンなスタジオミュージシャンを揃えて迎えた本ライブアルバムのコンセプトは、Mr.335のニックネームを持つ愛用の銘ギター、ギブソンES-335ではない別のギターで演奏する、という企画でもあります。採用された曲には、帝王マイルス屈指の名盤”Kind of Blue”からの二曲が含まれており、その一つがアルバムの冒頭に配置された名曲”So What” です。本演奏に近いテンポの速いマイルスのライブの名演はこちらをどうぞ。
カールトンの代名詞となる335の特徴となる枯れながらもソリッドなトーンが、EMGが搭載されたValley Artsのカスタムストラトタイプに代わり、更に引き締まった硬めでエッジの効いたトーンになっているのが本作の味わいどころです。
一聴しただけでは全く分からないのですが、カールトンによると、ドラマーのジョンロビンソンには、この曲目は事前に伝えていなかったそうです。にも関わらず、オリジナルよりもかなり早いテンポで口火を切る冒頭のカールトンによるフレーズで即座に曲を認識して、辣腕セッションミュージシャンの見事な順応力で追随し、序盤には追い付き、刺激的なアドリブで追い抜き、反撃に出て周囲を鼓舞しています。さながら、先のマイルスのライブ演奏において緊張感に満ちた刺激的なドラミングで牛耳るトニーウィリアムスのようです。
この恐るべき実力を誇るロビンソンの経歴を見ると、その訳も理解できます。マイケルジャクソンの実質的な初ソロアルバム”Off the Wall”(1979年)では、記憶に残る冒頭でのキレの良いドラム捌きを披露していますので、お聴きになられた方も多いのではないでしょうか。
その後、本作前年にはあの、”We Are the World”のセッション(メイキング映像に姿が見えます)やホイットニーヒューストンの”The greatest love of all”の収録に参加、本作翌年にはマイケルによる史上最も売れたアルバムの一つ”Bad”での同曲をはじめとする複数曲でタイトなリズムを刻み、その後にもエリッククラプトンの”Change the World”(1996年)でもその腕前を披露しているように、一流のミュージシャンとの共演歴があります。印象に残るキレの良いタイトなリズムが持ち味だと思います。ちなみに本作ホーンセクションのジェリーヘイとゲイリーグラントも辣腕奏者で、マイケルジャクソンの”Thriller”や、マイケルとポールマッカートニーの共演作”Say, Say, Say”でロビンソン同様にキレを信条とするブラスセクションの演奏を披露している面々です。
スタジオミュージシャンの仕事は、依頼主の要望に確実に応える事だとカールトンは話しています。こだわりが強く手厳しいスティーリーダンにも認められるのが、それを有言実行している証です。自身のリーダー作品となる本作では、本人をはじめとする演奏者が、その制約を解き放して自らの音楽観を存分に発揮している、高度なテクニックを持つミュージシャンのお手本的な演奏に縛られない、その場限り的な高度なセッションが味わえます。
スタジオミュージシャンのバックグラウンドとは言え、人間味のあるタッチをさりげなく絶妙な塩梅で表現するのがカールトンの天性です。正確なテンポを保ちつつ、絶妙なタメとES-335による微妙に枯れたトーンによって生み出されるセンスに溢れる旋律の組み合わせが、高度な指捌きと相まって決定的な個性となり、一線級で息の長い活動を続けています。
収録場所はハリウッドにある、”The Baked Potato”という、今でも営業しているジャズクラブです。残響からすると天井が高いような空間のある会場を思い起こしますが、写真を見るとかなり狭い場所だという事が以下の写真から分かります。このギャップがどう生まれているのか、感覚的には理解が難しいのですが、一部はライン録りとしながらも、ライブ会場の空間を含めてライブ音源のように録音やミックスの技術で演出した、ということでしょうか。おそらくは、普段はスタジオに籠っているミュージシャンをライブ会場に連れ出して、自由気ままに演奏させるという企画の意図が反映されているのかと推測します。

カールトンを始めとする敏腕ミュージシャン達の演奏を、こんなこじんまりとした会場の至近距離で聴けたら幸せでしょうね。
レーベルは、この当時シカゴブルースの老舗レーベル、チェスレコードやR&Bの名門レーベルのモータウンを買収して勢いに乗っていたMCAです。
カールトンについては、名盤”Room 335”に焦点を当てた興味深い日本制作のドキュメンタリー番組映像がありましたので掲載しておきます。本作に参加している業界指折りのベーシスト、グルーブ感に秀でたエイブラハムラボリエルも登場しています。
ラリーの最近のステージは本人がこれまでに関わった有名曲で構成されていて、マイケルやスティーリーダンの曲も取り上げられます。生で本人による”Black Cow”の演奏を聴いたら鳥肌が立ち、涙が止まりませんでした。
街に出てライブ感に溢れる素敵な一日をお過ごしください。
