今日の音楽: 坂本教授とTVCM、そして映画
“1996” by Ryuichi Sakamoto, Jaques Morelenbaum & Everton Nelson at Right Track Studios, NY for Güt, FOR LIFE RECORDS(1996年5月17日リリース)
テレビを流しながら本を読んでいたら、思い入れのある音楽が流れて来て思わず画面を見ると、それはビールのCMだった。こちらがその映像。
これは坂本龍一教授による、バイオリンとチェロを交えた変則トリオ演奏のスタジオ収録アルバム『1996』からの一曲。同アルバムからはリリース当時にもう一曲、本人出演のテレビCMにも採用されていて、その音楽の斬新さが非常に印象深く、鮮明に記憶に残っている。
調べてみると、教授は人気で多作家ということもあって、テレビ番組のテーマ曲やコマーシャルを手掛けたり採用される実績が多く、『CM/TV』という採用曲をまとめたコンピレーションアルバムも発売されていた。

全50曲が収録されている
話を『1996』に戻すとして、なぜ本アルバムに思い入れがあるのかというと、楽曲とアコースティック演奏が秀でているのはもちろんのこと、その演奏をテレビでほぼリアルタイムに視聴にしたから。モラトリアム終焉を迎える間近、深夜までテレビをボーッと眺めてチャンネルを回していたら、同トリオによるワールドツアーのドキュメンタリーが放送されていて、その演奏に惹き込まれて最後まで見入ったという思い出。思い起こして、検索をしてみると一昨年、鬼籍に入った教授を追悼して「東京・オーチャードホールでの公演を約28年ぶりに放送」という触れ込みで、昨年ケーブルテレビで再放送されているのを発見した。随分と昔の出来事で年月の経過を認識しつつ、時を経てもこのような形で改めて視聴出来るのは本当に有り難い。
2ヶ月間、15ヶ国37ヶ所に及んだというワールドツアーにおける東京公演についてはDVDも発売されているので、興味がある方は、是非ご覧ください。演奏の一部はこちらをどうぞ。
格好良くて痺れますね。そして、ライブ演奏だけあって観客との一体感が楽しめます。本アルバムに話を戻すと、収録曲は以下の通りで、主要楽曲の再演が大半だから、「まさに、ベストアルバム。」の本作の売り込み文句通りのラインナップで私の愛聴盤の一つになっています。
1 ゴリラがバナナをくれる日
2 Rain
3 美貌の青空
4 The Last Emperor
5 1919
6 Merry Christmas Mr.Lawrence
7 M.A.Y. in The Backyard
8 The Sheltering Sky
9 A Tribute to N.J.P
10 High Heels (Main Theme)
11 青猫のトルソ
12 The Wuthering Heights
13 Parolibre
14 Acceptance (End Credit) -Little Buddha-
15 Before Long
16 Bring them home
一つ目のCM曲はその2曲目、名画『ラストエンペラー』収録曲の”Rain”の再演です。鼓膜の高域の極限まで震わされ、聴力が試されるような官能的なバイオリンは、1966年から1970年までニューヨーク・フィルハーモニックのコンサートマスターだったDavid Nadienによるもの。因みに教授は、スタインウェイピアノの最高級Dモデルを演奏していて、録音品質も良いので本アルバムはオーディオチェックのリファレンス音源としても利用できます。
腕前は「バイオリニストの王」ヤッシャ・ハイフェッツに比肩するとされる、そのナディアンによる『白鳥の湖』のソロの動画はこちらからどうぞ。バーンスタインが指揮するニューヨーク・フィルでの見事な演奏です。
二つ目のCM曲は前衛的で緊張感に溢れる5曲目の”1919”です。本アルバム唯一のオリジナル曲でウラジーミル・レーニンによるスピーチが背景に使われているそう。そのレーニンが、世界革命を推進するためにコミンテルンを創設したのが、1919年です。
『ラストエンペラー』(1987年公開、ベルナルド・ベルトルッチ監督、イタリア・中華人民共和国・イギリス・フランス・アメリカ合衆国合作)のタイトル曲も収録されています。荘厳な雰囲気の中に、虚無感が漂っているのが印象的です。
『ラスト・エンペラー』と同じくベルナルド・ベルトルッチ監督によるキアヌリーブス出演映画、『リトル・ブッダ』(1993年公開、英国・フランス合作)のエンディングテーマもあります。何処となく刹那を感じます。
教授、デビッドボウイと北野武さんが共演した映画『戦場のメリークリスマス』(1983年公開、大島渚監督、日本・英国・オーストラリア・ニュージーランド合作)の主題曲も演奏されていて筆舌にし難い素晴らしい出来です。シンプルに主旋律を紡ぐピアノをベースにチェロのふくよかな中音域と空を舞うような旋律を奏でるバイオリンの掛け合いは何度聴いても飽きません。
ブラッドピット出演映画『バベル』(2006年公開、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督、米国製作)のエンディング曲『美貌の青空』もこのアルバムの演奏からです。そう言えば、この印象的なラストシーンにも坂本龍一さんと個人的な付き合いがあったという役所広司さんが登場しています。先のCM同様に教授の音楽との相性が良いのでしょう。
そして本アルバムには、他にも二曲、映画のサウンドトラック採用曲の演奏があるように本作を通じて教授の音楽が映画にも多く起用されていることを実感します。教授が、言葉や映像だけでは伝えきれない雰囲気や感情を映像に寄り添って音楽で表現することに秀でていたことの証でもあります。その音楽や演奏を聴くと惹き込まれて感情が揺さぶられるのです。
因みに「教授」の愛称はYMOのドラマー、高橋幸宏さんが出会った当時、坂本さんが東京芸大の大学院生だと知り「プロフェッサーだから教授」と言ったのが始まりだそうで、当時、大学院生のミュージシャンが稀だったという背景があるようです。
最後に、宣伝ではありませんがTVCMのビールは、「醸造家の夢」の名前に負けず、無濾過の複雑な旨味とホップの苦味のバランスが味わい深く、本アルバムを聴きながら教授を偲んで献杯するにも相応しいかと思います。ビールにピッタリの素敵な選曲ですね。
本日も充実した一日になりますように。
