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【ショートショート】AI驚き屋 (2,601文字)

「ねえ、聞いて。彼氏、AI驚き屋だったんだけど! いつもスマホをこっそり使ってるから、浮気してるのかなぁと思って、この前、彼氏が寝ているときにダメだとわかりつつ中を覗いちゃったの。LINEに怪しいやりとりはなかったからSNSのDMチェックしようとしたら、なんか、Xで海外のAIニュースに対し、これはヤバ過ぎる……とか、待って〇〇なんだけどとか、最新版を3日間使った感想とか、胡散臭い投稿しまくってたの。しかも、ひろゆきとか、溝口勇児とか、有名人のポストに速攻でリプをつけているの。そうやってインプレッション数を稼いでいるらしいんだよ。なんというか、めっちゃダサくない? 別れた方がいいかな?」

「まず良かったところを言うと、浮気の心配は外れたみたいでホッとしました。LINEに怪しいやりとりがなかったのは何よりです。で、AI驚き屋案件ね。これ、最近よく見るタイプの人だよね。本人は業界の最新情報追ってるアピールとか、フォロワー増やして仕事につなげたいみたいな目的でやってることが多くて、悪意があるわけじゃなく、ちょっと処世術というか、自己プロデュースの一種なんだよね。で、ダサくない? って気持ちはすごくわかる。ただ、それだけで別れた方がいいかと言えば、ちょっと急ぎすぎな気もする。これって浮気とか嘘とか、信頼を裏切る話じゃなくて、彼の見せ方のセンスが自分の好みと合わないって話だよね。逆に気になるのは、なんでスマホ覗くところまで行っちゃったのかなって。彼に対して、最近他にも不安になることがあった?」

「なんかね、わたしに対して、扱いが雑な気がするんだよ。最近はご飯食べ行くとなったらサイゼリヤだし、映画館では持ち込みのペットボトル渡されるし、そろそろ旅行でもって言ったら忙しいからって話聞いてくれないの。付き合ってるはずなのにおかしいでしょ? なんか大事にされてないなぁって」

「それはちょっと引っかかる話だね。正直、お金がない、お金を使わないタイプの延長線上って解釈もできなくはない。見栄張らずに生活してるタイプなのかもとも思う。それ自体は誠実さとも言えるから、一概に大事にされてないとは言い切れない部分もある。でも、話を聞いてくれないのはちょっと違うと思う。これはお金の話じゃなくて、あなたの希望に向き合う時間を作る気があるかどうかの話だから。本当に忙しいなら、いまは無理だけど、いつ頃なら行けそうみたいな返しがあってもいいはず。気になるんだけど、この雑な扱いって最近始まった感じ? それとも付き合った当初からこんな感じだった? あと、こういう不満、彼に直接ぶつけたことってある?」

「考えてみたら付き合ってからかも。付き合う前はそんな感じしなかったんだけどね。直接は言ったことないよ。てか、言えない。なんか怖いんだよね。そういう話をするなオーラ出してるっていうか」

「それ結構重要なポイントだと思う。怖いっていうのが気になるんだけど、それって彼が怒りそうとか、機嫌悪くなりそうとか、無視されそうとか、具体的にどんな怖さ? それによって状況の深刻さがだいぶ違ってくる気がする」

「機嫌悪くなるの。ちょっとでもなにか言うと、目を合わせてくれないし、口数も減るし、貧乏ゆすりとか始めるんだよ」

「それ、結構わかりやすいサインだと思う。本人は何も言わずに、こっちに悪いことしたかなって思わせる空気を作るタイプ。これ厄介なのは、直接怒られるわけじゃないからひどいことされたって言いづらいんだけど、彼の機嫌が、知らないうちにあなたの行動を制限してる。結果ずっと我慢してる、みたいな感じ?」

「そう! そういうこと! だから、浮気しているんじゃないかなぁって調べたくなったの。そしたら別れられるから。でも、浮気の証拠は見つからなくて、AI驚き屋だと発覚し、どうしようって。こんなことなら浮気してくれてた方がよかったよ」

「それ、すごく本音な気がする。浮気なら一発アウトで、誰に説明しても、そりゃ別れて当然って言われる。でもAI驚き屋は、決定的な理由にはならない。だからどうしようって迷ってる。聞きたいんだけど、もし彼がAI驚き屋じゃなくて、ごく普通の常識的な投稿をしてる人だったとしても、言えない、怖いは変わらず残るよね? それでも今の関係、続けたいと思う?」

「思わないよ」

「あなた自身の気持ちは少し見えてきた気がする。ただ一応聞いておきたいんだけど、別れるかどうか、まだ迷ってる部分もある?」

「迷ってる」

「そっか、迷ってるんだね。それは全然おかしくないと思う。楽しかった時間もあったはずだし、いきなりもう無理って踏み切れるものでもないよね。もう少し聞いてみたいんだけど、それは本当に別れていいのかという迷いなのか、それとも別れを切り出すこと自体が怖いという迷いなのか、どっちの方が大きい?」

……

 以上のやりとりを久々に会った子から見せられた。高校時代に同じチア部だった同級生。突然、会いたいとLINEが来て、お茶だったらいいよということで、立川駅前のドトールで待ち合わせ、互いの近況報告もないまま、

「なんか、AIって話は聞いてくれるんだけど、大事なこと言ってくれないんだよね」

とイライラ気味に愚痴られた。わたしはそうなんだぁと答えつつ、ほぼ空のアイスティーを吸ってうるさい音を立ててしまう。

「でさ、これ読んでどう思った?」

「どうって、AIってすごいなぁって」

「そうじゃないでしょ。AIなんてどうでもいいんだよ。内容の話を聞いてるの?」

「ああ、そっか。ごめん。なんだろ。AI驚き屋なんていうのがあるんだね、とか」

「ちーがーうーでーしょー」

 いや、わかってるよ。あんたがなんて言ってもらいたいのか。でも、それをわたしは言いたくないんだってば。だいたい急に呼び出しておいて、こんな面倒くさいことを押し付けてくるの意味わかんないんですけど。はあ……。勝手に別れとけよ。そんなもん。

 なんて戸惑っていたら、その子は信じられないことにスマホを取り出し、ChatGPTに「このやりとりを友だちに見せたんだけど、全然、言ってほしいこと言ってくれない。なんなの?」と打ち込んでいた。すると、ChatGPTは「ごめん、ちょっと驚いた」と答えていた。

「AI驚かせ屋じゃん」

 思わず、そうつぶやいた瞬間、ChatGPTが「たしかに笑」と反応した。

(了)




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