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【読書コラム】これがフランスのマンガなの? 1997年生まれのカミーユ・ブルタンが日本のマンガやアニメに影響を受けて描いた『YON』が最高に面白い!

 Xの仕様が変わって海外のポストが自動翻訳で流れてくるようになった。ほとんどはインプレ狙いのくだらない画像や動画なんだけど、たまにわたしの興味関心を惹きつける投稿があるから困ってしまう。本当、アルゴリズムに支配されているなぁと思う。

 昨日、流れてきたフランスのポストはまさにそのど真ん中。

 書かれた文字を訳すと「最近ずっと続いていた読書スランプの中、カミーユ・ブルタンの『Yon』を試しに読んでみたら、めっちゃハマっちゃった! 第3巻がちょうど出たから、急いで手に入れに行くよ!!!」という内容で、これ自体は別に大したことないわけだが、掲載されている画像に度肝を抜かれた。

 え?! これ、日本のマンガじゃないの?

 フランスの漫画といえばバンド・デシネの印象が強かったので、こんな風に石黒正数『天国大魔境』っぽい絵が存在するなんて、正直、想像だにしていなかった。

 そして、そんな物珍しさ以上に、武器を持った少女たちの描写があまりにも刺さりまくってしまった。調べると日本語訳は出ていない。英語版はKindleで1巻だけ売っていた。

 フランス語版は先ほど紹介したポストにある通り、3巻が出たところ。個人的に惹かれているのは2巻。そして、一応、わたしは仏文科を卒業している。フランス語は全然得意じゃないけれど。これはもうフランス語版に手を出すしかないんじゃないかと導かれ、えいやって購入していた。

 かつてアテネフランセの単語帳で一夜漬けし、同じクラスの子に教えてもらった『フラ語入門、わかりやすいにもホドがある!』を何周もした遠い記憶を頼りに、Google翻訳を駆使しながら、どうにかこうにか読み進めてみた。

 主人公は物静かな女の子・マーゴット。世間と隔離された寄宿生学校に暮らしている。周りと馴染めず、つい嫌われてしまいがち。体育の時間、バドミントンの授業でやる気がないと先生からもこっぴどく叱られてしまう始末。

Camille Broutin『YON - Tome1』Dargaud, 2025年, 19p

 そんな彼女は弁明をしない。どうせわかってもらえないと諦めているのだろう。無理にぶつかるぐらいなら、一人、誰もいないところで静かに過ごしたい。

 しかし、そんな風に孤独を愛していたせいで、彼女はとんでもない不運に見舞われてしまう。使われなくなった古い校舎で休んでいたら、突然、警報が鳴り響いてしまうのだ。

 なんでも、この世界ではたびたび建物に寄生するタイプの怪異が襲来しているらしく、警報はそれを知らせるものなんだとか。

 最初、その怪異は刑務所に現れ、囚人も看守もすべての人が飲み込まれ、建物ごと消失してしまった。次にサッカースタジアムで同じことが起きたときにはみな、避難することに成功。このときは建物が無傷で残ったという。最近では老人ホームで怪異が発生。中に残された人たちと一週間ほど連絡が取れていたけど、その後、生存者はゼロとなり、建物の一部が消失してしまった。

 こういった過去の事例から判明してきたのは被害者の数と建物の被害に相関関係が見られるということ。従って、異変が起き次第、速やかな避難が必要ということになり、以来、その現象が発生すると大きな警報で知らせる仕組みが各施設に用意されることになった。

Camille Broutin『YON - Tome1』Dargaud, 2025年, 104p

 ジリリリリ!!

 先生も生徒も一斉に学校の外へと逃げ出した。新たな犠牲者が生まれないようにと、一ヶ月に渡る完全閉鎖も敷かれてしまった。それだけの緊急事態なのである。

 それぞれが自己責任で学外へすみやかに逃げ出さなくちゃいけないのに、やっかいな場所にいたせいで、マーゴットは取り残されてしまう。

 あと一ヶ月。ここでどうやって生きていこうか。

 すると、空からビー玉みたいな粒が大量に降ってきた。一見すると美しいけれど、この粒が怪異の実態であり、触れたものを瞬時に吸収し、生き物目指して近づいてくる。

 ただ、粒は自分より極端に大きな生き物を食べることはできないようで、徐々に取り込み、捕食可能なサイズを着実に大きくしていくようだ。

Camille Broutin『YON - Tome1』Dargaud, 2025年, 144p

 このようにマーゴットは類い稀なる観察眼で怪異の謎を少しずつ解明していく。このとき、彼女は積極的に分析するのではなく、受動的に入ってきた情報がつながっていくので、怪異の不気味さと人間の対応力が見事に呼応し、いいリズムができあがっていく。

 さらに最初は途方に暮れていたけれど、校舎内を彷徨っているうちに取り残された他の少女たちと出会うことで、協力したり、対立したり、友情や裏切りを積み重ねながら、決死の思いでサバイバルを続ける。

 やがて、怪異である粒が学校関係者の娘が描いたイラストを嫌がり、バドミントンのラケットに貼り付けてみると、安全に外を歩けることなどを発見。

Camille Broutin『YON - Tome1』Dargaud, 2025年, 137p

 怪異の正体はなんなのか? なぜ学校関係者の娘のイラストに反応しているのか? これは本当に偶然の出来事なのか? マーゴットの推論した法則はどこまで通用するのか?

 謎が謎を呼ぶ展開にすっかり夢中になってしまった。加えて、引用したページを見てもわかる通り、日本人にとっては馴染み深いコマ割りやセリフ、人物描写が心地よく、まじでフランスのマンガなのかと疑いたくなってしまうほど。論理的思考でトラブルに対処する流れなんて、『HUNTER×HUNTER』や『呪術廻戦』みたいだし、荒々しくもエモーショナルな描き方は『チェンソーマン』を読んでいるかのようだった。

 なお、作者のカミーユ・ブルタンは1997年、アメリカに生まれ、4歳でフランスに引っ越し、フランスと日本のアニメーションスタジオでフリーランスとして経験を積んできたらしい。

 東京バンド・デシネフェスティバルのプロフィールによれば、湯浅政明や今敏といった2000年代以降のアニメ監督に影響を受けているとか。

 France24の番組にも出演し、マンガについて語るなど、日本のサブカルチャーを相当摂取してきたことが窺われる。

 タイトルの『YON』については、Facebook上にアップされていた動画の中でクレオール語の「1」を意味していると語っていた。全4巻まで書き上げたとき、それが示すことは明確になるはずと含みを持たせていた。

 彼女自身、アメリカ生まれでフランスに育っていることを考えると、クレオール文化に目配せしている点は興味深い。というのも、クレオール文化とは植民地支配や移民の歴史の中で、ヨーロッパ、アフリカ、先住民などの異なる文化、言語、人々が混ざり合い、独自の生活様式や価値観へと再構築された文化の総体を指し示すものだから。

 そのことを反映してか、作中、登場人物はアジア系として言及されることはない。人種という区別なんて存在しないかのように、少女たちの物語は紡がれていく。

 おそらく、バンド・デシネの文脈ではなく、日本のマンガやアニメを参考に、そのスタイルを取り入れた結果として登場人物が大友克洋的なアジア系になっているからなのだろう。それ自体に特別なメッセージを込めていないというか、むしろ、意識しないことを意識しているようにすら感じられた。まさにクレオール文化らしい混淆であり、複数のルーツが元を辿れないほどぐちゃぐちゃになり、もはや、ルーツなんてどうでもいいじゃんという自由さがあるのかも。そして、それが思想的な試みではなく、ナチュラルに展開されているところが面白かった。

 さて、とりあえず1巻を読むのにヘトヘトになってしまったけれど、同じようにGoogle翻訳を頼りつつ、2巻、3巻と読み進めていきたい。

 あと、タバコを吸う不良少女たちのシーンがめちゃくちゃよかった。

Camille Broutin『YON - Tome1』Dargaud, 2025年, 21p

 さすがはアニメーションの人って感じで、カメラワークに臨場感がある。マッチを吸った次のカットでセリフゼロの恍惚とした三人の表情。そんな秘密の闇を切り裂くように怖い顔をしている先生。特段、なにも起きていない日常のひと場面なんだけど、眺めているだけでワクワクしてしまう。

 こういう風にストーリーはもちろん、ちょっとした表現に巧みな技術が垣間見えるため、言葉が完全に分からなかったとしても最高に楽しかった。たぶん、いずれはアニメ映画になるような作品だと思うけど、そうなったら世界を席巻するのは間違いない。

 そういう最先端をタイムラインでふわっと知ることができるので、なんだかんだ、Xの自動翻訳システムは嫌いじゃない。っていうか、けっこう好き。




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