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夫の遺したお金があっても、使えなかった妻たち 前編


1 資産があっても、使えないという現実

今回は、夫が亡くなった後、遺されたお金を使えなかった妻たちの話をさせてください。

比較的最近、お二人ほど、こういう方を見ました。

2 残された側に引き継がれなかったもの

お一人目を仮に鈴木さんとします。

鈴木さんの夫は国家公務員でした。立地のいい広めのマンション暮らし。
夫は理系らしく、理路整然と話される落ち着いた方でした。
私はデイサービスの相談員として、夫に関わっていました。
担当者会議に参加した時、株を持っていることも合間に言われましたが、その時私は聞き流していました。
夫婦仲はぎこちない様子でした。娘さんたちも普段は寄りつかないと聞きました。

3 不安が生活を侵食していった

夫が亡くなった後、鈴木さんは不安を訴えるようになったそうです。
私の勤め先でケアマネジャーを担当することになりました。
鈴木さんは、近所の方や警察、介護サービス関係者、関わりある人たちに繰り返し、不安を訴えていました。
そのため、娘さんたちも一層鈴木さんを避けるようになったそうです。

その頃私はデイサービス相談員からケアマネジャーに異動になりました。
鈴木さんから、私たちの事業所にも何度も電話がかかってきていました。精神科医が関わっても鈴木さんの不安は変わらず。私を含む他のケアマネジャーも、地域包括支援センターの職員も、みんな一度や二度は鈴木さんの電話に対応し、どんな方かはわかっていました。

4 「資産がある」と「使える」は別だった

酷暑の頃、配食弁当の担当者から電話が入りました。昼食を届けたが、鈴木さんから応答がなく、玄関にお弁当を置いてきたと。
その日、担当ケアマネジャーは休み。電話しても、鈴木さんの応答はない。担当ケアマネジャーから、冷房を消して過ごしていることがあると、話は聞いていました。
熱中症からの孤独死のリスクを考え、本来業務ではありませんが、夫と関わったことのある私が訪問することになりました。

私が訪問すると、鈴木さんが出てこられました。かなりホッとしました。
置きっぱなしのお弁当を渡し、冷房がついているか確認するために、中に入れてもらいました。

色々なものが雑然と置かれた台所。書類や封筒がバラバラに積み重なり表面の見えない食卓にお弁当を置いた時。

古ぼけて黄ばんだ証券会社の「取引残高報告書」が何通も重なって見えました。


消されていた冷房をつけて、お暇しました。


「取引残高報告書」

投資をしていなければ、私はそれが何の書類だかわからなかったかもしれません。
3ヶ月に一度、証券会社から届く保有している株と取引内容を記した報告書です。
私は、鈴木さんの夫が株を持っていると少し誇らしげに言っていたことを思い出しました。

直接担当ではなかったので断定はできませんが、鈴木さんは資産はあっても、それを現金にして使うことにハードルがあったように見えました。
何を買えばいいのか、どのサービスを使えばいいのか、その判断自体もしんどくなっていたのかもしれません。

5 使われなかったお金のまま終わった生活

担当ケアマネジャーは「お金はあるんだからもっと自宅で介護サービスを使うか。それとも安心して快適に過ごせる場所があるのでは」と、苦慮していました。

鈴木さんは近所の方や娘さんたちと距離を置かれ、一層不安を訴えながら、衰えていったそうです。

けれど、娘さんたちはほとんど関わってくれない。担当ケアマネジャーや地域包括支援センターが何を提案しても、動かない。
そうやっている内に、鈴木さんは病院で亡くなったことを聞きました。

資産はあるのに使えなかった。鈴木さんは、未来の私の姿かもしれません。

次回予定

夫の遺したお金があっても、使えなかった妻たち(2)、加藤さんです。
よろしければ、引き続き読んでいただければ嬉しいです。

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