ホロコーストは、ヒトラー一人の狂気ではない――社会の負債を一つの民族へ集めた国家
おはようございます。長坂総研です。
ユダヤ教→反ユダヤ主義→ホロコースト
この流れを見ています。
重要なのは、ユダヤ教、反ユダヤ主義です。
ホロコーストはその結果としての事件です。
世界の半分以上の人が信仰する一神教。
その大元を知らないと世界史は解けません。

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ナチスは、反ユダヤ主義を発明したわけではありません。
長く続いた宗教的偏見を人種の問題へ変え、敗戦、革命、失業、経済不安の責任をユダヤ人へ集中させました。
そして法律、官僚、警察、鉄道、軍隊が動いたとき、排斥は絶滅の制度へ変わりました。
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宗教を変えても、逃げられなくなった
中世の反ユダヤ感情は、主に宗教を理由としていました。
イエスを救世主と認めず、古い契約にとどまり、イエスの死に責任を負う者とされた。
改宗後も差別が消えたとは限りませんが、建前の上では、信仰を変えることで境界を越える余地がありました。
ところが近代になると、ユダヤ人は宗教ではなく「人種」として定義されます。
何を信じているかではなく、誰の子孫として生まれたかが問題になったのです。
1935年のニュルンベルク法とその施行令では、本人の信仰ではなく、祖父母の出自を基準にユダヤ人が定義されました。
キリスト教へ改宗していても逃げられません。
宗教的反ユダヤ主義は、信仰を変えれば救われる可能性を残していた。
人種的反ユダヤ主義は、生まれたこと自体を返済不能な負債に変えたのです。
敗戦の負債を、誰が引き受けるのか
第一次世界大戦で、ドイツは敗北しました。
しかしドイツ軍が本国まで攻め込まれて降伏したわけではなかったため、「軍は戦場で負けたのではなく、国内の裏切りによって敗れた」という物語が広がります。
いわゆる「背後からの一突き」神話です。
軍部、皇帝、戦争を支持した政治家が、自らの判断によって生じた敗戦の負債を引き受ける代わりに、革命家、民主政治家、社会主義者、ユダヤ人へ責任を移しました。
ユダヤ人もドイツ国民として戦争に参加していました。
しかし陰謀論にとって、事実は重要ではありません。
国家の信用を壊した失敗を内部から説明するためには、分かりやすい裏切り者が必要だったのです。
正反対の責任まで押しつける
ナチスは、ユダヤ人が資本家として世界の金融を支配していると非難しました。
同時に、共産主義を広めて国家を破壊しているとも非難しました。
資本主義と共産主義は、本来なら正反対です。
しかしナチスは、資本主義が生んだ格差への怒りと、社会主義革命への恐怖という別々の問題を、同じユダヤ人へ押しつけました。
陰謀論は、整合性のある説明ではありません。
社会が処理できない複数の負債を、一つの敵へ集める装置です。
敗戦、インフレ、失業、格差、革命への恐怖。
何が起きてもユダヤ人が原因だとすれば、国家や社会は自分たちの失敗を見なくて済みます。
差別は、一度に絶滅へ進んだのではない
1933年にナチスが政権を取った直後から、大量虐殺が始まったわけではありません。
最初に行われたのは、ユダヤ人を社会から切り離すことでした。
官職や職業から追放し、財産を奪い、市民としての権利を失わせ、結婚を制限する。
1938年の「水晶の夜」では、シナゴーグ、商店、住宅が全国規模で襲撃され、多数のユダヤ人が逮捕されました。
人間としての権利を一度にすべて奪ったのではありません。
小さな排除を積み重ね、差別のある日常に社会を慣らした。
隣人だった人を市民から外し、財産を奪い、暴力を加えてもよい存在へ変えた後で、追放と殺害が始まったのです。
戦争が排斥を絶滅へ変えた
ホロコーストは、第二次世界大戦と切り離せません。
ドイツが東ヨーロッパへ侵攻すると、支配下に入るユダヤ人の数は急増しました。
戦争は、平時なら許されない暴力を正当化し、占領地では法や世論による制約も弱めます。
隔離、強制労働、財産没収、移送、銃殺が拡大し、やがて絶滅収容所による大量殺害へ進みました。
1942年のヴァンゼー会議は、そこで初めて虐殺を決めた会議ではありません。
すでに進行していたユダヤ人殺害を、各省庁が協力して実行するための行政調整の場でした。
大量殺害は、怒りだけでは実行できません。
人間を分類し、記録し、逮捕し、列車へ乗せ、財産を没収し、殺害する制度が必要です。
責任まで分業された
ホロコーストを実行したのは、ヒトラー一人ではありません。
法律を作る者、名簿を作る者、列車を動かす者、財産を調べる者、逮捕する者、収容所を管理する者がいました。
仕事が細かく分けられるほど、一人ひとりは「自分は殺していない」と考えやすくなります。
制度は殺害の作業だけでなく、殺害に対する個人の罪悪感と責任まで分散させました。
自分は命令しただけ。
書類を作っただけ。
列車を走らせただけ。
その「だけ」がつながった先に、大量殺害がありました。
ヒトラー一人では説明できない
ホロコーストでは、約六百万人のユダヤ人が、ナチス・ドイツとその同盟国、協力者によって殺害されました。
ヒトラーがいなければ、同じ形のホロコーストは起きなかったかもしれません。
しかし、ヒトラー一人の狂気だけでは、なぜユダヤ人が選ばれ、なぜ人々が従い、なぜ官僚が日常の仕事として大量殺害を処理できたのかを説明できません。
ホロコーストは、社会が自らの負債を一つの民族へ転嫁し、その存在を消去すれば、敗戦や経済不安という国家の失敗まで帳消しにできると錯覚した結果でした。
人を消しても、国家の失敗は返済されません。
残るのは、新たに作られた巨大な負債だけです。
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