「グレムリンの傀儡」 第一話
あらすじ
特定の人々に異能ーー「チート」が発現した東京。チートを悪用する者を取り締まる公安組織に所属する楠ヒナギと鈴森セシアは、自分たちの冷遇に歯痒い思いをしながらも、かつて自分たちの故郷を襲った『バグの雨』という災害について調査する機会を伺っていた。
二人はいつも通り任務を遂行する中で、『バグの雨』について大きなヒントを得る。しかし、敵からの不意打ちを受けてヒナギは致命傷を負ってしまう。
死を実感したヒナギは、グレムリンを名乗る少女レムのバグ化の力によって電子空間で生きながらえる。
仇かもしれないレムに命を握られたヒナギは、彼女の傀儡として世界のバグについての戦いに巻き込まれていく。
第二話
https://note.com/nagayama_kuryu/n/n5013979e860f
第三話
https://note.com/nagayama_kuryu/n/n07abe75f1491
①
母親が子供に言い聞かせる絵
モノローグ「悪い子はグレムリンにおもちゃを壊されちゃうよ」「小さな頃から言われ続けた躾の常套句」
同じ母親と子どもの引きの絵。ドローンやホログラムの広告等、近未来的な背景
モノローグ「科学全盛の二二世紀に、何をファンタジーな事を言ってるんだと、子供ながらに思っていた」
物体の辺だけが視認できる、透明なポリゴンのようにバグってしまった街並みを見つめる少年
モノローグ「あの日、グレムリンと呼ばれる存在によって」「日常がバグに侵されるまでは」
②
薄暗い路地裏を、必死の形相で男が走る
男「撒いたか……?」
足元から、シュゥン……と電源が落ちる音
男「くそ! このポンコツ靴が! すぐ壊れやがって!」
男は悪態をつきながらも、疾走を再開。その足取りは、やや重い
別の路地裏を風のように駆ける緑髪の少女
少女は息一つ乱していない。その身のこなしにはどこか優雅さすら感じられる
学ランのような黒い装束。左腕の腕章には「清掃員」の文字。耳には補聴器のようなデバイス
音声『目標はダイナモ通りを北上中』『セシア、速度を維持。五秒後に遭遇する』
少女ーー鈴森セシアは集中し、猫のような吊り目をより鋭くする
セシア「はいよっ!」
後ろを気にするように逃げる男
しかし進行方向の先から、セシアが飛び出す
セシア「こんばんはっ♪」
彼女の両腕は、渦を巻くように気流が暴れている
セシアは気流を大きな翼のように広げて、男を飲み込むべく叩きつける
しかし男は、立体映像のようにその攻撃をすり抜けてしまう
セシア「うぇぇっ!?」
音声『どうした?』
慌ててブレーキをかけるセシア。背後にすり抜けた男を捕捉しながら報告
セシア「ごめん、光学迷彩系のチート持ってたっぽい! すり抜けちゃった!」
どこかを駆けている少年。口元だけが見えるような構図
少年「そのレベルの位置情報はこっちからじゃ補正できない」
セシア『わかってる!ヒナギが来る前になんとかしておくよ!』
セシアは腕を空へ掲げる。彼女の腕を中心に、周囲から水蒸気が集まっていく
セシア「あつまれー!」
セシアが腕を振りおろすと、頭上の水塊が勢いよく放たれ、辺りの地面を水浸しにする
男(……外した?)
攻撃が外れたと勘違いした男は、焦りの色を浮かべながらも薄笑い
セシア「なに安心してるの?」
セシアは不敵に笑う
その一言に、男の瞳孔が開く
男から3メートルほど離れた前方。水たまりが足跡の形に不自然に凹んでいる
セシア「こっちは誤魔化せないでしょ?」
男「使えねぇチートだな、くそ!」
そして、足跡の周囲から、ゴゥッ!という爆ぜる音とともに、勢いよく火柱が上がる
光学迷彩が使用できなくなり、偽の像はゆらめきながら消える。残ったのは、炎の檻に囚われた男だけ
男「風に、水に、炎だと!?」「てめぇ、一体どれだけのチートをッ……!」
セシア「おっと? 勉強不足だね?」
余裕すら感じさせる穏やかな笑みと共に、セシアの周囲に風、水、炎が躍る
セシア「これ見て信じられないのも無理はないけど」「例外なく、ヒトが宿せるチートは二つまでだよ」「右脳と左脳説が有力だね(小さいフキダシ)」
一転して、猫のような瞳を妖しく光らせるセシア
セシア「それ以上を求めたら……ヒトでいられないよ?」
セシア「……それに、こんな力、望んで手に入れたわけないでしょ」
男の背後。斜め上に青い髪の少年がいつの間にか立っている。逆光で顔は見えないが、瞳は妖しく輝いている
男は、振り返ることもできない。完全に後ろを取られていた
セシア「ね、ヒナギ」
少年ーー楠ヒナギは、先端が刺股のようにU字に分かれている棒を構えながら、
ヒナギ「反発」
悍ましい速度で黒い棒が射出される。U字の部分が男の首を正確に捉え、そのまま勢いで男を地面に縫い付ける
斬首刑を待つ罪人の如く地に伏せる男は、顔に焦燥を浮かべてもがくも抜け出せない
男(力が……入らねぇ!)
そんな男の元へ、炎の牢獄を解除したセシアが歩み寄る
セシア「むだむだ、それはただの刺股じゃないんだから」
セシア「脳からの電気信号を乱す上に、プチ感電もさせてる。詰みだよ」
ヒナギが、セシアと男の元へ歩み寄る。セシアは、乱れた髪を髪留めで束ねながら得意げな顔でヒナギを出迎える
セシア「任務完了だね、ヒナギ」
場面やや飛んで、回収班が縛りつけた男を連行していく
ヒナギは無言で踵を返す。そして路地裏の片隅に落ちていた、ポリゴンのようにバグ化した『靴だったモノ』を見下ろした
ヒナギ「……こんなところにも、バグが」
セシア「ほんとだね。余波が届いたのかな」
悲痛な瞳でバグ化した靴を眺めるヒナギ
心配そうにヒナギの顔色を伺うセシア
セシア「ヒナギ。帰ろうか?」
ヒナギ「……あぁ」
③
黒いコマ
モノローグ「五年前」「都市一つを、『バグ』が呑み込んだ」
透明なポリゴンのようになった近未来的な車や人
モノローグ「そこに住む人々の生活を、人生を根こそぎ奪い去り」「戦後最多の犠牲者を出した大災害」「通称『バグの雨』」
宙に浮いて飛び回る子供、男の髪を燃やす女性、壁を粉砕する老人
モノローグ「原因不明の大災害は、僅かな生存者にも原因不明の症状を与え」「異能としか呼称できない力の宿る者が現れた」「それがチートだ」
大きな交差点で人々が行き交う絵。近未来的なビルの上には、巨大なホログラム。
ホログラムが映すニュース番組には「年々増加傾向……チート犯罪の取り締まり強化」のテロップ
モノローグ「容易に世界を狂わせる危険なチートを、国はすぐさま規制した」「だけど悪人ってのはいつの時代も存在するわけで」
ヒナギとセシアは宇宙船内部のような近未来的な廊下を歩いている
モノローグ「それを取り締まるのが、俺たち屑拾いだ」
ヒナギたちの進行方向から、男Aと男Bが歩いてくる
学ランっぽいセシアとヒナギとは違い、軍服のような服にマントを羽織っている。そして腕章には「調査官」の文字
セシア「あ、調査官の皆さんお疲れ様です!」
AとBは少し冷たい笑顔を返す
男A「おー、お前らか。また一人チーター捕まえたらしいな」
セシア「えへへー。調査官のみなさんの捜査と分析のおかげですよ」
セシアは、AとBを心から信じているような無垢な笑み
セシア「皆さんなら、きっとバグ化の原因や解除法だって見つけてくれるって信じてます!」
男A「ははは、また言ってら。グレムリンでも探せってか?」「同じファンタジーなら、俺はサンタクロースを探すね」
男B「まぁまぁ。一応、ソレが調査官の大きな目的だぜ?」「俺たち調査官しか『バグの雨』のエリアには入れないわけだしな」
そんな二人を見て、ヒナギは侮蔑的な視線を送る
対してAとBは、冷笑すら引っ込ませる。興が冷めた、とでも言わんばかりに
そして煽るように、ヒナギの頭へポンと手のひらを乗せてすれ違う
男A「まっ、その為にも、これからもゴミ掃除頼んだぜ」「清掃員」
AとBは笑いながら去っていく
苦い顔をするばかりのヒナギ
セシア「……そんな顔しちゃダメだよ、ヒナギ」
回想『どうして!?』
回想
バン!と机を叩くヒナギ。屑拾いの局長に直談判。納得がいかない顔
ヒナギ「どうして! 俺は調査官になれないんですか!?」
鬼気迫るヒナギに、毅然とした態度で返答する局長
局長「法的データにアクセスできない奴は調査官になれない」「就くには戸籍が要る。公務員だからな」
ヒナギ「でもっ! 調査官じゃないと、あのエリアには……!」
局長「『バグの雨』に被曝したお前たちの法的データはバグに侵されている。手の施しようがない」「すまんが分かってくれ」
何度訴えても変わらない結論に、ヒナギの瞳から光が失せる
回想終了
目を伏せるヒナギ。その表情には、隠しきれない悔しさが滲み出ている
ヒナギ「……別に今更、妬んでなんかねえよ」
表情とは裏腹に諦めにも似た言葉を吐くヒナギへ、宣言するようにセシアは声を荒らげる
セシア「あたしは諦めてないからね」「戸籍を取り戻す方法だって、きっと」
ヒナギ「やめろよ。俺たちは、ただの清掃員なんだからよ」
踵を返すヒナギを、セシアは悲しそうな目で見送る
セシアが思い浮かべるのは、かつてのヒナギの笑顔。しかし、その笑顔はくすんでいて、明確に思い出せない
セシア(あいつが最後に笑ったのって、いつだろう)
バグ化した街並みを前に呆然と佇む幼いセシアとヒナギのイメージ
幼いヒナギは涙をこらえ、幼いセシアは腕で顔を隠しながら大泣きしている
モノローグ「全てがバグになって」「故郷を、全てを失ったあの日以来だ」
廊下に一人残されたセシア。涙をこらえるように一人静かに決意しなおす
モノローグ「ヒナギは、本当に諦めてしまったんだろうか」
セシア(……負けるな、あたし)(もう泣かないって、決めただろ)
セシアの髪留めの石が、悲しそうに光る
ヒナギの部屋のカット
自室のベッドで仰向けのヒナギ。脳裏に浮かぶのは、悲しそうな瞳をしたセシアの顔
セシア『あたしはまだ諦めてないからね』『戸籍を取り戻す方法だって、きっと』
ヒナギ(なんだって、あいつは)
脳内の少女すら振り払うように、寝返りをうつ
部屋の隅にフォーカスが当たる。本棚には、この時代には珍しい、ホコリの被ったいくつもの本。内容はバグについての研究など
しばらく触れられていなさそうな本は、もの寂しそうに本棚の奥で眠っていた
ヒナギ「もう」「諦めろよ」
④
打ち捨てられた廃病院。
ヒナギとセシアは、崩れかけた塀の外側で、突入前の最終チェックを行なう
ヒナギがホログラムを操作し、セシアがそれを覗き込む格好
ヒナギ「今日の任務は、野良の小組織の解体、および違法取引されたブツの押収だ」
ヒナギ「調査官からのレポートによると、構成員は五人。全員がギフトを所持してる」「内容を照会できなかったことから、全て違法品と推察」
セシア「要は、みんな超能力者か」
セシアは悲しそうに、
セシア「……死亡率四割のチートを、みんなインストールしたんだね」
ヒナギ「人のこと言えた義理か」「いくぞ。油断するな」
場面変わって小組織のアジト内。
瓦礫だらけで荒れ放題の部屋で男が五人(男C〜G)、銃身が不気味に輝く銃を舐めるように吟味している
男C「これが例の……」
男D「ああ。まだ試作品らしいがな」「これで俺たちが『グレムリン』だ」
帽子を被った、いかにもな悪者顔の男Eが銃を構える
男E「ひゃははっ、早く試し撃ちしたいぜェ〜!」
男F「バカやめろ。騒ぎになったらどうする」
男E「んおっ?」
男Eが、何かに気づいたように素っ頓狂な声を上げる
その視線の先には、一人の少女。
白と表現しても良いほど薄い桃色の髪。歳の頃は中学生くらい。この世の暗部が身を潜める廃墟の、正反対にいるような少女だ
男Eは大袈裟な動作で帽子の上から額に手を当てがう
男E「おいおい勘弁してくれよ。誰が連れ込みやがった?」
「知るかよ」「ガキじゃねぇか」「縛っとけ。逃げたらまずい」
男Eはふんふん、と顎に手を当てがう
男E「誰の妹でもねェ。このまま帰られたら面倒くせェ」
男Eは、銃身が淡く光る銃を掲げる
男E「そして俺の手には、手に入れたばっかのコイツ」
そのまま、勢いよく銃口を少女へ向け、男Eは顔を歪めて嗤う
男E「だったら、ぶち殺しても構わねェよなァ!?」
対して、明確な殺意を向けられた少女は、小さく呟いた。(口元アップ)
少女「……下等生物が」
⑤
銃弾が壁を跳ねるような音。ヒナギとセシアは周囲を警戒する
ヒナギ「上階か」
セシア「生体反応も上に……えっ?」
セシアは、手元のホログラムを見て、眉を潜める
セシア「人間の生体反応が六つあるよ」
ヒナギ「構成員は五人のはずだろ。調査官の情報にミスがあったか……何かイレギュラーがあったかだな」
続いて、砲丸が着弾したような爆発的な衝撃に、ヒナギたちがいる階まで揺れる。ヒナギは袖から黒い棍を取り出す。一瞬で2mほどにまで伸長した棍を携えた
ヒナギ「いくぞ。もし一般人なら、救出が優先だ」
セシアはこくんと頷く
二人は階段を駆け上がり、扉の前で一時停止。突入直前の刑事のように、中の様子を伺おうとする。
ヒナギは、近くにバグ化した柱があることに気が付く。
ヒナギ(こんなところにも、バグが……)
少女「何をしているんだい?」
不意に、ヒナギは背後から少女に声をかけられる
目を見開くヒナギ。一瞬で棍を構える
少女はゆったりと、自身が武装していないことを証明するように両手を上げた
少女「あぁそうか。奴らの連れじゃないかと勘違いさせてしまったんだね。すまない」
達観したような半開きの赤目。外見年齢に似つかわしくない余裕のある態度はかなり異質だ
ヒナギ「何者だ、お前」
少女「ん? んー、黒井レムだ。見ての通り、犯罪者なんて小汚い存在に相応しくない可憐な少女だよ」
男C「どこ行きやがったクソガキ! 隠れてないで出てこい! ぶっ殺してやる!」
黒井「ほらね」
心底めんどくさそうに、黒井は苦笑い
ヒナギは少し逡巡したが、少女に戦闘の意志も武力もないと判断する
ヒナギ「セシア。この黒井は任せる」
セシア「了解。ヒナギはどうするの?」
ヒナギ「お前らが離脱するまでしんがりを務める。その後俺も引き上げる」「奴らを取り逃したって知ったことか。正確な情報を寄越さなかった調査官が悪い」
セシア「またヒナギはそうやって調査官を……」
男C「そこかオラァ!」
男Cが銃を放つ
ヒナギたちには当たらなかったが、代わりに近くの柱が辺だけのポリゴンと化していく
ヒナギ&セシア「!!」
回想
幼ヒナギが、分厚い本を読んでいる
モノローグ「物体のバグ化は『バグの雨』でのみ観測された現象であり、原因は不明」「現在もバグの復旧は未定」
回想終了
モノローグ「人影がバグを作り出していたとの証言も多くあり」「グレムリンが首謀者だと主張する者まで現れた」
ヒナギ(だとしたら、あの銃は……ッ)
黒井「そういえばやつら、こんなことを嘯いていたよ」
黒井「 「これで俺たちが『グレムリン』だ」、と」
ヒナギの瞳に殺意が灯る
ヒナギ「セシア。……黒井を連れて今すぐ退避しろ」
セシア「ヒナーー」
セシアの反論も許さず、ヒナギは男Cの元へ突っ込んで行ってしまう
男C「何だてめ」
突如出現したヒナギを辛うじて認識した男Cだったが、ヒナギの棍による一撃を受けて昏倒する
ヒナギは身を潜めていた残りの男たちに取り囲まれる
セシア「もー! 勝手にブチギレて!」
セシアは、黒井の腕を取って出口へと駆ける
「清掃員だ! 殺せ!」
誰かが言う間にヒナギは雷を纏う男Dの懐に潜り込み、左腕の袖から刺股を発射。男Dの首筋を正確に捉え、無力化する
続いて飛来した銃弾を棍で弾くと、腕毛がサボテンのように逆立った男Fが殴りかかってくる
ヒナギは棍を身体の周りで回しながら、男Fの鳩尾へ棍を突き刺す
男F「げぼっ!」
一瞬動きが鈍ったところを見逃さず、棍を回転させて男Fの頭頂部へ叩きつけて昏倒させる
ヒナギ「これで三人」
残る男Gを睨みながらヒナギは宣言し、眉を顰める
ヒナギ(……残り一人? 生体反応は黒井を除いてもう一人分あったはずだが)
ヒナギは軽く周囲を見渡す。人の形に窪んだ壁の穴と、その周辺に飛び散る赤黒い液体を見つける
その下には、血みどろの帽子(男Eのもの)が無造作に落ちていた
ヒナギ(さっきの衝撃はあれか)(仲間割れでもしたか)(詳細は不明だが、近接戦は避けるべきだな)
ヒナギ「反発」
ヒナギから射出された棍は、ガキィ!とガラスに突き刺さるように男Gの直前で動きを止める
男G「舐めるなよ! 国の犬が!」
男が宙を殴ると、何かが割れる音が響き渡り、不可視の弾丸が射出される。撃墜はできないと即断したヒナギは、壁の反対側に飛び込んで弾丸の雨をやり過ごす
袖から新たな二本の棍を取り出しながら、ヒナギは頭を巡らせる
ヒナギ(見たことないチートだ)(空気を固めてる? 俺たちと同じ、クラス2のチートか)
両手に棍を携えたヒナギは、隠れた壁から飛び出す。男Gの不可視の弾丸が放たれるより前に、二つの棍を「反発」で射出する
槍と化した二本の棍は、片方は不可視の壁に突き刺さり、もう一本は男Gを掠めて背後の壁に突き刺さった
男G「当たらねえんだよ間抜け!」
男Gが再び不可視の壁を殴ろうとする
その前に、
ヒナギ「吸引」
次の瞬間、男Gの背後の壁に突き刺さっていた棍が、超速でヒナギへ引き寄せられる
そのルート上には、男G。棍は彼の後頭部を容赦なく撃ち抜き、その意識を一瞬で刈り取る
ヒナギ「……俺のチートが持つ力は、反発だけじゃないんだよ」
静かになった戦場で、ヒナギは一息つく
男H「油断大敵♡」
ヒナギのすぐ横で目玉がギョロリと現れる
ヒナギの瞳孔が開く。攻撃が向かってくる風に髪が揺れる。避けられない
セシア「ヒナギッ!!」
間一髪のところで、セシアがヒナギを抱えるように倒れ込んで、回避
彼が立っていた地面には、大剣で抉ったような鋭く深い傷が刻まれた
セシア「思った通り、頭に血が上って全然周りが見えてないんだから!」
セシアは、学ランについた砂埃をパンパンと払い落とす
ヒナギも黒い棍を掴み直し、「悪い」と立ち上がる
ヒナギ「……黒井はどうした?」
セシア「安全なとこまで連れてったよ」「あたしのチートで防護壁を作ったからまず大丈夫」
ヒナギ「わざわざ戻ってきたのか」
セシア「当たり前じゃん。危なっかしくて、一人になんかさせられないよ」
言い合う二人の前で、最初に殴打した男Cが「いってぇ……」とうめき声をあげながら立ち上がる
男H「起きたわね♡ よかったわ♡」
頭から血を流す男C、不気味な眼球だけが視認できる男H。二人と相対しながら、セシアは一歩前に出る
セシア「ヒナギが何考えてるか、わかるよ」「八つ当たりでしょ」
セシア「あいつらをみんな叩きのめして、それで満足しようとしてる」
セシアは、天使のように背中から気流の翼を広げる
セシア「あたしは違うからね。そんな事で満足してなんかやらないから」
セシア「あたしの目標は最初から、あの日々を取り戻す事だけだよ」「そうでしょ、ヒナギ」
セシアは、気流に乗って宙に浮く。そのまま、滑空するように男Cたちの元へ突っ込んで行く
セシア「いい加減、戻ってきてよ」
男Hの目が愉快そうに歪む。そして彼の背後で、砂埃が舞う。透明な大剣が振りかぶられている
セシアの顔面に大剣による風が迫る。しかしセシアは構わず突っ込んでいく
男H「!?」
不可視の大剣がセシアに命中するその直前。ヒナギが射出した黒い棍がその動きを止める
セシア「ナイスヒナギ!」
セシアは気流の翼を男Hに叩きつける。男Hは回転しながら地面に叩き伏せられ、意識を失ったのか、透明だった体が現れる
男C「このクソアマ!」
男Cはバグ化させる拳銃を片手に、もう片方の手で普通の拳銃を乱射する。しかし照準はメチャクチャで、あたりの瓦礫を破砕するのみ
飛び散った破片でセシアは頬を切るも、構わず距離を詰める
男C「実弾使えねぇな!」「こっちは弾数少ねえんだぞ、クソが!」
男Cはバグ化させる銃をセシアへ向ける
その銃へ、ヒナギが引き寄せられるように超速で飛び込んでくる
驚愕に染まる男C。ヒナギは氷点下の目つきで男Cを見下ろす
ヒナギ「俺の『吸引』には、こういう使い方もある」
ヒナギは男Cの顎に膝を入れ、今度こそ昏倒させる
倒れた男Cの手から、バグ化銃を押収するヒナギ
ヒナギ「これが、違法取引のブツで間違いないな」
ヒナギが触っていると、ふと、カチっと音が鳴る
次の瞬間、先ほど変貌させられた柱のバグ化が解除される。驚愕する二人
ヒナギ「バグ化が、解除された……?」
セシア「ヒナギ、これをウチの技術部に解析してもらえば!」
ヒナギ「バグ化した俺たちの法的データも」「いや、俺たちの町も、復元できる……?」
数秒見つめ合ったのち、セシアは嬉しそうに腰を下ろす
セシア「あっはは、希望が見えてきたね!」
ヒナギ「あぁ!」
ヒナギの口元に、笑みが走る
それを見て、セシアは目を細めて妖艶な笑み
ヒナギ「なんだよ」
セシア「久々に笑ったところ見たなぁ、って」
セシア「はぁ、疲れちゃった」「ヒナギ、髪結んでくれていいよ」
セシアは腕に嵌められた髪留めをヒナギへ見せつける
セシア「これ、覚えてる?ロンズデーライト」「ヒナギがプレゼントしてくれたやつ」
ヒナギ「……忘れた」
セシア「嘘ばっかり」
『ダイヤモンドよりも硬い鉱物。これは、不変の象徴だ』『俺は絶対に、お前のそばからいなくなったりしないから』
ヒナギはセシアの髪を結ぼうと、彼女の腕から髪留めを取り外す。セシアは、恋する乙女のように少し照れた笑顔
セシアは頬の傷を軽く拭う
セシア「ねぇヒナギ。もしあの街が元に戻ったらーー」
??「なんだ。傷、ついてたのか」(恐ろしいフォント)
ヒナギとセシアは不意を突かれた表情
発生源は、先ほど倒したはずの男C
男Cは床に這いつくばりながら、ざまあみろと言わんばかりの目
男C「俺のチートを教えてやる」「俺は、俺が傷つけた生物の行動を操れる」
一瞬の回想。セシアが男Cの拳銃による余波で傷つけられた瞬間
男C「クソアマ……『自害しろ』」
セシアは立ち上がり、鋭利な形に削られたコンクリの破片を拾い上げ、自身の喉元に突きつける
瞳は恐怖に揺れ、破片を握る手からはダラダラと血が滴る
幼いセシアが、涙を堪えながら強い瞳でどこかを睨んでいる姿
幼セシア『もう泣かないって、決めたから』
ついさっき、ヒナギのピンチに駆けつけてくれたセシアの顔
セシア『危なっかしくて、一人にさせられないよ』
セシア「……ヒナギ」
セシアは、申し訳なさそうに涙を流しながら、薄笑い
セシア「ごめんね」
ヒナギは、勢いをつけてセシアの喉元に差し込まれようとした瓦礫から庇うように、その身を滑り込ませる
セシアの顎を殴る事で意識を奪えたものの、勢いのついた瓦礫がヒナギの首に突き刺さる
ヒナギ(あ、)
明らかに致命傷。視界が歪んでいく
視界がどんどんぼやけ、光が溢れていく
ヒナギ(やめろ……俺は、まだ……)
??「斬獲完了」
⑥
気がつくと、ヒナギは何もない殺風景な空間に座っていた
ヒナギ「……ここは」
??「気がついたかい」
後ろを振り返ると、そこには先ほど助けた少女ーー黒井が
達観したような半目の瞳は、妖しさを通り越して恐怖すら覚えさせる
ヒナギ「……何がどうなってる」
黒井「ここは電脳空間さ」「死にかけたキミを、回収してここに植え付けた」
ヒナギの瞳が驚愕に染まる
モノローグ「何を、言っているんだ? こいつは」「電脳空間?」
黒井「なかなか良い器が見つからなくてね」「いやぁ、難儀したよ」
ヒナギ「お、お前……何者だ」
黒井「おや、さっき名乗ったと思ったが」「あぁそうか。適当に偽名を吐いておいたんだった」
黒井?は、自分の胸に手を当てる
黒井?「黒井というのは、キミ達の制服を見てパッと思いついただけさ。レムはレム。それ以外の何者でもないよ」
黒井改めレム「まぁ、正確に言うならばーー」
「グレムリン、だね」
レムの発言に、ヒナギは青ざめる
レム「ああ、グレムリンの名を求めて狡い事してるあんな小悪党とは違うからね」「正真正銘、万物をバグらせる妖精さ」
ヒナギの脳裏には、男C〜男H(計六人)の倒れた姿
回想のセシア『人間の生体反応が六つあるよ』
ヒナギは棍を取り出し、目にも止まらぬ速度でレムの頭頂部へ叩きつける
しかし、棍は彼女をすり抜け、勢いそのままに地面を穿った
ヒナギ「……何が目的だ」
レム「機械に感謝を忘れた人類へ、そろそろ制裁しなきゃと思って」
レムは、ヒナギの反抗を全く気にしない。余裕の微笑まで浮かべている
レム「キミは、レムのバディに選ばれたのさ」「レムに物質データとして斬獲された瞬間に、ね」
レムは指をヒョイっと振る
次の瞬間、ヒナギが持っていた髪留めの石ーーセシアのロンズデーライトが、バグ化する
ヒナギ「やっ……やめろバカ野郎!!」
ヒナギは高速で棍を振るうも、レムには当たらない
髪留めは完全にバグ化し、その上粒子となって消えようとしている
『これは、不変の象徴だ』『俺は絶対に、お前のそばからいなくなったりしないから』
「ああああ!」と荒れ狂うヒナギの額へ、レムはデコピン
ヒナギは石ころのように吹き飛ばされる
レム「キミはもうデータなんだ。親の命令には逆らえないよ」
額から流血するヒナギは、絶望の表情。一方でレムは、半目のまま妖しく微笑む
モノローグ「それは、あまりに突然で」
レム「さぁ、レムと一緒に文明をぶっ壊そう」
モノローグ「目が眩むほど悪意に埋もれた」
レム「キミに拒否権はないよ。従わなければ死ぬだけさ」
画面暗転
モノローグ「ーー異形の終身刑だった」
