「景気が強いのになぜ株が下がる?」——3月PMI速報値が突きつけた不都合な答え
はじめに
3月のPMI速報値が発表されました。正直に言います。最初に数字だけ見た時は「まあまあ強いじゃないか」と思いました。でも、中身を分解した瞬間に景色がまったく変わりました。
強いのは製造業だけ。総合は予想以下。そしてその製造業の強さすら、本物かどうか怪しい。
この記事では、3月PMIの数字を1つずつ分解しながら、
「なぜ製造業だけが強いのか」、「その裏にあるスタグフレーションの影」を、初心者の方にも分かるように解説します。
目次
まず数字を見る——3月PMI速報値
PMI(購買担当者景気指数)は、企業の購買担当者に「先月と比べて仕入れを増やしましたか?」とアンケートした結果を数値化したものです。
50が境界線で、50を超えていれば「経済は拡大している」、下回れば「縮小している」と読みます。

一見すると全部50超えなので「拡大圏」です。でも、ここで違和感に気づけるかどうかが分かれ目です。
製造業は予想を上回った。でも総合は予想を下回り、前回よりも低下した。
「景気が強い」のではありません。「製造業だけが強い」のです。
この歪みに、今のマーケットの核心が隠れています。
製造業だけが強い。この歪みの正体
なぜ製造業だけが突出しているのか。あなたの家の近くで「来月からお米が値上がりする」というニュースが流れたら、どうしますか? 多くの人は値上がり前にまとめ買いするはずです。
今、企業が同じことをやっています。中東紛争の影響で物流が不安定になり、「モノが届かなくなるかもしれない」という不安から、在庫を急いで積み増しているのです。これが駆け込み需要です。
2022年のウクライナ侵攻直後にも同じ現象が起きました。供給不安でPMIが一時的に跳ね上がり、その後、需要の先食い分が剥落して急落したのです。
この構造はアメリカだけではありません。同じ週に発表された欧州のPMIにも、まったく同じパターンが現れています。
| 地域・指標 | 予想 | 結果 | 判定 |
| ドイツ製造業PMI | 49.4 | 51.7 | 予想を大幅に上回る |
| ユーロ圏サービス業PMI | 51.0 | 50.1 | 予想を下回り、拡大圏ギリギリ |
| 英国サービス業PMI | 53.1 | 51.2 | 予想を大きく下回る |
世界中で製造業は強いのに、サービス業は弱い。
製造業の強さは「駆け込み需要」で説明がつきます。一方でサービス業が弱いのは、エネルギー価格の高騰が消費者の財布を直撃している証拠です。この「製造業だけ強くてサービス業が弱い」という乖離は、以前の記事「FRBと金利の仕組みを世界一シンプルに解説」で触れたコストプッシュインフレ(悪いインフレ)の典型的な特徴です。
単位労働費用4.4%——企業が追い詰められている
PMIの歪みだけではありません。同じ週に発表された2つの数字が、さらに暗い影を落としています。
| 指標 | 予想 | 結果 | 意味 |
| 単位労働費用(第4四半期確報値) | 3.4% | 4.4% | 同じモノを作るのに、人件費が予想以上に上がっている |
| 労働生産性(第4四半期確報値) | 2.4% | 1.8% | 働く効率が落ちている |
単位労働費用とは、「製品1つを作るのにかかる人件費」です。労働生産性とは、「1人の労働者が1時間にどれだけ稼いだか」です。
コスト上昇4.4%から生産性の伸び1.8%を差し引くと、純粋なコスト増は2.6%。企業はこの負担をどこかに転嫁しなければなりません。
選択肢は2つだけです。
値上げする → インフレが加速 → FRBは利下げできない
値上げしない → 利益率が低下 → 決算が悪化 → 株安
どちらに転んでも、マーケットにとってはネガティブです。
コストは上がるのに経済全体は効率的に回っていない——これはスタグフレーションの前兆パターンです。スタグフレーションとは、「物価は上がるのに景気は停滞する」という最悪の組み合わせ。FRBにとっても、利上げすれば景気をさらに冷やし、利下げすればインフレが加速する、八方塞がりの状況です。
あなたが普段使うスーパーやコンビニで、「量が減ったのに値段が同じ」商品が増えていませんか? それが企業側のコスト転嫁の現れです。
債券市場はとっくに気づいていた
ここでもう1つ、見ておくべきデータがあります。米10年債利回りの動きです。
10年債利回りとは、アメリカ政府が「10年後に返すからお金を貸して」と言って借りる時の金利です。この数字が上がるということは、マーケット全体が「金利は当面下がらない」と判断していることを意味します。
3月初旬、10年債利回りは3.95%付近にいました。それがたった3週間で4.4%台まで急上昇しています。+0.45%。

注目すべきはタイミングです。PMI速報値が発表される前の時点で、10年債利回りはすでに4.46%付近まで跳ね上がっていました。 PMI発表後に大きく動いたわけではなく、高い水準に張り付いていただけです。
つまり、債券市場はPMIの結果に驚いたのではありません。「利下げは来ない」をとっくに織り込んでいた。 PMIの数字は、それを追認しただけです。
前回の記事「利下げが来ると信じて株を買った人へ」で、「2年債利回りが政策金利の3.75%を上抜けた」と書きました。あれは短期の金利見通しが変わったサインでした。今、10年債も4.4%台に到達しています。2年債(短期の見通し)も10年債(長期の見通し)も、同じ方向を向いている。 「利下げは来ない」が債券市場の総意になっています。
以前の記事「FRBと金利の仕組みを世界一シンプルに解説」で、「株価の7割は金利で決まる」と書きました。その金利が「下がらない」と言っているのです。PMIの数字を見てから動くのでは遅い。金利を見ていれば、先に気づけたということです。
3つが同時に来ている
ここまでの話を整理します。
景気減速:総合PMIは予想以下。製造業の強さも駆け込み需要の可能性が高い
インフレ圧力:単位労働費用4.4%。企業は値上げか利益率低下の二択
金利高止まり:10年債利回りは3週間で+0.45%。債券市場は利下げを見込んでいない
景気が減速しているのに、インフレ圧力が消えず、金利は高いまま。この3つが同時に押し寄せている——それがスタグフレーションだ。
前回の記事で「キャッシュ比率を見直せ」と書きました。あの時点では2年債利回りが警告を発している段階でした。今は10年債も加わり、PMIの中身も歪み始め、労働コストのデータまでスタグフレーションを裏付けている。警告はもう1つのデータからではなく、すべてのデータから同時に鳴っています。
私自身、新しいポジションを積極的に取ることはしていません。正直に言えば、「もっと早く動いておけば」と思う局面は何度もあります。でも、完璧なタイミングで動ける人なんていません。大事なのは、今ある情報で、今できる判断をすることです。
あなたのポートフォリオは、「利下げが来る前提」で組まれていませんか? もしそうなら、今回のデータは、その前提を見直す最後のチャンスかもしれません。
まとめ
3月PMIは「製造業だけ強く、総合は予想以下」という歪んだ結果。 製造業の強さは駆け込み需要の可能性が高く、欧州でも同じ構造が確認されています。
単位労働費用4.4%と労働生産性1.8%が示すのは、スタグフレーションの前兆。 企業は値上げかマージン低下の二択に追い込まれています。
債券市場はPMIの前から「利下げは来ない」を織り込み済み。 2年債も10年債も同じ方向。株価の7割を決める金利が「下がらない」と言っています。
景気減速・インフレ圧力・金利高止まりの3つが同時進行。 キャッシュ比率の見直しの緊急度は、前回の記事よりさらに上がっています。
このシリーズについて
この記事は、兼業投資家・なぎによる時事分析記事です。
FXで30万円を1000万円に増やし、株式投資で5000万円を築いた経験をもとに、
「手法」ではなく「考え方」で相場を読み解いています。
投資の思考体系を体系的に学べるシリーズ記事は、自己紹介記事からご覧いただけます。
→(自己紹介noteリンク)
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