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真夜中の無重力 #毎週ショートショートnote

夜中の一時二十四分だけ、世界から重力が消える。けれどそれは、浮かぶというより、各自が自分を過大評価する時間。こざかしい思い上がりの一分間だ。
その間、部屋の物は皆、本性を見せる。埃は星雲のまねをし、譜面台は衛星の角度で斜に構える。そして手紙は、捨てる決心をうっかり忘れてしまう。
その日は、ベッド脇の一通が、ふっと天井へ浮かんだ。手を伸ばすと、風でもない何かに撫でられて、手紙は木目の隙間へ消えてしまった。
それから一か月以上、わたしは待ち構えた。定刻になると浮く、そして落ちる。そのはずなのに、手紙だけ戻らない。
天井の隙間は、たまに古い付箋が落としてきて、わたしの未練をからかう。

ある晩、不意に白い紙が落ちてきた。けれど、それは見覚えのない封筒だった。
封を切ると、「手紙、ありがとう」という文字が浮かんで、わたしの中に落ちてくる。
どうやら、あの一分間に、手紙たちは天井裏の見えない気流で、少しずつ互いの宛先を渡り歩くらしい。

勝手なことを、と思う。けれど、わたしは天井に向かって小さく会釈した。
今書き始めた手紙が、また自分を過大評価して、わたしの不器用を少しだけ代行してくれることを期待しながら。


(495文字)



#毎週ショートショートnote の『 #こざかしい落下 』というお題で書きました。


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