しゃく、と鳴る月 #毎週ショートショートnote
月の出ない夜だけ、公園のベンチ脇に床屋が開く。芝生に青いシート、ライトは最小、風の音がドライヤー代わりだ。
わたしが「開いてますか?」と聞くと、店主は丸いコームを掲げ、姿見を月の隠れた方角へそっと向ける。
シートの上に腰をおろし、刃の角度に合わせて身体をわずかに傾ける。
しゃく、と鳴るたび、髪といっしょに、わたしの「満ち欠け」が銀のボウルへ静かに落ちていく。
切り離された満ち欠けは、前髪の黒と丁寧に分けられ、ぬるま湯に溶かされる。
掌のなかで転がされ、でこぼこは少しずつ丸みを覚える。
やがて小さな団子が三つ。
「今夜の音です」と店主が言い、わたしに手渡す。
ひとつ口へ運ぶと、欠けていた場所が、今日一日の音でそっと埋まっていくのがわかった。
月は自分で光らず、借りた光にかたちを合わせる。わたしもまた、誰かの言葉やまなざしに照らされるたび、薄く満ちて、薄く欠ける。
軽くなった前髪を撫でると、わたしの額に細い弧が居場所を見つけていた。
見えない月と、前髪の角度。借りた光とわたしの影が、静かに釣り合う。
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