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【#エッセイ】「イレギュラーな日常」:謎の液体エマール

じっちゃんの緊急搬送と、我が家のTシャツ全滅事件。


自分のアゴにすっかり定着し、のんきにすくすくと伸ばし中の髭をじっくりと撫で回してみる。

このチクチクとした確かな手触りを感じるたび、「オイラも人生の後半戦を味わい深く歩んでいるナァ」なんて、ちょっとしたダンディズムに浸りたくなるから不思議なものである。

時の流れというのは本当に早いもので、オイラが立ち止まってジタバタしていようが、髭は毎日、確実にその存在感を増しているらしい。

だが、今日の朝は時間の流れ云々の前に、そもそも最初から少し寝坊気味のスタートであった。

「まあ、少し遅れたくらいで世界が滅びるわけじゃなし」と白ハムスター特有ののんきさを発揮し、ここ最近の起き抜けルーティンであるヨーグルトをスプーンで掬い、アイスコーヒーを胃袋に少しだけ流し込む。

パパッと支度を済ませたら、まずはいつもの黒猫にご挨拶に行くのがオイラの義務である。


今日は凛としていた

黒猫との無言の交流を終えたオイラは、いつもの公園へと向かった。

ここで体をほぐし、ヨガやらストレッチやら筋トレやらに励むのが小綺麗な朝の過ごし方なのだが、運動も佳境に入ったその時、突如として公園内に不穏な音が響き渡ったのである。

( ͜ 🚨・ω・) ͜🚨ピーポーピーポー

「ん? 何事かしらナァ」と間抜けに周囲を見渡してみると、なんとすぐ近くで、見知らぬじっちゃんが地面に綺麗にひっくり返って倒れているではないか。

周囲にいたラジオ体操仲間のじっちゃん・ばっちゃんたちが総出で看病し、駆けつけた救急隊員の手によって、じっちゃんは手際よくタンカに乗せられてドナドナと運ばれていった。


帰り道、オイラはアゴの髭を撫でながら静かに推理した。


今朝は曇り空で、昨日よりも気温がグッと低かったのだ。

あのじっちゃんはきっと、「おっ、今日は涼しいから大丈夫だな」と油断して水分補給を怠ったに違いない。

「ふー、危ない危ない。明日は我が身であるナァ」 オイラは心底ゾッとし、これからはどんなに近くの公園へ行くときであっても、必ず水筒を持参してウォーキングに出かけようと、命の尊さを噛み締めながら心に固く誓ったのであった。


さて、スリリングな冒険を終えて我が家に帰り着き、シャワーを浴びてさっぱりしたオイラを、第二の事件が待ち受けていた。

いざ着替えようとタンスを開けたところ、なんと普段着のTシャツが、文字通り「全部一枚残らず無くなっていた」のである。


「・・・おや? おかしいじゃないの」


昨年まではこの枚数で十分にローテーションが回っていたはずなのに、一体全体どういう怪奇現象だろう。

首を傾げてよくよく考えてみたら、実になんてことはない。昨年までは職場の制服をガシガシ洗濯していたため、強制的に週に2回は洗濯機を回していたのだ。

それが今や自由の身となり、洗濯の頻度が落ちたせいで、Tシャツの消費スピードに洗濯が追いつかなくなっていただけというマヌケなオチであった。

しょうがないので、滅多に出番のない「お出かけ用Tシャツ」を渋々引っ張り出して身にまとい、オイラは洗濯機へと向かった。

洗濯機のフタを開け、脱ぎ散らかした洗濯物を容赦なく突っ込み、いつもの相棒である液体洗剤「NANOX ONE」を投入しようとしたその時である。


ボトルが、空っぽであった。


「トホホ、どこまでも手際が悪いナァ」とボヤきながら、洗剤の詰め替え用が保管されている棚の奥へ手を伸ばした。

すると、そこからゴソゴソと出てきたのは、NANOXではなく、とてつもなく巨大な詰め替え用の「エマール」であった。


・・・エマール。



そういえば、昨年のAmazonプライムデーという年に一度のお祭りに浮かれ散らかし、「なんだか安くてお得っぽいから」という安易な理由でポチった代物であった。

記憶を遡ってみても、過去に一度しか使った形跡がない。

そもそもオイラは、この「エマール」という液体についての使いどころがイマイチよく分からないのである。

世間では「おしゃれ着洗い」などとお上品に呼ばれているが、オイラの日々の暮らしにおいて、オシャレ着なんていう高尚な衣類は一枚も存在しない。毎日が部屋着とTシャツの白ハムスターライフである。

けれど、この巨大な液体をそのままゴミ箱へ放り出すわけにもいかない。

もったいない精神がウズウズと疼き出したオイラは、何を血迷ったか、「よし、NANOXとエマールをボトルに半々に入れて混ぜちゃえ!」という暴挙に出た。

世間ではよく「混ぜるな危険」と脅されるが、あれは塩素系漂白剤とかの恐ろしい科学兵器の話であって、洗濯洗剤同士ならちょっと泡立ちが変わるくらいで死にはしないだろうと、気にせずガバガバとブレンドして洗濯機を回してやった。「良い子は真似しないでね」

洗い終わったズッシリ重い洗濯物をバッグに詰め込み、オイラは徒歩2分の場所にあるコインランドリーへと向かった。

そうなのだ、オイラは家に洗濯物は干さず、コインランドリーのデカい乾燥機で一気にパキッと乾かす派なのだ。乾燥機に洗濯物を放り込み、お金を入れてスタートボタンを押す。

だが、オイラはここでドラムの回転をボーッと眺めるような暇人ではない。スマホでキッチリとタイマーをセットすると、「じゃあな」と乾燥機に背を向け、一旦我が家へとスマートに引き揚げるのである。

家に戻り、タイマーが鳴るまでのひととき、オイラはどうしても腑に落ちない頭で考え込んでいた。

ここで全国の皆さん、特に日夜洗濯機と戦っている主婦の皆様や女性陣に、アゴの髭を揺らしながら真剣に問いたいのである。


「いったい皆様は、エマールをいつ使っているの・・・❓」


ぶっちゃけた話、エマールって、なんか汚れが全然落ちてないような気がするのはオイラだけであろうか。

あの優しすぎる洗い上がりのせいで、どうにも「洗ったぞ!」というガツンとした達成感が得られないのだ。やっぱり男の洗濯は、NANOXで脂汚れを根こそぎゴシゴシ落としてナンボである。

ピピピッというスマホのタイマーに急かされ、再びコインランドリーへ赴き、乾燥機からホカホカのTシャツを取り出す。

微かに漂うブレンドされたエマールの優しすぎる香りに首をかしげながら、「まあ、Tシャツが縮まずフワフワになったから良しとするかナァ」と、どこまでもトホホな朝の帳尻を合わせるオイラなのであった。

(つづく)

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