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【エッセイ】「イレギュラーな日常」:朝のボルダリングマスターと、消えた逆ナンの夢

今朝も時計の針が5:00を回る頃にパッと目が覚めた。
「よし、今日もウォーキングへ行くぞ!」と私は大いに息巻いて、さっさと着替えを済ませて威勢よく外へと飛び出した。


ところが、一歩外へ出た瞬間に、あろうことか雨が降っているではないか。


・・・ふー、またかよ、ということになる。天気の神様も、どうしてこう私のやる気に水を差したがるのだろうか。


外を歩けない以上、仕方がないので今日も家での筋トレに変更することにした。まずは形から入るタイプのご隠居よろしく、筋トレの今日のお供にする「オイコス」とコーヒーを買いにセブン-イレブンへ向かうことにした。


ところが、セブン-イレブンへ向かう途中のことである。急に前方から、うら若くて背の高い、いかにも今時のギャルっぽい女の子がツカツカと歩いてきて、私に話しかけてきたのである。


こちらはまだ寝起きで、脳みそがちっとも働いていない。
一体全体、なぜこの髭面のおっさんにうら若き乙女が声をかけてきたのか、世界七不思議のひとつに数えたいくらい謎であった。


寝ぼけ眼で耳を傾け、よおく話を聞いてみると、どうやら彼女のアパートのオートロックが壊れてしまい、門が開かなくて困っているのだという。


ついては、オイラにその門をよじ登って、内側から鍵を開けてほしいという世にも奇妙なお願いであった。


あーなんだ、逆ナンじゃなかったのか、と私は激しく安堵すると同時に、ちょっぴり切ない気持ちになった。


しかし、困っているお嬢さんを前にして「嫌だ」と言えるほどオイラは冷酷な男ではない。二つ返事で「いいよ」と快諾した。


オイラの背丈は175センチなのだが、問題の門はなかなかの高さで、見上げると優に2.5メートルちょいはあった。


一応、用心のために彼女に「監視カメラとかはついてるの?」と聞いてみたところ、「付いてません」とあっさり答えが返ってきた。
(オートロックの意味ないじゃん・・・)と私は心の中で鋭いツッコミを入れたが、そこは口に出さずにおいた。


さあ、いよいよ門登りの本番である。


これくらい簡単だろうと高をくくってよじ登ろうとしたのだが、あろうことか、体が上手く上がらないのである。これには自分でも心底驚いてしまった。


・・・おいおい、オイラの体はこんなにも衰えていたのか。


若い頃の私であれば、シュパッ!とツバメのように門の上に登り、そこから華麗にムーンサルトを決めて着地。「さぁ姫、鍵は開きました。さぁどうぞ‼️」とスマートに決めるはずだったのに、と己の老いを激しく嘆き悲しんだ。


いや、待てよ。ここで私はハッと気がついた。


今日履いている靴はアディダスのスタンスミスである。
足場がツルツルと滑って登れないだけではないか。頼まれて引き受けた手前、いくら最近体重が急上昇中のおっさんだからといって、ここで無様に諦めるわけにはいかない。大人の男には面子というものがあるのだ。


私はふと考え、一度きびすを返して自分の部屋へと猛ダッシュで戻った。そして、必殺の秘密兵器であるグリップの強い「滑り止め付きヨガ用の靴下」を履き、さらに「作業用のグリップ手袋」をはめて完全武装し、再び現場へと出陣したのである。


するとどうだろう。先ほどの苦戦が嘘のように、まるでボルダリングのマスターか、はたまたスパイダーマン顔負けの勢いで、スイスイと壁を登れるではないか!道具の力とは実に偉大なものである。
あっという間に門の向こう側へと着地し、カチャリと鍵を開けてあげた。


女の子はものすごく嬉しそうに、そして見ず知らずのおっさんを巻き込んで申し訳なさそうに、何度も丁寧にお礼を言ってくれた。


もしもこれが寝起きでなければ、下心を隠しつつ「いやぁ、大変でしたねぇ」なんて言ってもう少しお話を引き延ばしたいところであったが、なんせこちらはフラフラの寝起きオッサンである。


頭がちっとも働かないので、「じゃ、気をつけてね」とだけダンディ(のつもり)に言い残し、部屋に戻ってスマホを持って、再びセブン-イレブンへと向かった。


それにしても、うら若き女の子とお話ししたなんて、一体いつ以来の出来事だろうか。 記憶を遠く遡ってみると、去年の忘年会の二次会で行ったガールズバー以来のような気がする。なんとも燃費の悪い私の社交性である。


本日も朝からとんだイレギュラーが発生し、せっかくの生活ルーティンが崩れるかと思いきや、朝一番に強烈なボルダリング(門登り)をしたおかげで体が完全に覚醒した。


雨のせいで頭は少々鈍くなっていたが、その後の軽い筋トレからのルーティンは実にキッチリとこなすことができたのである。


心残りを言えば、やっぱりもうちょっとだけあのお嬢さんとお話したかったな、という小市民的な欲が出なくもない。


まあ、それでも、うら若き乙女の窮地を救ったことと、オイラの男としての面子が保たれて、ちょっぴり自分に自信を取り戻せたのだから、結果オーライ、良かった良かった、ということにしておこう。

イレギュラーはつづく?

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