四年付き合った彼と、今日別れた。
別れを切り出したのは私の方だった。
でも、彼はまだ知らない。
私が最後まで言えなかった秘密を。
『秘密』
彼は知らない
わたしの秘密を。
これが最後だと思い、振り返った。
小さく見えなくなるまで彼を見送った。
彼も、一度だけ振り返った。
別れを切り出したのは私の方だ。
でも、あなたは驚かなかった。
誰かを好きになったことは、気づいていた。
残業だと言って帰りが夜中になることが多くなった。
一度、会社に電話したことがある。
定時にもう帰っていると言われた。
家では私に隠れてスマホを見てばかり。
会話がまったくなくなった。
話しかけてもいつも上の空だ。
体の調子が悪くて病院に行くと言っても、生返事をしてスマホの画面にまた目をやった。
不安で苦しくて、とうとう会社帰りに彼を待ち伏せした。
後悔した。
知らない方が良かった。
一緒にいても心はいつも遠くにある。
その横顔のわけを口にされるのが怖くて、ずっと自分に嘘をついていた。
つきあい出したのは四年前。
二人の出会いはありふれてた。
仕事の先輩達との飲み会に彼が来ていた。
帰りが同じ方向で話がはずみ、私の方から連絡先を交換した。
一緒に住むようになってからは、毎日が当たり前過ぎて何も疑うことなどなかった。
当たり前じゃなかったのにね…。
ねえ、
あの日わたし、帰り道が同じ方向だって言ったでしょ。
あれほんとは嘘だったんだよ。
もう二度と会えない気がしたんだ。
今日まであっという間だった。
でも、後悔はしてない....。
これからは、お腹の子と二人で生きていくから。
あとがき
彼女は、なぜ彼に子供のことを言わなかったのか?
言えなかったのか?
それを言っても引き留めることはできないと思ったから?
それとも彼を苦しめることになると思ったから?
それでも彼のことが好きだった。
だから何も言わずに別れを決めた。
後悔はしない。
■動画音声
VOICEVOX Nemo :透川ナナ
■作者
なごみ堂
