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働くあなたの「からだ」をデータで守る!

上司とうまくいかないなぁ…
朝の出社はつらいなぁ…

そんなモヤモヤ、感じていませんか? 今はささいなことかもしれませんが、10年、20年後の健康に響いてくるかも…!?

そんな意外な関連を、膨大なデータで検証し続けるのが、名大の
国際保健医療学・公衆衛生学教室です。


”聴く”派のみなさんへ、この記事の内容を、研究者や学生の声とともにポッドキャストにまとめました。読む、聴く、お好みのスタイルで♪


コホート研究という、人々を長期にわたって調査し続ける手法をベースに、「どうすれば、より多くの人が健康でいられるか」に取り組んでいます。

研究室を訪れると、中国、エチオピア、アフガニスタン…と、国籍も文化もさまざまなメンバーが、黙々とデスクに向かっています。でも、ふとした合間の雑談は、とても和やか。そんな家族のように団結するチームを率いるのは、八谷 寛やつや ひろしさん(医学系研究科 教授)です。

八谷 寛やつや ひろしさん(医学系研究科 教授)
公衆衛生研究に携わって30年。自らワクワクするような経験は減ったと笑う一方で、今は若手にその機会を提供することに注力。メンバーの話の端々から、八谷さんへの厚い信頼が伺えます。

八谷さん:コホート研究は、健康な人たちの体の状態や生活習慣を長い期間にわたって調べ、その間にどんな病気や症状が現れるかを見ていく研究です。そうすることで、病気の原因や予防につながるヒントが見えてきます。

八谷さんたちの研究の土台になっているのが、約30年の歴史を持つ「愛知職域コホート研究」。働く人たちを長期的に調べ続けるこの取り組み、どのような特徴があるのでしょうか?


愛知職域コホート研究とは

愛知職域コホート研究」は、1997年から現在まで約30年間、中部地方の自治体公務員を対象に、健診データや生活習慣・仕事のストレスなどを調査しています。八谷さんが研究人生を歩み始めた頃に始まり、少しずつ変化させながら、育てるように関わり続けてきたそうです。

これまでの調査の流れ。入退職に伴い職員の入れ替わりがあるので、対象者は随時更新されていきます(図は、愛知職域コホート研究HPより)。

八谷さん:私たちの強みは、働く人にフォーカスした調査を長年続けてきている点です。働き方や職場ストレスといった、働く人ならではの要因をしっかりと調べられるんですよ。

これまでに延べ約6,500人が参加。血圧・血糖・コレステロールといった身体データから、職場のストレスや睡眠・食習慣まで、幅広い情報が積み重なっています。

実際の調査票。設問冊子と回答冊子は、A4サイズで各15ページほど。

長く続けているからこそ、見えるものもたくさんありそうです。最近の発見について、聞きました。

最近の4つの発見

1. 上司のサポートが、部下の心臓を守る

「疲れやすい」「体がしんどい」といった症状がある人は、心血管疾患になりやすい。しかも、上司からのサポートが少ない人は、リスクが2.3倍に…!約4,800人を13年以上調査し続けたデータからわかりました。

研究を行なったのは、宋 澤安ソウ ジアンさん(医学系研究科 特任助教)。働く人が一日の多くの時間を過ごす職場でのストレスに着目しています。

宋 澤安ソウ ジアンさん(医学系研究科 特任助教)
中国出身で、本研究室の卒業生。今は学生たちのお姉さん的存在。バドミントンと猫が癒し。

宋さん:上司からのサポートが心血管疾患のリスクと関わっていたのは驚きました。同僚や家族からのサポートとの関連は見られなかったんですよ。

質問票には、一般的に使われている「職場ストレスチェック」も取り入れています。

宋さん:日本の働く人たちはとっても真面目。不調があっても声に出さない人が多いと感じます。でも、悩んでいることは恥ずかしいことじゃありません。問題が深刻になる前に、ぜひ誰かに相談してみてください。私も研究室では、気軽に声をかけ合える雰囲気を大切にしていこうと思います。

論文情報
Zean Song, Midori Takada, et al. International Archives of Occupational and Environmental Health, 2026. doi.org/10.1007/s00420-025-02189-w
Zean Song, Midori Takada, et al. Journal of Occupational Health, 2026. doi.org/10.1093/joccuh/uiag006

2. 「夜型」がメタボリスクに関与?

夜型の人は、血糖や血圧・脂質などが重なって乱れる「メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)」になるリスクが高い。2,200人以上、4年間のデータから見えてきました。

(研究室提供)

でも「夜型」が悪いわけではないんですよ、研究を行なったEndale Baruck Tegegnエンデール バラック テゲグンさん(医学系研究科 大学院博士後期課程)は言います。

Endale Baruck Tegegnエンデール バラック テゲグンさん(医学系研究科 大学院博士後期課程)
研究室での愛称は、”バラックさん”。エチオピア出身。80以上の民族が暮らす多様な文化の中で育ち、社会や文化の健康への影響への関心を持つように。登山好き。最近は長野の焼岳やけだけ(2,500m)を制覇!

バラックさん:Japan has a highly structured work culture often characterized by fixed work schedules. For people who are naturally evening type, fixed work schedules may cause a mismatch between their natural biological clock and social obligations. (日本では、決まった時間に働く文化が根付いています。夜型の人にとって、そうした働き方は、自分の体内時計と社会のリズムのミスマッチを生んでいるかもしれません。)

People shouldn't blame themselves for their natural biological rhythm. The main message is to understand your rhythm and try to protect your health within the reality of your daily life. By the way, I'm an evening type myself😄 (でも夜型だからといって、自分を責めないでください。大切なのは、自分のリズムを知って、毎日の生活の中で健康を守る工夫をすること。…実は私も夜型なんです笑。)

論文情報
Baruck Tegegn Endale, Zean Song, et al. Chronobiology International, 2026. doi.org/10.1080/07420528.2025.2606278

3. 血糖値が高いと、噛む力も落ちる

血糖値が高い人は、正常な人の約4倍、噛みにくさを感じている。そんな意外な関連が、約3,900人のデータから見つかりました。

(研究室提供)

歯の本数や歯周病ではなく「噛みにくさ」に注目したところが、この研究のポイント、と語るのは、Mohammad Hassan Hamrahモハンマド ハッサン ハムラさん (医学系研究科 大学院博士後期課程)です。

Mohammad Hassan Hamrahモハンマド ハッサン ハムラさん (医学系研究科 大学院博士後期課程)
研究室での愛称は、”ハッサンさん”。アフガニスタン出身の歯科医。研究環境に魅力を感じ、日本へ。大学院修了後は、アフガニスタンで研究を続ける予定。

ハッサンさん:As a dentist, I have always been interested in the relationship between oral health and systemic conditions. In Japanese health checkups, there was one question about chewing condition that had been added. I saw this as a good opportunity to study this topic.(歯科医として、口の健康と全身の健康のつながりに関心を持ってきました。日本の健康診断に「噛みにくさ」の質問が加わって、研究の良い機会だと思いました。)

Oral health is an important part of overall health — do not think of it separately. By paying attention to oral function, conditions like diabetes may be possible to improve.(口の健康と全身の健康を切り離して考えないで!噛む力を意識することで、糖尿病のような生活習慣病の改善につながるかもしれません。)

論文情報
Mohammad Hassan Hamrah, Zean Song, et al. Environmental Health and Preventive Medicine, 2025. doi.org/10.1265/ehpm.25-00284

4. 「血圧高め」を、社会はまだ軽く見ている

基準値を少し上回るくらいの高血圧、甘く見ていませんか?実は、脳疾患や心疾患の多くを生んでいるのが、この「少し高い」レベルの高血圧。約4,800人の15年分のデータから見えてきました。

研究を行なった近藤 寛こんどう かんさん(医学部4年生)は、家族に高血圧の方がいることから、このテーマに興味をもったそうです。

近藤 寛こんどう かんさん(医学部4年生)
医学部の授業がきっかけで本研究室に。「時間のある学生時代に研究に挑戦できるのは貴重。将来は、医師と研究者、両方の道を歩んでいきたい。」

近藤さん:血圧と脳卒中や心臓病の関連は当たり前だと言われがちですが、改めて問い直すことで新しい発見が得られるのが興味深かったです。

(写真はイメージ)

近藤さん:血圧が少し高いと言われても、大したことではないと放って置かないでほしいです。薬で下げることもできますし、生活習慣の見直しでも変わります。健診で「少し高め」だったら、まず一度お医者さんに相談してみてください!

論文情報
近藤寛, 宋澤安, 髙田碧, ほか. 日本循環器病予防学会誌, 2026. doi.org/10.11381/jjcdp.61.1_15

データの向こうに、人がいる

研究を進めるうえでいつも心に留めているのは、「データの向こうに、必ず人がいる」ということ⸻生活習慣と疾患の関連を研究する髙田 碧たかだ みどりさん(医学系研究科 講師)は言います。

多様なバックグラウンドを持つメンバーが安心して研究に取り組める環境づくりを担い、今回の取材のきっかけもつくってくれた髙田さん。当日は不在でしたが、書面でコメントを寄せてくれました。

髙田さん:情報を数字で扱う場面が多い研究ですが、一つひとつは、誰かの生活や健康に関わります。

学生たちの居室。それぞれのモニターに映るたくさんの数字の向こうにいる〝人〟を見ています。
大きなテーブルを囲んでの議論も、研究室の日常。

髙田さん:個人ができる予防を続けることはもちろん大切ですが、同時に社会全体で健康を支える仕組みを整えていくことも必要です。私たちの疫学研究が、いつかそうした仕組みづくりの一端を担えるように、これからも丁寧に取り組んでいきたいと思っています。


世界中から集まったメンバーが、日々データの向こうにいる人々の健康と向き合う国際保健医療学・公衆衛生学教室。次はどんな発見が生まれるでしょうか。

取材・文:丸山恵(名古屋大学URA)


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