【内観風物詩】お盆に帰る前に、ひとつだけ
皆さま、瞑想の森内観研修所 所長の清水です。
お盆が近づいてきました。帰省の予定を立てている方も多いのではないでしょうか。
今日は、恨みや葛藤を抱えている方に向けた話ではありません。むしろ、「親には感謝している」「家族のことは大切に思っている」という方に、読んでいただきたい話です。
その感謝は、本当に「わかっている」感謝でしょうか
親に感謝している。育ててもらったことには、ありがたいと思っている。
多くの方がそうおっしゃいます。そして、それは嘘ではないと思います。
ただ、内観研修所に30年以上居て、さまざまな方の内観に携わらせていただいていると、一つ感じることがあります。「自分は感謝できている」という方の感謝は、自分にとって都合のよい面だけで作られていることが多いのではないか、ということです。
美味しいご飯を作ってもらった。欲しいものを買ってもらった。優しくしてもらった。こうした「自分が嬉しかったこと」は、感謝として覚えています。
しかし、親が自分のためにどれだけ犠牲を払ったか、どれだけ我慢を強いられたか、どれだけ時間を費やしたか、そうした「相手の側の事情」は、ほとんど見えていない。自分が受け取って嬉しかったことだけを「感謝」しているうちは、まだ感謝の半分しか見えていないのかもしれません。
ある男性が、帰省の前に座った話
ある30代の会社員が、お盆の直前に研修所を訪れました。
その方は、親との関係に特に問題はありませんでした。「普通に仲がいいです」「年に2回は実家に帰っています」とおっしゃっていました。内観に来た動機も、ただ上司に勧められたから、という軽いものでした。
ところが、型通りに、母親に対して小学校低学年から順に調べ始めたところ、三日目あたりから様子が変わりました。
最初は「毎朝ご飯を作ってもらった」という、ありふれた記憶でした。しかし、その記憶を丁寧にたどっていくうちに、彼はあることに気づきました。
母は、自分が起きるより早く起きていた。寒い冬の朝も、体調が悪い日も、一度も休まなかった。自分が「おいしい」と言った日も、文句を言って残した日も、母は毎朝、同じ場所に立っていた。
「自分は、ご飯を作ってもらったことは覚えていた。でも、母がそのために何を考え、何を我慢し、どんな思いで台所に立っていたかなどとは、一度も考えたことがなかった。」
彼は涙を流しました。悲しくて泣いたのではありません。母の心を知り、自分の「感謝」が、いかに薄っぺらなものだったかに気づいたのです。
研修を終えた彼が、お盆に実家に帰ったとき、何が変わったか。特別なことは何もしなかったそうです。ただ、母が台所に立っている後ろ姿を見たとき、以前とはまったく違うように見えたのだそうです。
「あの背中が、30年間、毎朝あそこに当たり前のように立っていた。その後ろ姿の向こうにある母の思いが、初めて見えた気がしました。」
大切なのは、数ではなく「相手の思い」
内観は、してもらったことの「数」を数え上げるだけの作業ではありません。たしかに「弁当を何回作ってもらった」「いくら使ってもらった」という『量』も大切な要素かもしれませんが、本当に大切なのは、その一つひとつの事実の裏に隠れている、相手の思いやりの質を感じ取ることです。
たった一つの記憶でも、その裏にある相手の思いに触れたとき、人は深く動かされます。毎朝の弁当の、その一つの事実の向こうに、自分のために早起きし続けた母の姿が見えたとき、回数ではなく、その圧倒的な思いが、心に届くのです。
恨みがなくても、内観する意味はここにあります。「わかっているつもり」だった感謝が、相手の思いに裏打ちされた、より深い感謝に変わる。漠然とした「ありがとう」が、揺るがない確信に変わるのです。
帰省の前に、30分だけ
研修所に来なくても、帰省の前にできることが一つあります。
静かな場所で30分だけ座って、お母さんかお父さんのどちらか一人について、「していただいたこと」を一つ、思い出してみてください。
たくさん思い出す必要はありません。一つでいい。その代わり、その一つの事実の裏に、相手のどんな思いがあったかを、時間をかけて感じてみてください。
その弁当を作るために、母は何時に起きていたか。その送り迎えのために、父は何を後回しにしていたか。思い出の数ではなく、その向こうにある相手の気持ちに触れたとき、帰省したときの「ただいま」の気持ちが、少し違ったものになるかもしれません。
そして、帰省できたときは、「今まで苦労かけたね」と、一言かけてみてください。そして、親の苦労話に耳を傾けてみてください。それは、何よりの親孝行になるはずです。
もしその30分で、「もっと深く人の思いを知りたい」と感じたら、それが、一週間の集中内観の入り口です。
瞑想の森 内観研修所 所長 清水 康弘

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