マッチングアプリを開くだけで消耗する内向型へ――恋愛市場での静かな生存戦略(前編)
アプリを開く。
通知が来ている。
でも、返事をする気になれない。
昔の話だが、マッチングアプリをやっていたことがある。出会いが欲しくて始めたはずなのに、出会う前から疲れていた。
私は、アプリ内の恋愛市場のルールについていけなかった。
マッチングアプリを開くだけで疲れていた
登録当初、通知が止まらなかった。
(世の多くのマッチングアプリは、女性を無料登録させることで「商品」とするビジネスモデルなので、「新商品」はアルゴリズム的に優遇されるようにできている。)
通知に疲労し、通知をオフにした。
でも、毎日ではないにしても、一定のペースで開かないといけない気がしていた。返信が遅れると、相手からの返信がこなくなる。
そのプレッシャーがじわじわと積み重なって、いつの間にかアプリを開くこと自体が「義務」になっていた。
返事を書くたびに、「これで合っているのか」と考えていた。プロフィールを見て、何を話せばいいか考えて、相手が誰なのかもまだわからないのに、気を遣う言葉を選んで、話が広がるように表面的な質問を考えて。
そしてもうひとつ、会う前段階でしんどかったことがある。
自分の写真や情報を、アプリという場に「さらしている」という感覚だ。見知らぬ人に見られること、評価されること、スワイプされること。その事実が、どこかずっと引っかかっていた。注目されることへの抵抗、と言えばいいのか。うまく言葉にできないけれど、「自分が品定めされている」という空気が、じわりと消耗させてきた。
合コンよりはマシだった
「じゃあ合コンや飲み会は?」と言われると、それはもっと無理だった。
大人数でのグループ会話は得意ではない。初対面の人と、テンポよく場を盛り上げるのも苦手だ。職場での出会いは、そもそも環境が整っていなかった。
だからマッチングアプリを選んだ。「ひとりで、自分のペースで、テキストで話せる」という点は、合コンよりずっと自分に向いていると思ったのだ。
そしてたしかに、合コンよりはよかった部分もある。
私は「ひとり」が好きだった
私は恋人がほしくないわけではなかった。
でも、もともと休日に「誰かと過ごさなければ」という感覚は、あまりなかった。ひとりで本を読んだり、音楽を聴いたり、何も予定がない一日を丁寧に過ごすことが、普通に好きだった。
そのうえで、誰かとお互いの人生がさらに豊かになる関係を築くことが当時の理想だった。だから出会う必要がある。
でも、出会いのために自分の時間を削ることへの抵抗感も、確かにあった。
この二つの気持ちが同時にある。それ自体はおかしいことではないのだが、マッチングアプリをやりながらだと、うまく折り合いがつけられなかった。
深く話さないと人を好きになれない
私には、写真を見てピンとくるという感覚がほとんどない。
プロフィールを読んでも、「面白そうな人だな」くらいまでしかわからない。メッセージを何往復かしても、相手がどんな人かはまだぼんやりしている。
実際に会って、話して、その人の話し方や考え方のくせや、笑うときの間を感じて、ようやく見えてくる。
条件や属性では判断できない。深いところでつながれるかどうか、それだけが知りたかった。でもマッチングアプリは、その「深いところ」に辿り着く前に判断を求めてくる。
これがデミロマンティックと呼ばれるような傾向なのか、それとも単に慎重なだけなのかはわからない。ただ、「条件と写真だけで判断してください」という入口は、自分にはかなりきつかった。
好きになるまでのプロセスが、恋愛市場の設計と噛み合っていなかった。(アプリ恋愛の大半は付き合ってから好きになるものなのかもしれないが)
恋愛市場のルールがしんどかった
マッチングアプリには、暗黙のルールがある。
第一印象で選ぶ(写真・プロフィール)
複数の相手と同時に進める
限られたやり取りの中で自分を魅力的に見せる
早めに会って、判断する
どれも、「数を回す」前提で設計されている。
調べると、マッチングアプリの「攻略法」みたいな情報がたくさん出てくる。プロフィールの写真の選び方、最初のメッセージの文章、返信率を上げるコツ。読んでいて、なんとも言えない違和感があった。恋愛を、攻略するものとして語っている。その違和感自体が「自分には向いていないのかも」という気持ちをさらに強めた。
初対面でも話せる人、直感で動ける人には、案外フィットする仕組みなのかもしれない。でも、そうでない人にとっては、入口から消耗させられる設計でもある。
もちろん、内向型かどうかだけで一概には言えない。直感的に動くタイプかどうか、刺激に対する耐性、人を好きになるまでの時間、こうした個人差が複合的に絡んでいる。ただ、「深くゆっくり」を好む人にとって、このスピードと量は負荷が高い。
▼後編はこちら
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