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貧乏、居間なし 第2話

○居間なしハウス・謙也の部屋
翔真「演劇観に行くぞ」
謙也「演劇?はいっ」

○小劇場・中
   翔真と謙也が入って来ると開演のブザーが鳴り、客席が暗くなる。ス
   テージに演者が出てくる。二人芝居。美術も簡素で照明もほぼ変わら
   ないシンプルな演劇。

○カフェ
   謙也がコーヒーを飲み干す。
翔真「どうだった?」
謙也「あんまり照明とか美術に頼ってなくて野外でも出来そうというか」
翔真「面白かったのか?」
謙也「面白かったです!」
翔真「小劇場はどうだった?」
謙也「そういえば。全然大丈夫でした」
翔真「大体がイメージの問題だからな」
謙也「イメージ?」
翔真「例えばさ、催眠術で苦手な食べ物が食べられるようになるだろ?」
謙也「見たことあります」
翔真「その人の持つ嫌なイメージを払拭できるかどうかだけなんだよ」
謙也「(ポカンとしたまま)分かります!」
翔真「分かった振りするなよ」
謙也「分かったんですもん」
   ないコーヒーをすする謙也。
謙也「翔真さんは演劇に夢見てるんですか?」
翔真「何だよそれ」
謙也「聞きたいです」
翔真「夢なぁ」
   店員、来る。
店員「こちらお下げしても宜しいですか?」
謙也「あ、はい。(翔真に)聞かせてください」
   前のめりになる謙也。下げている店員と体が当たりカップがバランス
   を崩す。
店員「失礼いたしました」
謙也「いえ、僕がぶつかっちゃって。すみません」
   店員、去る。立ち上がる翔真。
翔真「見せたい場所ある」
謙也「でも、、」
   と言うが、翔真は行ってしまう。謙也も後を追う。

○河川敷
   翔真と謙也、来る。
謙也「ここが見せたい場所?」
翔真「俺たちが公演してる場所だ」
   草と砂利と川しかない。事の重大さが分かったようで、神妙な面持ち
   の謙也。動き回っている男女がいる。紗英と崇だ。
翔真「美術は風で倒れる。演者を隠す場所を作れないから、出ハケも難し
 い。照明なんてもちろん無理。音響も最悪。内緒話させたくても大声じゃ
 なきゃ聞こえない。さっき観た作品も、謙也の言う通り照明も美術も少な
 くて野外でも出来るかもしれない。でも、閉鎖的な空間だからこそ成り立
 つもので野外だと雰囲気が出ない」
謙也「そうですね」
   紗英と崇が、二人に気づき、来る。
紗英「おーい!」
崇「来てたのか」
紗英「やっぱさ、キャパ五十が良いとこだね」
謙也「こんなに広いのに、たった五十人?」
崇「今回の内容的に、声のボリュームと演技のニュアンスのバランスで見
 て、五十だな」
紗英「呼びすぎて雨降ったら最悪だしね」
謙也「雨は中止ですか?」
紗英「見辛い聞こえ辛いで、誰得でしょ」
謙也「でも赤字じゃあ」
翔真「無理矢理公演しても、お客さんの信頼失って損するんだよ」
崇「信頼は大事」
翔真「でも百は呼べないと、存続に関わる赤字だぞ」
紗英「チケット代上げるか台本書き換えるか」
翔真「(しばし悩み)書き換えるか」
   足取り重く帰っていく翔真。
紗英「最近、謙也のせいで劇場でやってた時のこと思い出しちゃうのよね」
崇「劇場で演出する翔真、また見たいよな」
紗英「そうね」
   二人が謙也を見る。ハッとし、急いで帰る謙也。 

○居間なしハウス・翔真の部屋(夕)
   ホワイトボードに登場人物の相関図を書いている翔真。

○劇団 団の稽古場(夕)
   崇と御厨が、向かい合う。御厨の後ろには演者達が座っている。
御厨「ここはどういうシーンですか?私の意図を汲み取る努力をしてくれま
 したか?」
崇「汲み取ったつもりです」
御厨「あれで?」
崇「ディスカッションしましょうよ」
御厨「口答えばっかり」
崇「口答えっていうか」
御厨「まともな公演やってないから鈍っちゃいました?」
   クスクス笑う演者達。 

○居間なしハウス・謙也の部屋(夕)
   謙也、劇場に電話している。
謙也「そこを何とか!」
電話の声「無理よ。劇場潰されちゃったら困るんだから」
謙也「演出は全てお伝えします。無断では何もさせませんから」
電話の声「私だけの判断じゃないから。ごめんね」
   電話を切られる。謙也、切り替えて次の劇場へ電話する。
謙也「私、劇団 貧乏、居間ナシの、、」
   電話を切られる。
謙也「え〜(切り替え)次々!」

○駅前(夜)
   紗英が館林といる。
館林「帰っちゃうの?」
紗英「今日はね」
館林「前も帰っちゃったし、付き合う気ある?」
   紗英、館林に近づきキスをする。
紗英「最初が慎重なだけだから。もう少し時間ちょうだい」
館林「分かったよ。気を付けてね」
   無理に笑顔を作る館林。紗英、手を振り、駅の方へ歩く。館林は反対
   方向へ。紗英はしばらく歩くと元の場所へ戻り、館林が帰るのを確認
   する。紗英の前に結が現れる。
結「あとどれくらい掛かりそうです?」
紗英「今日、彼女の元に行ってなければ、あと一ヶ月もあれば十分だと思い
 ます。夜に電話しておきますよ。電話に出れば会ってない」
   結、紗英を睨みつけ、ため息。
結「早めにお願いしますね」
紗英「はい」

○居間なしハウス・居間(翌朝)
   謙也、紗英、崇が台本の最新稿を読んでいる。翔真は頭を掻いたり落
   ち着かない様子。紗英と崇が読み終わり、台本を閉じる。
翔真「どう?」
紗英「逆にどうなの?」
翔真「もう嫌」
紗英「どう?って聞いただけでしょ」
翔真「質問を質問で返されて、良い結果になったことがない」
紗英「崇は?」
崇「いや〜、無いでしょ」
   頷く紗英。翔真が顔を歪める。謙也、読み終わる。
謙也「面白いですよ」
紗英「謙也は黙ってて」
翔真「多様な意見を受け入れたいよ、俺は」
紗英「これは妥協の本じゃん」
翔真「百人呼ぶための改稿!」
崇「でも百人満足させられないだろ」
翔真「そりゃ万人には受けないと思うけど」
紗英「そのレベルの話じゃない」
崇「ほぼ1シチュエーションなのは、何で?」
翔真「好奇心の言葉を、攻撃に使うのは嫌いだな」
紗英「まだ生きてる人たちを天国に連れて行っちゃう話でしょ?」
翔真「うん」
崇「なのに天国の話しかないじゃん」
翔真「ドラマ性は天国での話だから」
紗英「面白ければ良いよ。でもさ、」
翔真「これ以上直さないなんて言ってない。見せただけだろ」
崇「これが描きたいんだっていう拘りを見せてくれよ」
翔真「拘りなんて幻想だよ」
   崇、顔をしかめる。
崇「翔真、この作品は思い入れが違うだろ」
謙也「思い入れが違うって、どういうことですか?」
   翔真、顔を背ける。崇、翔真を気にしながらも話し始める。
崇「これは翔真の両親の話なんだよ。翔真は父親と口も聞かない程仲が悪か
 ったんだ」
謙也「確執があったんですね」
翔真「確執なんてそんな格好良いものじゃない。言い争ったこともない」
謙也「じゃあ何で?」
翔真「理由を聞かれると分からないのが本音なんだけど」

○(回想)翔真の実家・キッチン(夕)
翔真のM「子供の頃から何か好きになれなくて、ずっと反面教師にしてた」
   翔真(8)がおもちゃで遊んでいる。
   母親が料理をしていると父親が来る。
父「今晩、友達とご飯食べて来るから」
母「そういうことは早く言ってよ。もう作っちゃったじゃない」
父「あ、そうか。じゃあ家で食べるよ」
母「約束があるんじゃないの?」
父「俺が言えば大丈夫だって」

○翔真の実家・廊下(夕)
   翔真が廊下を覗くと、父が電話中。
父「ごめん。どうしてもって言われちゃってさ。そうなんだよ。今度埋め合
 わせするから。ホントごめんね」
   翔真、「フンッ」と部屋に戻る。

○翔真の実家
   翔真(15)がソファに寝転がって自分のお尻を指で弾いている。
翔真のM「でも、いくら反面教師にしてても抗えない部分があって、それが
 許せなかった」
   父親は新聞を読みながらテーブルを指で弾いている。母親、来る。
母「あんた達(笑って)血は争えないわねぇ」
   父親は調子に乗って大袈裟に指で弾く。翔真、立ち去る。
             (回想おわり)

○居間なしハウス・居間
翔真「俺がどれだけ逃げたって似てしまうのは仕方ない。だから物理的に視
 界から消すために家を出たんだ」
紗英「男ってよく分からないわ」
翔真「だから、俺も分かんないんだよ」
謙也「(台本を手に)この話とはどういう?」
翔真「そんな父親が五年前に自殺した。俺が家を出てからの父は本当に酷か
 ったらしい。ストレス溜めて、憂さ晴らしに酒を飲んで、自暴自棄にな
 る。母親もいい加減面倒見切れなくなって離婚を考えていた矢先のことだ
 ったらしい。俺は正直、ホッとしたよ。実の父親が死んだのにな。母親が
 ずっと我慢してたのは分かってたから、自由に生きて欲しかった」
   台本を見つめる謙也。
翔真「母が死んだのは、それから半年後。最悪な葬式だった。『天国のお父
 さんが呼んだんだね』とか『あっちでも仲良く暮らせると良いね』とか」
   怒りが湧いてくる翔真。
翔真「ふざけるな!って思ったね。勝手に連れて行かれてたまるかって」
崇「だから書いたんだろ?五年経って、ようやくこの話が書けると思ったん
 じゃないのか?その強い思いを込めろよ」
翔真「俺の思い入れなんか関係ない」
崇「意地張るなよ」
翔真「意地じゃない。俺はこの作品を劇場でやりたい。それだけだよ」
紗英「じゃあ違う作品にしたら?」
翔真「今はこの作品のことしか考えられない」
紗英「我儘」
翔真「違う。単純に、俺の力の無さだ」
   四人の間に気まずい空気が流れる。
紗英「雨降らせるから」
   取り憑かれたような不気味な笑顔になっていく翔真。
翔真「あの景色、忘れられるか?お客さんが驚いて、泣いて、笑って。一体
 なんてちっぽけなもんじゃない。色んな感情がぐちゃぐちゃになって渦巻
 いてた。俺の人生のハイライトだよ」
             (第二話 終わり)

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