貧乏、居間なし 第3話
○居間なしハウス・居間
掛ける言葉が見つからない三人。紗英、立ち上がり、
紗英「今からエチュードやろう」
翔真「はぁ?」
紗英「翔真がどう考えてても私はあれを超えたい。女優は我儘なのよ」
謙也「やりましょう!」
× × ×
翔真が不満げに座っている。その隣にメモの準備万全の謙也。紗英と
崇が二人の前に立っている。
崇「じゃあ最初の天国で犯罪が起きてるって分かるシーンやろう」
紗英「オッケー」
崇「最初はさ、警察が地球を見るみたいにして、下を覗いておくのは?」
紗英「いいね」
崇「よーい、スタート」
と、手を叩く。
紗英「(下を覗く)またですか」
崇「今月だけで百件を超えています」
紗英「で、ここで新人警察が出てくる」
紗英、移動し、訝しげに登場。
崇「いいね」
紗英「どうかしましたか?」
崇「君も見てみたまえ。と言うと、天国の住人がまだ生きてる人を連れて来
る」
崇、紗英の手を引き、空に登るマイム。
謙也が感動している。翔真はムスッと見ている。
紗英「私、空を飛んでる。何なの、これ」
崇「ずっと一緒にいようって言った約束、守るからね」
紗英と崇が警察役に戻る。
紗英「あ!まだ生きているのに天国に連れてきて、御法度ですよ!」
崇「あぁ、早急に対策しなければ」
紗英「ここで場面変える?」
崇「そうだな。地上の場面も入れたいよな」
紗英「いいね。物語に深みが出る」
崇「よし、じゃあ」
翔真「もうやめろ!」
水を差されてムッとする紗英と崇、翔真を睨む。
崇「何だよ」
翔真「空想上のブレストやってんじゃねぇよ」
紗英「何それ」
翔真「いいね。いいね。って咄嗟の思いつきが良いアイデアばっかりだった
らお前らとっくに売れてんだろ」
崇、ドカドカと翔真の前に来て、目線を合わせ、睨む。謙也は慌てて
間に入ろうとするが、崇に手で払われ、転ぶ。
崇「拘りを幻想とか言ってる演出家が偉そうに言うなよ」
翔真「俺が拘って誰が喜ぶ?」
崇「喜ぶ?」
翔真「俺らは表現をやってるんだよな?」
崇「(意表を突かれ)お、おん」
翔真「お客さんに喜んで貰えないとどうなる?」
謙也「ガッカリします」
翔真「ガッカリして、どうなる?」
謙也「えっと(分からず崇を見る)」
崇「次は来てもらえない」
翔真「謙也は『その絶望に羽はあるか』で感動したと言った」
謙也「はい!それはもう!」
翔真「でも、その後の公演には来ていない」
謙也「それは、野外とかお金とかの問題が」
翔真「他のエンタメや買い物に負けたってことだ」
謙也、いたたまれず下を向く。
翔真「拘りが悪いとは言わない。言わないが、俺は、拘りよりもお客さんを
喜ばせるアイデアを考えたい」
紗英「(台本を見せ)これには入ってるの?そのアイデア」
翔真「ない」
崇「(突っかかる)だからさ、」
翔真「(崇を制す)だから、お前らのアイデアが欲しい」
紗英「出したじゃん」
翔真「あれはアイデアとは言わない。アイデアみたいなものだ」
謙也「アイデアみたいなもの?」
翔真「演劇は、どうリアルに見せるかが命。天国に連れていく場面。美術も
照明もない野外でやるんだ。今と同じように見えるぞ」
謙也「連れて行ってることは伝わりました」
翔真「説明されたからな」
× × ×
〈フラッシュバック〉
紗英が新人警察役をしている。
紗英「どうかしたんですか?」
崇「君も見てみたまえ。と言うと、天国の住人がまだ生きてる人を連れてき
ている」
崇、紗英の手を引き、空に登るマイム。
× × ×
謙也「あ!」
翔真「隠れる場所も作れないのに、どうやって二役も三役もやるんだよ」
謙也「役者を増やせばいいんじゃ」
皆んな黙る。
謙也「え?だってそうじゃないですか」
崇「それは出来ない」
謙也「何で!」
紗英「私たちが今、公演で赤字を出したらそれは、解散の覚悟が必要なの」
謙也「でも、少しでも可能性があるなら賭けてみましょうよ」
翔真「それは賭けじゃない。負けに行ってるだけだ」
謙也「そんな屁理屈ばっかり」
翔真「この間、演劇に夢見てるのかって聞いたよな?」
謙也「はい」
翔真「俺にとって演劇は、現実だよ。夢見たくても現実が目の前にある。演
劇は、悪夢さえ見させてくれないんだ」
謙也「悪夢さえ」
紗英「今日はもうやめよ。こんな雰囲気で良いもの作れないよ。ね、翔真」
翔真、答えず下を向く。紗英と崇も下を向き、ため息。
謙也「劇場で公演できれば、」
三人が謙也の方を向く。
謙也「劇場で公演できれば、朧げにでも夢見れますか?」
顔を見合わせる三人。答えを待たず、その場を立ち去る謙也。
○同・食卓
チャーハンを食べている翔真、紗英、崇。
紗英「お昼用意して部屋に行くって健気よね」
○同・謙也の部屋
謙也がリストを見ながら電話している。
謙也「私、劇団の者なんですけど、劇場を探しておりまして」
電話の声「劇団名は?」
謙也「劇団名は追々」
電話の声「追々?」
○同・食卓
崇「野菜、助かるよな」
翔真「まだある?」
崇「四人だと三日分ぐらいかな」
翔真「言えば送ってくれんのかな」
紗英「やめとけ」
翔真「今のは崇に言わされた感あるだろ」
崇「ねぇよ」
紗英「(崇に)そうなの?」
崇「聞いてたら分かるだろ。濡れ衣」
紗英「下ネタやめてよ」
翔真「濡れ衣の意味、知らないの?」
紗英「服が濡れてんだから下ネタでしょ」
崇「どういう解釈だよ。あとお前、下ネタ大丈夫な人だろ」
紗英「今日やることなくなっちゃったなぁ。あ、カラオケ行く?」
崇「いいね!あ、いいね!って言うのは良くないんでしたっけ?」
翔真「茶化してんじゃねぇよ」
紗英「ね、行こ行こ」
翔真「今日はやめとくわ」
崇「え〜まだ怒ってんのかよ」
翔真「今日は台本直す」
翔真、立ち上がる。
崇「翔真、何で謙也をそんなに買ってるんだ?」
翔真「買ってる?誰が」
紗英「だって、」
翔真「家賃助かるからだよ。三人じゃキツかっただろ?」
紗英「でも、あの名前」
翔真「他に思いつかなかっただけだよ」
翔真、自分の部屋へ行く。
紗英「カラオケ、二人で行く?」
崇「う〜ん、やめとくわ」
紗英「何?まだ私のこと好きなの?」
苦笑いする崇。
○同・謙也の部屋(夜)
劇場リストは約2ページ分、バツ印が付けられている。
謙也「明日、五十件電話するとして、三日あれば全部電話できるな。メンタ
ル持つかな」
翔真の部屋から「バタッ」と聞こえる。
耳を壁に近づける謙也。
謙也「翔真さん?大丈夫ですか?」
翔真からの返答はない。
謙也「翔真さん!」
と、部屋を飛び出していく。
○同・翔真の部屋
倒れている翔真。謙也が入ってくる。
謙也「翔真さん、しっかりしてください!」
抱き抱えると翔真の目から涙が溢れる。
翔真「どうすれば面白くなるんだよ。誰か教えてくれよ」
そのまま寝てしまう翔真。謙也が机を見ると、小さな文字で隙間なく
書かれたA4用紙がある。
謙也「翔真さん」
(第三話 終わり)
