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「旅人色」って、素敵な言葉だね

突然だが、僕は物持ちというものがすこぶる良い。
服、靴、スマホ、イヤホン、リュック。いちど生活に馴染んでしまったそれらをなかなか捨てることができないたちで、壊れたり破れたりして、まともに機能しなくなるまで酷使するのである。

とくにリュックの寿命は格段に長い。
中学生のころ、部活の大会で入用であったので、黒い大きめのリュックを買った。1200円であった。なんだかいうよく知らないブランドのリュックで、透き通るように黒いナイロンのカサカサした生地が気持ちよかった。

そのカサカサが気持ちよすぎたのであろうか。高校に入るタイミングで、リュックも新調しようと近所のデパートに向かっているとき、「3年も使ったんだし、ついでに壊れるまで使おうか」という考えがふと頭をよぎった。あぁ、そのときの僕に教えてやりたい。
リュックは、意外と、破れない。
10年経ったいまでも健在なのである。

人生の1/3を共に過ごしてきたリュックは、もはや単なる1200円のリュックではなく、カサカサしたナイロンは見る影もなくヘニャヘニャになり、透き通るような黒は、幾度とない雨風にさらされ薄紫にくすみ、老人に刻まれた笑いジワのように、馴染みの折り目がいくつも通っていて、どこぞの村に古くから伝わる呪具のような威厳を持つに至っている。

この正月、実家に帰ったときのことだ。
5年ぶりにそのリュックを見た母は、感慨と呆れの入り混じった声で、こうつぶやいた。

「あんた、そのリュックもすっかり旅人色ねぇ」

旅人色。母の独自言語か、ほんとうにある語彙かは不明であるが、とにかく素敵な言葉だと思った。
つうじょう色は、「うぐいす色」「もも色」「だいだい色」どれも視覚のアナロジーによって命名される。ももと同じ色だからもも色。それが普通の感覚。
だが、旅人色は違う。
その色が染みだすに至った年月を思いや、背後にあるストーリーへの敬意を含み、ノスタルジックな雰囲気を醸成する、色の名前。
旅人色。

なんとも、心にじんとくる、良い名前である。

あなたの周りにも「旅人色」があるだろうか。
もし一つでも、自分の周りにその色を見つけることができたなら、きっと幸せな人生である。

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