見出し画像

SF小説 Memory Banker Ghost Block編 第14話|なぜこの異常は繰り返されるのか?観測が示した継続現象

夜の街は静かだった。

佐倉はビルを出ると、歩道に立ち止まった。
都市の上層には、Zenith Ring の光が浮かんでいる。

だが、いま考えるべきはそこではない。

匿名メール。

Dual overlap subject observed in Cognitive Belt.

対象者名はない。
生体IDもない。

あるのは、観測ログの断片だけだ。

佐倉は通りを渡り、小さなカフェに入った。
この時間は客も少ない。

奥の席に座ると、端末を開く。

調査は、地味な作業から始まる。

まずは照合。

佐倉は観測ログの断片を入力した。

Cognitive Belt
Observation Network

観測時間帯を指定する。

検索。

数秒後、ログが表示された。

Motor Sync Drift
Reaction Delay : +41ms

佐倉は画面を見つめた。

一致している。

少なくとも、このログは実在する。

匿名メールは、作り話ではない。

佐倉は次の項目を確認する。

Reflection Sync Error

該当ログはいくつか表示される。

珍しい記録ではない。

観測機器の同期誤差。
短期的な認知遅延。

人格ログでは、よくある揺らぎだ。

だが。

もう一つの項目。

佐倉の視線が止まる。

Shadow Pattern Overlap

佐倉は検索欄に入力する。

Shadow Pattern。

検索。

結果は出ない。

該当なし。

佐倉は画面を見つめた。

人格チェーン観測のログは、すべて分類コードで管理されている。

存在する現象なら、必ず分類がある。

それが出てこないということは。

佐倉は小さく言った。

「……ログ項目じゃない。」

つまり。

観測装置が自動生成した補助解析。

正式分類ではない。

佐倉は検索対象を変える。

今度は、自分の担当案件だ。

Recovery。

Fork。

人格同一性判断。

検索。

結果は表示される。

Motor Sync Drift はいくつもある。

睡眠障害。
投薬影響。
長時間労働。

珍しいログではない。

だが。

同時に記録された例はない。

Motor Sync Drift
Reflection Sync Error
Shadow Pattern

この三つが並んだログは、一件もない。

佐倉は椅子にもたれた。

通常の売買でもない。

Forkでもない。

Recoveryでもない。

制度の分類に当てはまらない。

佐倉は画面を見た。

Motor Sync Drift
Reflection Sync Error
Shadow Pattern Overlap

そして小さく言った。

「……説明がつかないな。」

端末を閉じる。

基礎調査は終わった。

だが。

制度の中には、答えがない。

佐倉はコーヒーを一口飲む。

次に必要なのは、制度ではなく
解析だった。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集