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OBSERVER による、記録の再編成|SF小説 Memory Banker #29

「ところで、OBSERVERとはなんなの?」

はなは、ジャンク屋にたずねた。

「さっき、自分で説明してただろう。」

ぶっきらぼうに答える。

「どういうこと?」

困惑したまま見返すと、ジャンク屋は端末を軽く叩いた。

「ずっと見てるんだよ。メモリーチェーンを。それがOBSERVERだ。」

黒い画面が切り替わる。
はなは思わず、画面に顔を近づけた。

> log_01 :
observer monitors personality structure in real time
OBSERVERは人格構造をリアルタイムで監視する

> log_02 :
targets include bio id, quantum signature, and memory chain
監視対象にはBio ID、Quantum Signature、Memory Chainが含まれる

はなは無意識に画面を追う。
ジャンク屋が、指先でスクロールする。

> log_03 :
motor and reaction drift are observed after resynchronization
再同期後に運動および反応のズレが観測される

> log_04 :
in lq state, personality chain fragmentation destabilizes decision-making
LQ状態では人格チェーンの断片化により意思決定が不安定化する

「こんな内容、学校では習わないよ……」

はなは小さくつぶやいた。

「まあ、裏の学校じゃ常識だけどな。」

ジャンク屋は、端末を自分のほうに引き寄せる。

「で、ここからが本題だ。」

空気が少しだけ変わる。

「“あんたの友達”のケースは珍しい。俺が知ってる中でも一例しかない。」

はなの表情が強ばる。

ジャンク屋は、ゆっくりと言葉を続けた。

「昔な。ある老人が、自分のメモリーチェーンを若いBlankにフォークさせたケースがあった。」

はなは息をのむ。

「でもな、そのチェーンは孤立した。orphanだ。最終的にはmempool、未確定人格に落ちた。」

「……メモリーバンカーは承認したんでしょ?」

はなは食い下がる。

「コンセンサスが通ったなら、どうして――」

店主は、くくっと笑った。

「承認はされた。だがな、“確定”じゃない。」

はなは目を見開く。

「どういうこと……?」

「コンセンサスは暫定的な正史を作るだけだ。後からOBSERVERが異常を検知すれば、再編成――Reorgが起きる。」

沈黙。

「……書き換わるの?」

「過去ごとな。」

はなの喉が小さく鳴る。

店主は続ける。

「問題はそこじゃない。本質は“ジェネシス”だ。」

はなは首をかしげる。

「ジェネシスが違うってことはな、その身体の前提が違うってことだ。」

店主は淡々と言う。

「人格チェーンはPost-Biological Genome..簡単にいうとPBGに変換されて移植される。
だがな――」

一瞬、言葉を切る。

「その身体が、その人格を成立させる構造かどうかは別問題だ。」

はなの表情が固まる。

「……つまり?」

「もともとのDNAと、ジェネシスが異なれば、そりゃ発達履歴も異なる。だから整合しない。」

静かに言い切る。

「ジェネシスブロックとの整合性が取れず、連続性が崩壊した。」

はなは息をのんだ。

「じゃあ……その人は?」

「部分的には動いたらしい。だが全体としては成立しなかった。」

店主は肩をすくめる。

「結局、その爺さんは元の身体に戻った。」

短い沈黙。

「まあ、そのケースは表には出ない。メモリーバンカーも承認した手前、失敗例は隠す。」

はなは言葉を失う。

店主は、にやりと笑った。

「だがな……」

少しだけ声を落とす。

「あんたの“友達”は違う。」

はなの視線が揺れる。

「あれは成立してる。だから価値がある。」

一拍。

「人格の再生成が可能になるからな。」

はなの背筋に冷たいものが走る。

「……誰が欲しがるの?」

店主は笑う。

「決まってるだろ。」

少し間を置いて、口を開いた。

「Helixだ。それに犯罪者も欲しいだろうな。別人なれるチャンスだ。」

はなの呼吸が止まる。

店主は端末を操作し、画面の向きを変えた。

> record :
memory banker reference

> name :
sakurai shinichi
佐倉慎一

はなの視線が画面に吸い寄せられる。

心臓が跳ねた。

「……Sakurai Shinichi」

あのとき。

ショウウィンドウに映った、もう一つの影。

その直後、自分に声をかけてきた男。

記憶がつながる。

「……佐倉、慎一……」

はなは無意識に、その名前を繰り返していた。

「そうだ。なんだ知り合いか?」

ジャンク屋は、はなをみつめる。

「知り合いではない。けど、その人と会話してみる。あ!友達がね」
あせるはな。苦笑いのジャンク屋。

「佐倉にあったら、よろしく伝えてくれ。」

そう言って、ジャンク屋は笑った。

(会わなきゃならない。あのメモリーバンカーに)

はなは唇をかみしめる。

自分の“正史”を確かめるために。

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