49番『老人の杖』

 大きな木の下に、使い込まれた杖が立てかけてあるのを見つけました。
ふと見ると、雨上がりの湿った土の上に、新しい足跡が見て取れます。
 ひょっとしたらこれは、杖の持ち主の足跡ではないかと考えて、その方向に向けて急ぎ足で杖の主を追いかけてみることにしました。
 ほどなくして、少し年齢に合わない様子の色の仕立ての良いスーツを着た青年がゆっくりと歩いているのに追いつきました。
 声をかけて近づいてみると、青年はいよいよ、きっちりとはしているものの、まるで年齢には不釣り合いの、老人の様な出立ちなことに気が付きます。
 そんなことを考えて言葉が出ないでいると、微笑みを浮かべて青年が話し始めます。
 その杖は確かに自分のものだが、おそらくはしばらく必要ないこと。
 自分はどういうわけか、雨宿りしているあいだにかなり若返ってしまった様だということ。
 なにが起こっているのか、青年自身にも理解はできないものの、なにはともあれ、こうなってしまったことをただ受け入れて、そのまま過ごしていこうと考えていること。
 通りの向こう側にあるカフェでコーヒーでもどうかと誘われて、しどろもどろで辞退したものの、どうしてか杖を引き取ることになってしまいました。しばらくは、これをどう扱ったものかと悩みの種になることでしょう。

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