「まだ、食べさせへん」



夏の日の午後、アスファルトの照り返しにやられて、私はもう限界だった。

ビーサンを履いた足の裏から、ジリジリと理性が溶け出していく。

このままじゃ人間を辞めて、別の何かに変身してしまいそうだ。

私は――そう、あのソーダフロートの住人になることに決めたのだった。

気づけば、私の足首から先は澄み切ったメロンソーダの色に染まり、足指のあたりには、シュワシュワと心地よい炭酸の泡が絶え間なく湧き上がっている。

頭の上には、ぽっかりと乗っかった真っ白なバニラアイスクリームの帽子。

私はすっかり、歩く喫茶店の看板メニューになっていた。

「すごい、私……めちゃくちゃ可愛い……」

自分で自分に見とれながら、甘酸っぱい香りをふんわりと漂わせ、街を闊歩する。

日傘をさしたすれ違い様の人たちが、ふと振り返って、

「わあ、涼しそう」

「なんかいい匂いする」

と目を丸くしている。

完璧だ。

私は夏の妖精として、この灼熱の街に爽やかな奇跡をもたらしている。

――しかし、ファンタジーの魔法は、あまりにも現実の都合を考慮してくれていなかった。

ジリジリと照りつける太陽は容赦がない。

私の頭の上で誇らしげに鎮座していたバニラアイスが、じわ……と、重力に負けて形を崩し始めたのだ。

「あっ、やばい」

冷たいクリームの雫が、あろうことかお気に入りのワンピースの肩口を伝って、だらりと垂れていく。

シュワシュワの炭酸も、熱気にあてられてみるみる気が抜けていき、ただの甘ったるい緑色の液体になり果てていく。

ソーダフロートとしての尊厳が、ものの数分で音を立てて崩壊していく。

「待って待って、溶けないで!私、まだ映えてるはず――!」

両腕いっぱいの氷を抱えて帰る。

ソーダフロートに、時間はない。

バニラエッセンスの香りが立ちのぼる。

お家まで逃げ切れるか。 



もう、ここまできたら鬼ごっこや。

ッハッハッハッ。

……いやや。

後ろでワンコが舌を出してる。

「舐めちゃあかん」

私のシュワシュワが、駄目になってまう。

「ほな、頑張りっ」

家に着いた。

ガラガラガラッ、浴槽へ氷をぶち込む。

ギリギリだった。

たぶん、あと五分遅かったら、

私は吸われてたわ。

水風呂の仕上げは、たっぷりのお塩。

アイスクリームの作り方で習った。

もう待てない。

私も頭からズルリっと滑り込んだ。


今の私は、ほぼデザートである。

……まだ、食べさせない。


 
 




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