【梅仕事の終着点で、理想の私が崩れた】


梅仕事、いよいよ店じまい。
キラキラ女子の手本…
というよりは、
せいぜい
小洒落た女の背中を見せて
ゴールする予定だった。



でも、手を出した瞬間
だいたい事件になる。
こんなに丁寧に愛でてこしらえたのに、
やっぱり起きるのですよ。




​梅の実を取り出して、
「ガリガリ食べるとおいしいのよねえ」
と冷凍庫へ放り込み、
琥珀色のシロップは
「もうこれ以上成長しなくてよろしい」
と冷蔵庫に追いやる。



梅と向き合う姿勢だけは、
ちゃんとしてるつもりだった。



​実山椒入りの梅麹シロップ。
計算上は、
実山椒の爽やかなピリ辛さが
アクセントになる――はず。
冷たい炭酸で割れば、
私を「いい女」に近づけてくれる、
――はずだった。



蓋を開けた瞬間、
そこにあったのは
「発酵」ではなく「変身」。




​炊き立ての餅米かよ、
独りごちる。
麹が暴走し、
梅を完全に飲み込んでいる。





実山椒が
悲鳴を上げながら埋もれている。
必死に梅を引っ剥がす。
手がベタつく。怒りでワナワナする。

 

だんだん部屋が 
山椒の匂いで満ちる。
いい香りのはずなのに、脳が拒否する。



「くさい……いや、クセーよ!」


リビングにスカンクを
飼った覚えはないのだけれど。



結局、実山椒は、
私の吐き気に負けてゴミ箱に行った。
私は負けた。
麹との戦いも、
理想の自分になろうとした淡い願望にも。



一瞬、麹に謝りそうになった。
私のほうが負けてた。


   



 

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