「湯気のおまじない」

プルンプルン、と
それは最初から、湯気の記憶をまとっていた。
銀のスプーンをそっと差し込むと、
表面が少しだけ、だしの夢をほどく。
いいよ、入ってもいいよ。
だけどお願い、なかでぐるぐる回さないでね。
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透明なベールに包まれて、
フルフル。
プルプル。
キューン、と
胸の奥で、いとおしい音が鳴る。
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ちいさな部屋で熱が入ると、
静けさが、ゆっくり裏切られていく。
甘さじゃない温度が、底から上がってくる。
だしが、ほどける。
はずかしい、って逃げるみたいに縮んで、
まあるい背中にはじめての、ちいさなしわ。
「もう、もとには戻りませんからね」
みたいな顔をしている。
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ポン。
ひとつ、はじけた。
ポン、ポン。
止まらない。
あ、どこに隠れちゃったんだろう。
ずっとここにいるって、約束したのに。
ボンッ!!
ひらいた扉のむこうで、
出汁と卵の香りが、ふわりとはじけた。
もう、両手では受け止めきれない。
キュン。
どこにもいかないで、
と思ったまま、もう残っていない。

