産婦人科と美容医療はアフィニティが高い
保険診療しか経験していない医療者の中には、自費医療を少し下に見る人がいると思う。
美容と聞くだけで、「お金儲け」「軽い医療」「トラブルを起こして救急に流してくるところ」といったイメージを持たれやすい。
たしかに、そういった一面が全くないとは言わない。
美容手術のあとにSSIを起こし、夜間救急に来る。
本当に命がかかっている患者さんが優先されるべき現場で、「なぜこちらが尻拭いをしなければならないのか」と怒りたくなる気持ちもわかる。
忙しい現場で働いていれば、なおさらそう思うだろうし、実際にそういった場面だけを見ていれば、美容医療に対する印象が悪くなるのも無理はない。
でも、その一部だけを見て美容医療全体を語るのは、やはり雑だと思う。
少なくとも、実際に美容の現場で働いてきた私にとって、医療脱毛はそのような単純なものではなかった。
最近、産婦人科で医療脱毛を始めることに対して、
「産婦人科で医療脱毛始めるの意味がわからない」
「目先のお金に囚われている」
「脱毛の痛みや熱傷のリスクを自分ごととして捉えられるスタッフは少ない」
「専門でされている医師に対して失礼」
といった意見を耳にした。
もちろん、脱毛にリスクがないとは思っていない。
熱傷も毛嚢炎もあり得るし、VIOのような部位は特に慎重な判断が必要になる。
安全管理や教育が不十分なまま導入してよいものではない。
そこは大前提として、本当にその通りだと思う。
ただ、それを理由に産婦人科で行う意味まで否定するのは違うと私は思っている。
そのような意見は、医療脱毛を「美容目的」や「収益目的」でしか見ていないからこそ出てくるのではないか、と感じる。
医療脱毛は、ただ機械を当てる仕事ではない
美容看護師に対して、外からは
「決められた出力で機械を当てているだけ」
「弱い出力にして何回も来させ金を巻き上げる」
「流れ作業のような仕事」
といったイメージを持たれることがあるかもしれない。
でも、実際は全く違う。
患者さんがどのような仕事をしているのか。
屋外に出ることが多いのか。
育児中で、毎日子どもと公園に行く生活なのか。
サーフィンなど紫外線に当たる趣味があるのか。
新婚旅行や挙式などのイベントを控えているのか。
そういった生活背景を、会話の中から自然に拾っていく。
一見すると世間話のように見えても、そこには医療として必要な情報がたくさん含まれている。
紫外線曝露の程度、施術後の生活、肌トラブルのリスク、ダウンタイムの許容度。
それらを踏まえたうえで、その患者さん自身の皮膚状態を見て、その日の出力や打ち方を調整する。
しかも、同じ患者さんでも毎回条件が同じとは限らない。
前回は問題なく照射できたとしても、今回は日焼けしているかもしれないし、乾燥が強いかもしれないし、自己処理で肌が荒れているかもしれない。
月経前後で皮膚の敏感さが違うこともあるし、睡眠不足や疲労感で疼痛の感じ方が変わる人もいる。
だから本来、機械を使う仕事であっても、毎回同じように当てればよいわけではない。
美容看護師は、皮膚所見を知っているだけでは足りない。
実際には、その所見が照射可否にどう関わるのか、増悪リスクがあるのか、医師判断を仰ぐべきかまで含めて、その場で判断する力が求められる。
私はこれを、十分に医療的なアセスメントだと思っている。
診断名がついている病気を診ていないだけで、やっていることの本質は、患者さんの状態を見て、リスクを予測して、介入方法を調整することに近い。
全身脱毛は、全身状態を観察する機会でもある
全身脱毛は、単に毛を減らす施術ではない。
見方を変えれば、全身の皮膚や外陰部の状態を丁寧に観察する機会でもある。
たとえば、お尻に小さな皮疹が多発している患者さんがいれば、見た目の印象だけでそのまま施術を進めるのではなく、発疹・発赤の有無、掻痒感や疼痛の有無、出現時期や経過、自己処理や摩擦との関連を問診しながら、近い疾患を予測していく。
その結果、毛包炎が疑われることもあれば、他の皮膚疾患を考慮すべき場合もある。
必要時には施術前に皮膚科専門医を施術室に呼び、診察を依頼したうえで、照射の可否や治療方針を変更することもある。
VIOでは、さらにさまざまなことに気づく。
カリフラワー状のいぼがあり、尖圭コンジローマが疑われれば、その時点で脱毛は中止となる。
施術を進めるのではなく、婦人科受診につなげるべき症例である。
本人がまったく気づいていない粉瘤様病変を見つけることもある。
その場合は、いつからあるのか、大きくなっていないかを確認し、今回はその部位を避ける。
粉瘤は自然に消えるものではなく、少しずつ大きくなる可能性がある。
大きくなれば切開も大きくなり、傷も長くなる。
そのため、小さいうちに婦人科、皮膚科、形成外科などで相談したほうがよいと伝えることがある。
こういった場面では、自費医療から保険診療へつなぐことができる。
以前、後輩から
「VIOに黒いぶつぶつがたくさんある男性患者さんがいて、性病かもしれないのですが、照射してもよいでしょうか」
と相談を受けたことがあった。
施術室で実際に確認すると、STDというより陰嚢被角血管腫を疑う所見だった。
良性の血管病変ではあるけれど、その上から脱毛レーザーを照射すれば、熱傷や血腫、出血のリスクがある。こういう場合適応となるのはVbeam レーザーやロングパルスYAGレーザーとなる。
そのため今回はIラインはキャンセルし、VラインとOラインのみに変更するよう提案するよう指導した。
こういった判断は、決して特別なものではない。
でも私は、美容看護師はこうした判断を日常的に求められる仕事だと思っている。
皮膚科や形成外科の最低限の知識がなければ、異常所見に気づいても、その先の判断につながらない。
逆に言えば、そういった知識があるからこそ、美容医療は単独で閉じた世界にならず、必要な医療へ接続する入口になり得る。
自費医療は、迷惑ばかりかけているわけではない
保険診療の現場にいると、自費医療に対して否定的な感情を持つ人がいるのは理解できる。
トラブルが起きたときだけが強く印象に残り、「美容は結局、他の科に迷惑をかける」という見方につながりやすいのだと思う。
でも、それだけではない現場も確実にある。
美容医療は、患者さんのQOLを上げることができる。
そしてそれだけでなく、異常の早期発見や、必要な医療への橋渡しになることもある。
「病気とまでは言えないけれど困っている」
「保険診療では相談しづらい」
「何科に行けばいいのかわからない」
そういった悩みを拾いやすいのが、美容医療の現場でもある。
もちろん、保険診療の医療者が丁寧でないと言いたいわけではない。
限られた時間と制度の中で、優先順位をつけざるを得ない構造がある、という意味である。
生命に直結しない悩み、緊急性が低い悩み、羞恥心が強くて言いづらい悩みは、どうしても後回しになりやすい。
患者さん側も、短い診察時間の空気を読んで、「今日はここまでは聞かないでおこう」と引いてしまうことがある。
一方で、自費診療は比較的時間に余裕があり、接遇も丁寧で、患者さんが話しやすい雰囲気をつくりやすい。
この「話しやすさ」は、私はかなり大きな価値だと思っている。
医療は、正しい診断や治療方針だけで成り立つわけではない。
患者さんが安心して、言いづらい悩みを言葉にできる空気そのものも、医療の一部だと思う。
つまり自費医療は、迷惑ばかりかけている存在ではない。
少なくとも私は、患者さんの生活の質を改善し、必要な診療につなげるという意味で、十分に医療的な価値があると感じてきた。
VIOの悩みは、想像以上に深い
美容の現場では、VIO脱毛の際に本当にさまざまな相談を受ける。
黒ずみが気になる。
においが気になる。
小陰唇の形や左右差が気になる。
自己処理で荒れてしまう。
蒸れやすい。
かゆみがある。
見た目に強いコンプレックスがある。
パートナーにどう思われるか不安。
ずっと誰にも相談できなかった。
こういった悩みは、患者さんにとってかなり切実であるにもかかわらず、保険診療の短い外来のなかでは言い出せないことが少なくない。
忙しそうな空気を読んでしまい、「こんなことまで相談してよいのだろうか」と飲み込んでいる患者さんは、実際にたくさんいると思う。
しかもVIOの悩みは、単なる見た目の問題として片づけられないことがある。
黒ずみの背景に摩擦や慢性炎症があることもあれば、においの訴えの背景に感染や蒸れ、清潔ケアの問題があることもある。
自己処理の繰り返しが埋没毛や毛嚢炎、色素沈着を悪化させていることもある。
月経時の蒸れや不快感、自己処理による外陰部刺激、埋没毛や毛嚢炎の反復は、見た目の問題というより、生活の質そのものに関わる悩みだと思う。
だから私は、医療脱毛を「美容」で終わる話だとは思っていない。
特にVIOは、QOL改善という意味合いがかなり大きい。
介護脱毛という言葉が広がったのも、単なる見た目ではなく、清潔ケアや将来の負担軽減まで含めて考える人が増えたからだと思う。
更年期の悩みと、美容と、産婦人科
産婦人科と美容医療の親和性は、VIO脱毛だけではないと思う。
更年期の世代になると、のぼせや発汗のような典型的な症状だけでなく、疲れやすさ、眠りにくさ、気分のゆらぎ、肌の変化など、ひとつの悩みにきれいに切り分けられない不調を抱えている人が少なくない。
こういった不調は、美容の悩みに見えて、実際には更年期症状の一部であることもある。
だからこそ、産婦人科で美容医療を扱う意味があるのだと思う。
美容の相談として出てきたことが、実はホルモン変化や更年期症状につながっているかもしれない。
そうであれば、そこから医学的評価や治療につなげることができる。
プラセンタ製剤についても、ひとまとめにはできない。
日本の電子添文では、メルスモン注射剤の効能・効果は「更年期障害、乳汁分泌不全」とされている一方、ラエンネック注射液の効能・効果は「慢性肝疾患における肝機能の改善」であり、同じヒト胎盤由来製剤でも位置づけは同じではない。
メルスモンは特定生物由来製品で、感染症伝播リスクを完全には排除できないこと、ショックなどの重大な副作用があり得ることも電子添文に明記されている。
だからこそ私は、プラセンタを含めたこうした治療を語るときに、美容的な期待だけで曖昧に語るのではなく、何が適応で、何が適応外で、どのような説明が必要なのかをきちんと分けて伝えられること自体が、産婦人科の強みだと思っている。
美容と医療の境界が曖昧になりやすい領域だからこそ、そこを整理して説明できることには意味がある。
※効能・効果は各製剤の電子添文に基づく。
だから、産婦人科と美容医療は相性がいい
私は、産婦人科と美容医療はかなり相性がよいと思っている。
特にVIO脱毛は、その親和性が高い。
産婦人科は、もともと女性特有の悩みを扱う診療科である。
月経、おりもの、外陰部の違和感、痛み、かゆみ、におい、性交時の悩み、見た目へのコンプレックス。
こういったものは、美容と婦人科の境界に位置することがとても多い。
もしこれが産婦人科での医療脱毛であれば、今よりもっと自然な形で、女性特有の悩みに耳を傾けることができると思う。
ただ毛を減らすだけではなく、自己処理による刺激、月経中の蒸れ、毛嚢炎、できもの、ワクチン未接種、検診歴の確認など、より広い視点で女性の健康に関わることができる。
しかも産婦人科であれば、異常を見つけたときの導線が作りやすい。
美容医療単独では、異常に気づいても「婦人科を受診してください」で終わることが多い。
でも産婦人科であれば、その場で必要な診察や検査につなげやすい。
この導線の短さは、患者さんにとって大きな安心につながると思う。
また、産婦人科の医療者は、女性のライフステージごとの悩みに触れる機会が多い。
思春期、性成熟期、妊娠・出産、更年期。
それぞれの時期で、体毛や外陰部に関する悩みの意味合いも変わる。
その変化を理解したうえで脱毛や美容の相談を扱えることは、一般的な美容クリニックにはない強みだと思う。
美容目的で来院した患者さんが、結果として異常を見つけてもらい、必要な受診につながることもある。
ワクチンを打っていなかった人が、話を聞いて接種を考えるかもしれない。
検診を後回しにしていた人が、受けてみようと思うかもしれない。
このように、自費診療を入口として、本当に必要な医療へつなげられる可能性がある。
私はそこに、産婦人科と美容医療の大きな親和性を感じている。
産婦人科で医療脱毛を始めるメリットとデメリット
ここで、産婦人科で医療脱毛を始めることのメリットとデメリットも整理しておきたい。
メリット
まず大きいのは、VIOと産婦人科の相性が非常によいことである。
外陰部という部位に対する心理的ハードルが比較的低く、デリケートな悩みを相談しやすい。
そのため、自己処理トラブル、蒸れ、毛嚢炎、におい、違和感、できものなど、脱毛をきっかけに婦人科的な問題を拾いやすい。
また、自費診療は比較的時間を取りやすく、保険診療では拾いきれないS情報を得やすい。
患者さんの生活背景や価値観を聞き取りながら、その人が必要としている医療に結びつけることができる。
さらに、脱毛を目的に来た患者さんに対して、HPVワクチンや子宮頸がん検診、婦人科受診歴などの確認につなげられる可能性もある。
産婦人科だからこそ、脱毛を美容で終わらせず、女性の健康管理へ広げていける。
加えて、産婦人科にとっても、これまで接点が少なかった層と出会える可能性がある。
月経痛や検診、妊娠などの明確なきっかけがなければ婦人科を受診しない人でも、脱毛を入口にして医療機関との接点を持つことができる。
これは、将来的な婦人科受診へのハードルを下げる意味でも大きいと思う。
デメリット
一方で、当然ながらデメリットもある。
まず、安全管理と教育が不十分なまま始めるのは危険である。
熱傷や疼痛、毛嚢炎などのリスクがあり、特にVIOは慎重な適応判断と照射技術が必要になる。
単に機械を導入すれば成立するものではなく、問診、観察、禁忌判断、異常時対応まで含めた体制整備が必須である。
次に、産婦人科はもともと外来が忙しく、急患対応もある。
そのなかで美容施術の予約をきれいに回していくのは簡単ではない。
保険診療との両立、待ち時間、スタッフ配置など、運営上の課題は大きいと思う。
美容は、患者さんから見た時間価値も高い。
長時間待たせることが当たり前の運営では、満足度も下がるし、保険診療にも自費診療にも悪影響が出る。
さらに、患者さんによっては「婦人科に来たのに美容色が強い」と感じることもあり得る。
そのため、全身脱毛の価格競争のような方向ではなく、VIOや女性のQOL向上といった、産婦人科だからこそ提供できる価値に軸を置くことが大切だと思う。
何でも取り込めばよいわけではなく、自院の診療内容や地域のニーズに合った形で設計しないと、本来の良さが消えてしまう。
助産師さんの意見について思うこと
最初に書いた助産師さんの意見について、私はすべてを否定したいわけではない。
「痛みや熱傷のリスクを軽く見てはいけない」
「収益先行で雑に始めるのは危険」
これはその通りだと思う。
ただ、それは安全管理の論点であって、そこからすぐに
「だから産婦人科で行う意味がわからない」
という結論になるのは、また別の話だと思う。
医療脱毛を、美容か、お金か、という二択でしか見ないと、そこにある価値は見えなくなる。
実際には、その間にQOL、羞恥心、自己処理による害、外陰部トラブル、早期発見、受診のきっかけといった、たくさんの大切な要素がある。
たぶん意見がぶつかるのは、見ている範囲が違うからだと思う。
その助産師さんは、安全性の懸念を強く見ている。
私はそこに加えて、現場で拾える情報や、患者さんの言い出せなかった悩み、医療へつなげるきっかけまで含めて見ている。
私はその部分を、軽く扱ってほしくない。
美容医療を雑に下に見ることは、そこで救われている患者さんの困りごとまで軽く見ることにつながる気がするからだ。
まとめ
私が言いたいことは、三つある。
一つ目は、美容看護師はただ機械を当てているだけではないということ。
皮膚状態も生活背景も見て、その日の出力や打ち方を考え、必要に応じて異常を拾い、受診につなげることもある。
二つ目は、自費医療は迷惑ばかりかけているわけではないということ。
もちろん問題のある美容医療はある。
でも、それだけを理由に自費医療全体を雑に見下すのは違うと思う。
QOL向上や早期発見に寄与する場面は、確かに存在している。
三つ目は、産婦人科と美容医療は相性がよいということ。
特にVIO脱毛は、女性特有の悩みや外陰部の問題と非常に近い。
そしてそれだけでなく、更年期を含めた女性のライフステージ全体の悩みを、美容と医療の両面から受け止めやすい診療科でもある。
問題は、やるかやらないかではない。
どのような価値として、どれだけ安全に、どれだけ丁寧に運用するか。
そこが本質なのではないかと感じている。
私は、美容医療を何でも肯定したいわけではない。
ただ、少なくとも現場で働いてきた立場から見ると、医療脱毛や女性向けの自費診療を「美容だから」「自費だから」「お金のためだから」といった一言で片づけてしまうのは、あまりにももったいない。
その先には、相談できなかった悩みをやっと言葉にできる患者さんがいて、そこから必要な医療につながる可能性がある。
産婦人科と美容医療の相性のよさは、私はそこにあると思っている。
