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円城塔は『攻殻機動隊』の何を書き換えたのか――士郎正宗の行間と、新アニメ第1話の言葉

攻殻機動隊のお話をするわけですからSFはもちろんのこと、個人的に、文学全般が好きですので、その視界でも円城塔さんには注目してきました。

(芥川賞の選評で石原慎太郎さんは辛辣でしたが、反論したくもなりました…)

文章へのこだわり、一文字ずつを選んで、並べるという行為へのこだわりが、とても強い作家さんだと感じています。

今回、SF寄りの役割での起用かと思いきや、文章へのこだわりが見事にあらわれていましたので、原作漫画と比較してみたくなった次第です。

ほかのスタッフの方の功績かもしれないのですが、円城塔さんのおかげなのかなと、勝手にたのしませていただきました。

まずは原作漫画から、以下のナレーションをピックアップします。

翌日 その女ーー(女型のサイボーグ)は内務大臣のオフィスに座っていた
前首相発行の暗殺命令書を持って・・・・

出典:士郎正宗『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』講談社

同じ箇所、今回(2026年)の新アニメでは、以下の文章が表示されました。

翌日、その女は、内務大臣のオフィスにあらわれた。
前首相発行の暗殺命令書を持って・・・・・・

出典:TVアニメ『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』第1話「PROLOGUE + SUPER SPARTAN I」(2026年)

まず、句読点の追加に気づきます。

原稿用紙に手書きする時代ではありませんが、作家さんとしては、スペースで区切られているのがすっきりしなかったかもしれません。

「座っていた」の後ろに句点がないのも、きっと落ちつかないことでしょう。

2点リーダから3点リーダへの変更も、現代の一般的な表記へのブラッシュアップです。

昔は出版社や編集部によって、2点だったり3点だったり、さまざまに方針がわかれていたようですが、現在は3点リーダの2マスが基本になりました。

と、表記が整えられた話からはじめましたが、ここからが真骨頂です。

「座っていた」から「あらわれた」へ

「オフィスに座っていた」から「オフィスにあらわれた」への変更を見てみましょう。
つづく「前首相発行の暗殺命令書を持って」とセットで考えます。

まずは原作漫画からもういちど引用します。

翌日 その女ーー(女型のサイボーグ)は内務大臣のオフィスに座っていた
前首相発行の暗殺命令書を持って・・・・

出典:士郎正宗『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』講談社

「暗殺命令書を持って」「座っていた」という状態を想像してみましょう。
暗殺命令書はただ手に持っていて、ただそこに座っている、だけです。

そこにいたるまでの過程は含まれていません。

つまり、暗殺命令書をいつ手にしたかはわからず、オフィスで手に入れた?とも読めるわけです。

ここで円城塔はどうしたか?
今回(2026年)の新アニメでは以下のとおりです。

翌日、その女は、内務大臣のオフィスにあらわれた。前首相発行の暗殺命令書を持って・・・・・・

出典:TVアニメ『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』第1話「PROLOGUE + SUPER SPARTAN I」(2026年)

「暗殺命令書を持って」「あらわれた」とすることで、暗殺命令書をあらかじめ手にしており、それを持って内務大臣のオフィスへ行ったことをはっきりさせているわけです。

原作の行間を、アニメはどう言葉にしたか

さらに、つぎの文章は大きく変更されています。

原作漫画ではこちら。

唯一確かなのは
危機管理の必要性とーー
草薙素子少佐と名乗る彼女(達)の(どうせ偽名だ・・・・昔は三佐と言った)能力だけだった・・・・

出典:士郎正宗『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』講談社

一方、今回(2026年)の新アニメです。

『草薙素子少佐』と名乗るその女は、危機管理の必要性と、新たな特殊部隊の公式の設立を具申。

出典:TVアニメ『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』第1話「PROLOGUE + SUPER SPARTAN I」(2026年)

原作漫画は、文脈がかなりむずかしいです。
少佐は暗殺命令書を持ってオフィスにいるだけなんです。
(三佐うんぬんもややこしいです…)

そのコマに、「確か」なのは「危機管理の必要性」と「少佐の能力」だけだと、唐突に書かれています。

「確か」だということを受け入れたとして、「だから何?」というところもあります。
(「唯一」と言いながら2個だし・・・・・・)

がんばって考えれば、「危機管理の必要性」があるから「少佐の能力」が求められているのかな、と結びつけることはできます。が、初見でそこまで解読するのは至難の業。

そこで円城塔さん(たぶん)が、さくっと説明してくれます。

『草薙素子少佐』と名乗るその女は、危機管理の必要性と、新たな特殊部隊の公式の設立を具申。

出典:TVアニメ『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』第1話「PROLOGUE + SUPER SPARTAN I」(2026年)

めちゃくちゃシンプルになりました。かなりの改変です。

原作漫画では客観的に記載されていた「危機管理の必要性」を、少佐が内務大臣に伝えたことになっています。

そんなことは、原作漫画に描かれていません。

ただ、完全な改変とも言いきれません。原作漫画でもじっさい、少佐は内務大臣に「危機管理の必要性と、新たな特殊部隊の公式の設立を具申」したのかもしれないのです。

(原作漫画のコマをよく見れば、内務大臣がなにかしらの書類を持ってあたふたしています。
また、新アニメでは、少佐の履歴書のような書類のカットも追加されていて、それぞれのシーンが補完されているかのようです)

具申したのだったとしても、そうとは描かずに、士郎政宗さんは「唯一確かなのは危機管理の必要性とーー草薙素子少佐と名乗る彼女(達)の(略)能力だけだった・・・・」と婉曲に表現しました。

そこを補ったのが円城塔さん(たぶん)です。

また、この文章は、客観的、メタな解説でありながら、内務大臣の立場によるモノローグ的でもあります。

少佐に「具申」されたかどうかはともかく、少なくとも内務大臣は「危機管理の必要性」を感じ、「少佐の能力が確か」だと思ったのでしょう。
少佐は暗殺命令を実行して、オフィスにあらわれたのですから。

原作漫画で、少佐は内務大臣になにを言ったかわかりませんでした。
それなら、と円城塔は大胆に、わかりやすさを優先し、少佐が内務大臣に具申したことにしたのではないでしょうか。

「具申」という言葉もぴったりです。
こうして書いていると、原作漫画でも具申しているように見えてきました…。

どこまでが円城塔さんの仕事なのかはわかりません。
が、「座っていた」を「あらわれた」に変え、「確か」だったものを「具申」されたものとして書き直す。その言葉の選びかたに、らしさを感じた第1話でした。

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