「太陽」
かぐや姫は言いました。
「七つの井戸から、水を取ってきなさい。取ってこれたものと添い遂げましょう」
青年たちは、我先にと井戸に向かいましたが、誰一人として井戸から水を汲み上げることはできませんでした。
ところで、お勝手の壁に小さな穴が開いていたんですけれど、そこには小さな灰色のネズミが暮らしておりました。
このネズミ、名は五郎と申します。
五郎は、かぐや姫の言葉をこっそりと聞いていたのでした。
ーー僕がもし、水を取ってこれたら、人間になってかぐや姫と添い遂げることが叶うだろうか。
淡い夢。けれど、それは確かな希望でした。
五郎が一つ目の井戸に行こうと家を飛び出した時、野良猫が前を通り過ぎました。幸いなことに、猫はこちらに気がついておりません。けれど、いつ振り向くかと五郎はドキドキとしていました。
太陽が燦々と降り注ぎ、五郎の体内の水分が吸い取られていきました。
けれど、五郎は諦めることなど一度も考えませんでした。
あと百ほど走ったら、一つ目の井戸に辿り着くところで、一匹の蝶がふらふらとゆらゆらと飛んでいるのに出会いました。
その蝶に名はありませんでしたが、自分で|風を集めるおばあ《・・・・・・・・》さ、なんて言っていました。
五郎は仕方なく、蝶のおばあさんと呼びかけました。
「なんだい?」
「何をしているの?」
「ああ、ああ。風を集めているのさ」
「風?」
「そうさ、風だよ。こうして羽でかき集めておけば、きっとずっと飛んでいられるんだ」
「そう」
五郎はしばらく、蝶のおばあさんを眺めていました。
ふらふらゆらゆら。今にも地面につきそうなくらいの高さで。
けれど決して、羽を動かすのをやめることはありませんでした。
「またね」
五郎が言いました。
「ああ、また」
風を集めるおばあは、五郎をちらっと見て言いました。
五郎は一つ目の井戸への道を急ぎました。
蝶のおばあさんの羽で送られてきた風が、後ろからふわっと押してくれたような気がしました。
井戸の麓までやってきた五郎は、たかーくそびえ立つ石の山を呆然と見つめました。
首をふるると左右に振り、自分を奮い立たせて登るしかありません。
なんせ、この後七つの井戸を登らなければならないということなのですから。
七つ目の井戸に辿り着いた頃には、五郎はもしかしたらヘトヘトのふらふらになっているかもしれません。
人間たちでさえ、この試練を乗り越えるのは容易くないのです。小さな小さな灰色のネズミにとって、ただただ無謀とも言えるような挑戦でした。
かぐや姫は、この様子を実は井戸のそばでこっそりと見ておりました。
健気な小さなネズミ。
七つ目の井戸に辿り着く前に、もしも私が月に帰ってしまったらどうなってしまうのでしょう。大きな心の傷を作ってしまうかもしれません。
月に帰れなかったかぐや姫。いや、月に帰れなくなったかぐや姫。けれど、その時間はとても愛おしいものでした。
片桐みかんさんの#3つのお題に空想のひらめきを 【第38回】に参加いたします✨
お題:「月に帰れなかったかぐや姫」「七つ目の井戸」「風を集めるおばあ」神秘的なかぐや姫のイラスト
続きが書けそうなお話になりました。いつかTALESに載せるかもしれません☺️

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