見出し画像

「オリーブの木と鷲のトール」

 エレベーターの扉が開くと、大きな大きなガラスの瓶が逆さまにドーンと置いてあるのがまず目に入りました。
ガラスの瓶には、様々な高さに時計が映し出されています。例えば、首の長い麒麟は五メートルほどのところにあるものを。ネズミだったら、三十センチメートルほどのところのものを見ています。大きさも見やすいものになっているようですね。

 オールリーはオリーブの木でしたが、雲の番人によって騎士の姿に変えられていました。そのため、人間の目の高さにある時計を見ることとなりました。

 いつか番人が首にかけていた時計を思い出しました。カチコチと小さな音を立てており、オールリーは時計が生きているのだと思いました。
けれど、今見上げている時計からは、カチコチという音は聞こえません。もしかしたら、動物たちや人間たちの話し声に紛れてしまっているのかもしれないと思い、オールリーはガラスの瓶に近づこうとしました。
 
すると、
「おーい、約束だぞー!」と後ろからエレベーターの大きな声が聞こえました。

 オールリーが振り向くと、エレベーターにはトナカイやサイが乗り込み、諦めたように「下に参りまーす」と小さな声を上げて扉を閉めていくところでした。

 そうでしたそうでした!駅長さんに話をしに行かなければなりません。
もちろん、忘れていたわけではありませんよ。もちろんですとも。

 駅長さんは、ガラスの瓶の中に立っていました。駅長さんは高ーい高ーい帽子を被っていて、ネームプレートには『キュラリア駅長 トール』と書かれていました。トール駅長は、鷲でした。

「我は、キュラリア駅の駅長ぞ。何か御用かな?」

 オールリーが話しかける前に、トール駅長は横目でオールリーたちを見て言いました。猫のミウは少し怯えているようです。先ほどから一言も発しませんでした。

「こんにちは。私はオールリーと申します。エレベーターについて、ご相談があるのですが……」

「エレベーター?ああ、あの怠惰なやつのことですな。大変申し訳ない。こちらの管理不行き届きのために、ご利用いただけない状態となっている」

「いえ、先ほど利用させていただきました。それで……エレベーターから、話を聞きましたところ、毎日朝も夜も動き続けなければならず寝る間も休む間もなかったとか……。
トール駅長、列車は夜中でも走っているものなのでしょうか?」

「……ええ。夜行性の動物は、車掌としてもお客様としても一定数おるので。……エレベーターがそのようなことを?」

「そうなのですね……。はい、エレベーターは働きすぎであのような状態になったものと思われます。休む時間を……と思ったのですが、夜中もエレベータは必要とされているのですね……。
……もう一台、エレベーターさんを雇うのはいかがでしょうか?」

「もう一台?」

「はい。一台では休もうにもその時間がないでしょう。二台となれば、交代で休むことも可能ではないかと思ったのです」

「……少し、考える」
そう言うと、トール駅長は黙ってしまいました。

 オールリーはエレベーターを探しましたが、どうやらまた下で止まったままになっているようです。上に来たら、誰かを乗せないといけなくなるからでしょう。

「うまくいけばいいにゃー。エレベーターも大変なんだにゃ。ただ上下しているだけかと思っていたら。まあ、さっきみたいに重たい動物もいるからにゃー」
先ほどまでだんまりだったミウが、息を吹き返したように話し始めました。

「そうですね……。今、私たちにできることはないようです。待ちましょう。この王国、キュラリアにいるはずの人に会いに行かねばなりません」

「その人はどこにいるにゃ?」

「それが……わからないのです」

「にゃ!じゃあ、どうやっていくんだにゃ?」

「そうですね……」

 オールリーとミウは途方に暮れた顔をしています。さあどうなることやら、と思ったその時です。

 駅の外、何やらザワザワと音が響き始めました。

ザザザザザーバササササー

「なんにゃ!?」
ミウがそう叫んだ瞬間、何通もの手紙がバサバサと飛んでくるのが見えたのです。

 周りを見回しても、驚いて空を見上げる人は数人数匹くらいでした。他は、いつものことといったように歩いております。

 ただただ手紙の動きを見つめていると、そのうちの一通がふらりとオールリーとミウに向かって降りてまいりました。そして、オールリーの手の中に収まりました。

 一人と一匹は、その封筒を見つめることしかできません。

「開けないのー?」
先ほどのカタツムリさんが、そばにやってきて言いました。

「誰のものかわからないから、開けられないにゃ」

「は、は、は。もちろんーそれはー君たちのーさ。それ以外はーありえないのーよ」

「そ、そういうものかにゃ?」

「そういうものーよ」
そう言い残して、カタツムリさんはまた去っていきました。

「オールリー、開けてみてにゃ」

「わ、わかりました」

 オールリーは少し緊張しながら、封筒を開きました。すると、誰かの声が聞こえてきました。

ーさあ、地図を入れておいたから、その通りにおいで。お連れの猫さんも一緒にね。気をつけておいでよ。ー

 これは、きっと……。雲の番人から言われたことを思い出します。
『……その国の名は、キュラリア。君の名付け親が、住んでいる場所さ』

「私の、名付け親だと、思います」
オールリーは、水が一滴垂れるみたいに呟きました。

「……にゃ」
ミウはただ、声を出しました。オールリーがなぜ旅に出たのか、名付け親とはどういうことなのか、まだ何も知らなかったからです。

 たくさんの封筒からあふれた音が、駅に響いておりました。




片桐みかんさんの#3つのお題に空想のひらめきを 【第3回】のお題で書きました。

お題:夜ふかしエレベーター/封筒からあふれた音/100年に一度しか開かない傘

※前回の続きです。


朝夢POPは随時募集しています。
お気軽にご参加ください😊私からお声がけさせていただくこともあります
最新受付状況は、ホーム画面の固定記事をご参照ください🙇

メンバーシップをゆるりと始めていますー👏
少人数制のメンシプです。応援し合えたら、めちゃめちゃ喜びます!


いいなと思ったら応援しよう!

なみあさむ 読んで読んでPOP、書いて書いて物語!ありがとうございます(⁠人⁠*⁠´⁠∀⁠`⁠)⁠。⁠*゚⁠+

この記事が参加している募集