「去る者は追わず」#アマノ文筆クラブ
甘野充様の「アマノ文筆クラブ」に参加させていただきます!
猿のトンタは、3兄弟の一番上。
猿のコータは、3兄弟の真ん中。
猿のヨータは、3兄弟の一番下。
母猿が言った。
「悪い人の目を絶対に見てはいけない」
だから、トンタは目を塞いだ。
母猿が言った。
「悪い人の声を絶対に聞いてはいけない」
だから、コータは耳を塞いだ。
母猿が言った。
「悪いことを絶対に言ってはいけない」
だから、ヨータは口を塞いだ。
地の下のさらに下に、悪い魔女が住んでいた。
母猿は、3兄弟を悪いことから守りたかったのだ。
人間は、猿の3兄弟が大好きだった。動物園だって、神社だって、どこにいてもついてきた。
人間は猿から学んだが、猿は人間を感じることができなかった。
それを憂いた人間たちは、山の上のさらに上に住んでいる御仁を頼った。
杖をついた仙人のような人間は、猿に説いた。
目を開いてごらん。こんなにも世界は素晴らしい。
耳を澄ましてごらん。こんなにも世界には音が溢れている。
声を聴かせて。こんなにも世界に響き渡らせることができる。
猿の3兄弟は恐る恐る、目を耳を口を塞いでいた手を離した。
猿は、世界を感じた。
猿は、人間の優しさにも触れた。
人間は喜び、大きく手を振った。
悪い魔女だけは、それを喜ばなかった。
悪い魔女は、トンタに言った。
「さあ、私の目を見てごらん。どんなに怖くてもつぶるんじゃないよ」
だけど、トンタは目を塞いだ。
悪い魔女は、コータに言った。
「さあ、私の声を聞いてごらん。聞きたくなくても聞こえてしまうさ」
だけど、コータは耳を塞いだ。
悪い魔女は、ヨータに言った。
「さあ、私に話しかけてごらん。怖いことでも嫌なことでも、さあ言うがいいさ」
だけど、ヨータは口を塞いだ。
悪い魔女はカンカンに怒って、母猿も人間たちもぐるぐる台風に巻き込んでしまった。
3兄弟は目を開けた、耳を澄ました、口を開いた。
すると、仙人のような人間が両手をパーンと打ち鳴らした。
魔女は音に驚き、気絶してしまった。
渦巻いていた風がおさまり、母猿と人間たちがゆっくりと降りてきた。
3兄弟は喜び、両手をあげた。
「幼いうちは守ろう、慈しもう。
成長したならば、ほんの少しの勇気が必要となろう。だが、周りの助けはいくつになっても必要であろうよ。
どうか、忘れないでおくれ。私たちがいることを」
仙人のような人間は、悪い魔女を小さく小さくして瓶に詰めた。そして少し振った。
瓶の中では、小さな赤子が泣いていた。
あとがき
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