双極性障害の春の躁状態を乗りこなす #1─ 最新研究と希望
双極症(双極性障害)では、冬から春への移行期は再発リスクが非常に高い時期と言われる。
私自身、最近そわそわして活動量が増えたり、睡眠を削ってでも動きたくなったりする感覚がある。
この記事では、臨床で指摘されている「スプリング・マニア」、春に躁状態が起きやすい理由と、ハーバード大学などで進められている最新の治療研究について、わかりやすく整理してみる。

第1章:春に躁状態が起きやすい理由
春になると日が長くなり、光の量が急に増える。
双極症の脳は、この光の変化に敏感に反応しやすい。

臨床統計では、この時期に軽躁状態や躁状態(スプリング・マニア)を引き起こすケースが多く報告されている。
特に注意すべき具体的なリスクは以下の3点。
1. 「眠らなくても平気な高揚感」 3時間程度の短時間睡眠でも疲労を感じず、活動できてしまう状態。これは、躁状態の極めて早期に現れる警告サインである。
私自身も、睡眠時間を削って活動したいと感じることがあるが、これこそが予兆。 これを「調子が良くなった」と勘違いして無理をすると、後で大きな落ち込みが来やすい。
2.「生活リズムの乱れ」 年度替わりや春休みで予定が変わったり、飲酒やカフェインの量が増えたりすると、脳のバランスが崩れやすくなる。 こうした日常の些細な変化が脳のスイッチを押し、トリガーとなってしまう。
3. 「治ったと薬をやめる」 少しハイな気分になると、もう病気は治った、あるいは薬は必要ない、と自己判断してしまいがち。 しかし、ここで服薬を止めることは極めて危険。反動としての深刻な鬱状態への転落が待っている。調子が良いときほど、薬を続けることが重要である。
この「スプリング・マニア」は、単なる気分の問題ではなく、脳が光の刺激に反応しすぎてしまう生理現象。
だからこそ、気合で抑えようとするのではなく、物理的に光や刺激を遮断する生活習慣が大切になる。
第2章:最新の治療研究でわかってきた3つの進化
従来の対症療法に加え、現在は根本的なメカニズムに基づいた新薬の開発が進んでいる。
ハーバード大学Wyss研究所のカタリーナ・メイヤー博士らのチームは、「脳オルガノイド(ミニ脳)」を用いた研究を行っている。

1. 自分に合う薬を、あらかじめ予測できるようになる 患者自身のiPS細胞から作った「ミニ脳」で、あらかじめ薬の効果をテストすることが可能となる。これにより、実際に飲んでから「合わない」と試行錯誤を減らせる可能性がある。最初から効果の高い治療を選択できる未来を目指している。
2. 副作用の少ない薬が期待できる 標準治療薬であるリチウムは、副作用が起きやすかった。最新研究では、リチウムの良い効果だけをピンポイントで再現する成分を特定。喉の渇きや手の震え、倦怠感といった副作用を最小限に抑えた新薬の開発が進んでいる。
3. AIの活用で治療が圧倒的に早く届く ゼロから新薬を開発するには通常10年以上の歳月を要する。しかし、AIを使ってすでに安全性が確認されている既存の薬の中から有効なものを探し出すことで、開発期間を劇的に短縮可能に。一部の治療法は、すでに実際の臨床試験(治験)に入っている。
第3章:日常で自分を守るためにできる3つのルール
医学が進歩する一方で、日常レベルで再発を防ぐための「仕組み」作りが不可欠である。専門家は、以下の3つを一貫して守り続けることを推奨している。

1. 毎日同じリズムを守る 季節や周りの変化に左右されず、起きる時間、食べる時間、寝る時間を一定に保つこと。
春のハイな気分に流されず、「いつものペース」を意識的に保つことが脳を守る一番の土台になる。
2. 自分の状態を数字で記録して変化を知る 睡眠時間や活動量をメモして、客観的に見る習慣をつけること。気分が良いときは自分の変化に気づきにくいため、データで冷静に確認すると早めに手を打てる。大きく変化を感じた際は、迷わず主治医へ相談できる準備を。
3. 夜は「スマホ」を離し、情報を入れすぎない スマホやニュースを夜遅くまで見続けると、脳が常に緊張状態になる。特に世界の危機的なニュースは、遠くの出来事でも脳が「自分の危機」と勘違いしやすい。
夜は情報を遮断して、脳を休ませる時間を作ることも大切な自衛策である。
第4章:意図しない刺激に気をつける―遠くの危機と3つの心の防衛
春の陽気という生理的な刺激に加え、現代社会ではもう一つ、私たちのメンタルを蝕む強力な要因がある。それは、スマホやメディアを通じて飛び込んでくる遠くの国で起きている危機(戦争、災害、事件など)の情報だ。

地理的にどれほど離れていても、衝撃的な映像や音に繰り返しさらされると、脳はそれを「自分への直接的な脅威」と勘違いしてしまう。
心理学ではこれを「二次的トラウマ」と呼ぶ。特に双極症の既往がある人は、この影響を受けやすく、症状が悪化しやすいと言われている。
脳が常に戦場にいるような状態が続くと、心の負担は想像以上に大きくなる。
では、どうすればこの意図しない刺激から自分を守れるだろうか。
ここでは、専門家による3つの心の防衛策を紹介する。
1. あえて情報を断つという「最大の防衛策」 最も効果的な方法は、意図的に情報を遮断することである。
深夜のスクロールをやめ、ニュースを見る回数を物理的に減らす。
不確実な世の中だからこそ、食事・睡眠・運動といった日常のリズムをできるだけ守ることが、自分を支える確かな足場になる。
2. 脳が限界を迎えているサインを見逃さない 突然のイライラや不安、張り詰めた緊張感は、脳が限界を迎えているサインかもしれない。「情報を知らなければならない」という強迫観念から、少し距離を置く勇気を持つことが大切である。
3. 情報を遮断することは「積極的な休養」である 情報を知らないことへの不安よりも、情報を入れすぎて心が壊れるリスクの方が、今の私たちには遥かに大きい。
ニュースを遮断することは、世界への無関心ではない。それは自分を守り、明日を生きるための積極的な休養であると、自分自身に言い聞かせたい。
おわりに:自分を守るための継続

双極症は意志の力だけでコントロールできるものではない。
春という季節の生理的な影響、そして現代の情報社会特有の刺激を正しく理解し、生活のリズムという物理的な仕組みで脳を保護することが重要である。
大切なのは、春特有のハイな気分や遠くの危機に対する不安に流されて活動しすぎないよう、意識的にブレーキをかける努力を継続すること。
睡眠時間を削ってまで活動したいと感じる時こそ、あえて休息を取る。周囲が活動的になる季節だからといって、同じように動けない自分を責めたり、落ち込んだりする必要は全くないと、何度も自分に言い聞かせる。
私たちは、自分自身の特性に合わせた独自のペースで今日を生きていけばいい。
それが一番難しいことかもしれないけれど、一番自分を責めているのは家族でも同僚でも上司、自分自身であることが多い。
自身が頑張る特性であることを理解した上で、できたこともできなかったことも含めて、自分をいたわってあげたい。
現在の対策を淡々と続ける傍ら、科学の進歩がもたらす新しい選択肢を待つ。
最新の治療研究を追いかけていると、この客観的な積み重ねの先に、必ず今よりも穏やかで安定した日々が待っていると確信できる。頑張りすぎないことを、一生懸命にやっていきましょう。
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参照ソース
・Katharina Meyer on Improving Our Understanding and Treatment of Bipolar Disorder
(カタリーナ・メイヤー:双極性障害の理解と治療の向上について)
https://wyss.harvard.edu/news/katharina-meyer-on-improving-our-understanding-and-treatment-of-bipolar-disorder/
Stabilizing Bipolar Disorder With Changing Seasons
(季節の変わり目における双極性障害の安定化)
https://www.psychiatrictimes.com/view/stabilizing-bipolar-disorder-with-changing-seasonsなぜ遠い国の危機が私たちの心を蝕むのか──心理学が教える対処法
https://forbesjapan.com/articles/detail/95164
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