食料品製造業における死角と構造的ジレンマ
労働災害のデータを追っていくと、特定の業界に特有の構造的な問題が浮かび上がってきます。以前、食料品製造業全体における事故の要因について触れましたが、今回はそのデータをさらに深く掘り下げてみます。
まず、製造業全体のなかでどの分類での事故が多いのかを確認します。


過去10年間の死傷労災を見ると、食料品製造業のなかでも「その他の食料品製造業」が約1万件と最も多く、次いでパン・菓子製造業、肉製品、乳製品と続いています。この「その他」の領域で一体何が起きているのでしょうか。さらに起因物を絞り込んでみます。


起因物のデータからは一定の傾向が見えますが、これだけでは現場のリアルな状況までは掴みきれません。そこで、事故の具体的な状況が書かれたテキストデータをマイニングし、どのような言葉が頻出しているかをワードクラウドで視覚化してみました。

さらに、これらの言葉がどのように結びついているかを示す共起ネットワークを作成しました。

「機械」「トラック」「フォークリフト」「パレット」「タンク」といった単語が、事故の文脈として強く結びついている傾向が見えます。ここから、事故の前提となる環境、実際の行動、そして結果というプロセスに分けて現場の状況を分析してみます。
まず、現場の環境要因についてです。生モノを扱う食料品製造の現場には、一度ラインを止めると再稼働に時間がかかったり、仕掛品の品質が落ちてしまう連続生産設備が多く存在します。また、人が立ち入ることを前提としていない自動倉庫のラックや、巨大なもろみタンク、インターロックの内側など、特殊な空間での作業が発生しやすい傾向があります。
次に、実際の作業行動です。サイロの詰まりや機械の異常時において、主電源を切らずに手を突っ込む、あるいはフォークリフトの爪に載せたパレットの上に自ら乗って高所作業を行うといった行動が散見されます。これらは不注意というよりも、ラインを止めずに最速で復旧させる、あるいは正規の足場を手配する手間を省くといった、タイムパフォーマンスを優先した結果の選択として行われているのかもしれません。
そして、その行動がもたらす結果についてです。機械の予期せぬ起動によってロボットアームやフレームに挟まれる、フォークリフト上のパレットからバランスを崩して墜落する、あるいは酸素濃度の低いタンク内で倒れるといった事態が発生しています。これらはひとたび発生すると、人力では抗えない物理的な力や不可視の環境要因によって、致命的な結果をシステム的に確定させてしまいます。
データ全体から見えてくるのは、「生モノを扱っているからラインを止めたくない」という生産効率へのプレッシャーが、結果として作業者にショートカット行動を強いているというジレンマです。
「安全第一」という掛け声だけでは、目の前にある食品の劣化やダウンタイムの損失という現場の合理性を覆すことは難しいのではないでしょうか。このような構造的な問題を断ち切るには、人間の意識に頼るのではなく、物理的なインターロック設計によってエラーを防ぐ仕組みが必要になってくるものと考えられます。
