きれいなおかねでハラミが食べたい
3回目のバイトをやり遂げて、帰りのバスが来るまで、隣のスーパーの食品売り場を何も買わないのに徘徊した。
お肉コーナーを何往復もする。
ぎゅう(牛)を感じたい。ハラミが食べたい。もう半年は焼肉食べたくないと思うくらいに、胃もたれするまで。
給料はまだ一銭も入っていないのに、きれいなおかねが入った財布の中を想像して心が大きくなっている。
きれいなおかね。
どこの誰が見ても、一点の曇りもないきれいなおかね。
真っ当な仕事をした真っ当な対価。
首にじっとりまとわりつくおじさんの舌に反吐が出そうになりながら、意識をちがう所に置いて終わるのをじっと待つこと。
何度もお風呂に入って、体の水分が飛んでいくのを必死にボディクリームを塗って食い止めること。
そんな普通じゃない努力じゃない、正しい努力をしてもらったおかね。
22年間生きてきて、ホッチキスの芯の補充の仕方を今日知った。
「意外とアホ」
初めてシフトが一緒になったおばちゃんが、ニヤニヤしながら空中にメモを書くふりをする。挨拶と返事だけはしっかりしていたので賢そうに見えていたらしい。
「バレちゃいましたか」
そしたら「なんか安心したわ」と返ってきて2人で大笑いした。
「ゆっくりでいいのよ、ゆっくりで」と、女神ですかと優しさを噛み締めるくらいに、1日中寄り添って教えてくれた。
15分に1回の店内アナウンスで、「あなたの声すごく好き」と褒めてくれて、その後アナウンスをするたびに指先で拍手してくれた。
こんなふうに人として話す時間。人として扱われる時間。長時間の立ちっぱなしでびりびりと痛む足の痛みでさえも心地よかった。
早くきれいなおかねだけで生きれるようになりたい。
「叩いて被ってじゃんけんぼん!」と、勝っても負けてもお互いの頭を、丸めた画用紙でバシバシ叩いている小学生の後ろを歩いて、バス停まで歩く。
お日様のスポットライトを浴びて、いつもより、ほんの少しだけ、自分もここにいていいんだと思えた。
ちょっとの自尊心で満たされて、帰りのバスは気づいたら寝ていた。1駅分乗り過ごして降りると、梅雨が明けた茹だる暑さに絶望して、延びた3kmの帰り道を歩き出す。
これもこっちのものにしてやろう。
車も人もいない。田舎の特権、必殺・イヤホンナシDE爆音銀杏BOYZ。
「エンジェルベイビー」を流して、情けない走り方で田んぼの間を全力疾走する。吐きそうなくらい暑くて、途中から口の中に血の味がしてきたけど、そんなのもどうでもよくなるくらい、ただただ走った。
家に着いたら、冷蔵庫に直行して、おかんが漬けていたきゅうりの一本漬をその場で齧る。半分くらい食べたところで、昨日買ったスーパーカップのストロベリーチョコも出して、交互に食べた。
「しあわせぇぇぇぇ!」
誰もいないリビングで唸った。
