【境界戦姫:第三話】

2020年4月25日(土)

高級車(リムジン)の車内。三人。
一人は、リムジンの持ち主である安倍晴明。
自分のグラスに酒を注ぎ、飲む。


晴明「あぁ〜、うめぇ〜」
「どの時代でも、昼間っから飲む酒はおいしいね」

言いながら、グラスを陽子に向ける。

晴明「陽子ちゃんも飲む?」
陽子、ダル絡みをしてくる晴明を無視して、舌打ち。 

逆方向を向くが、そこにいるのは昨日よりも更に包帯で巻かれたボロボロの命。
彼女と視線が交わり、互いに逸らす。


陽子(クソッ、なんでこんな事に……!)


ねぇねぇと、いまだにダル絡みしてくる晴明を無視しながら、昨日の事を思い出す。


 ※


皇大神宮内。

晴明「──そういう訳だから君、」
「僕らと一緒に東京行きね」

陽子「……はっ?」

意味がわからず、声を出す。
すると天照、「そういう訳じゃ」
「すぐにでも準備せい」と告げる。

陽子、説明の要求を求める。
「いや、何で東京なんかに!」 
「アタシは嫌だぞ、あんな人がいっぱいいるところ!」

すると天照、「いい加減にせい」と、怒気を含む声色で告げる。


天照「話を聞いとらんかったのか!? もう嫌だ嫌だと赤子のように駄々こねていられる状況では無いんじゃ!!」

天照、陽子に詰め寄り、頭を掴み、額をつける。

天照「──あの子と同じ年頃をした子供達を。またヰ怪に殺されたいのか?」

陽子「!!」

目を見開く。脳裏に蘇る、あの子の記憶。
陽子は何も言い返せず、視線を下げた。

天照「……ハッキリと言わせて貰うが、今のお主は弱い」
「土蜘蛛を祓えたのは、そこで寝ている娘の力があったからじゃ。お主のお陰ではない」

天照、陽子から離れ、背中を見せる。

天照「向こうで色々と学んで、強くなってこい」
「お主がここに帰ってくるのは、その後じゃ」


 ※


場面。車内。
陽子、深いため息をつき、天井を見上げる。

陽子(弱い、か……)

晴明「ハッキリと言われたのが、そんなにショックかい?」

心の中を読まれたと思わせる、的確な指摘。
陽子、気付かれないよう強気に「あァ?」と返す。

晴明「ああ、凄まれた所でぜんぜん怖くないから」「事実、相当弱いよキミ」

更に追い討ち。

天照に言われるのと、晴明に言われるのでは、圧倒的に後者がムカつく為、今度はガチ目に「あァ!?」とキレる。

しかし晴明、二本目の酒《シャンパン》を開けながら続けた。


晴明「ヰ滅師にヰ怪、神々にはね、それぞれ強さを示す指標──等級があるんだ」 
酒を注ぎながら。

晴明「例えば、トー横らへんに発生しやすい小鬼《ゴブリン》なんかは下位の一級」

「そこらの人間から生気を吸い取って現臨してる悪魔や呪霊。これが下位の三級。まぁコイツらは放っておいてもいい雑魚だね」 

「んでもって、昨日現れた土蜘蛛なんかは、それら雑魚を遥かに超える上位ニ〜三級クラスだ」

晴明、注いだグラスを包帯少女に向ける。

晴明「さて、ここで問題。命の等級はどれくらいでしょうか?」

陽子「知らねェ。ゴブリン程度じゃね──(命に殴られる)痛ッてェ!?」

晴明「いや、そりゃそうなるよ」
「昨日キミは何を見てたの?」

ため息をつきながら、「上位一級だよ」と告げると、陽子は「一級!?」と反応。

そして晴明、今度はグラスのお酒を飲み、少量残ったグラスを陽子に向ける。

晴明「さて第二問。キミは何級かな?」

陽子「コイツで一級なら、アタシも一級だろ──(再び殴られる)OK上等だコラ、表出ろクソアマ」

命「あなたの頭が悪すぎるので、叩いて直してあげようかと」

陽子「あ???」

命「何です???」

二人、ようやくちゃんと目を合わせる。
(睨み合う)

晴明、そんな二人に「仲良いね〜」と言う。

陽子・命
「「良く無(ェわ!!)(ないです)」」
陽子「このハゲ!!」

二人は振り向き、同時に睨みつける。

晴明「いやマジで仲良いじゃん」「それとハゲ呼びやめて。そうだった時期あるんだから」

晴明、やれやれと首を振る。

「まぁ、話が色々ズレたけど──」
「結論から言うと、今のキミの等級は、大体下位の一〜ニ級程度」
「群れた小鬼に負けるレベルだね」

陽子「なッ……!」

心外という態度で身を乗り出す。


陽子「テメッ、晴明!! 何でアタシがソイツらレベルなんだよ──」

晴明「(外を見ながら)おっ、ようやく着いたっぽいな」

陽子「聞けやッ!!」

グルルル、と威嚇するように睨みつけるが、晴明は動じない。

むしろ、小馬鹿にしたように笑い。

晴明「あとで試してみようか?」

と、挑発的に言った。


 ※


東京都新宿区、市谷本村町。 
防衛省。

そこで降りる三人。
ポカーンと高いビル群を見上げる陽子。

陽子「……わかってた事だけど、」 
周囲を見渡しながら、
「東京も、随分と変わったんだな」

先行する晴明、振り向きながら。

晴明「ああ、そういえばキミ100歳くらいだっけ」
「見た目がギャル過ぎて完全に忘れてたわ」

命「……えっ」

キョトンとした表情を浮かべる命。そのまま視線を陽子にやり、やや引いた顔をする。

陽子「……んだよ」

命「いえ別に。ただひたすらに無駄な歳月を重ねてきたんだな、と」

陽子「晴明、コイツ殺していい???」

そろそろ怒りが爆発しそうな陽子が命を指差す。
晴明、笑いながら「無理だからやめときな」と答え、

「ほら、さっさと行こう。まずはここがどういう所か教えてあげるから」と先を進む。


 ※


防衛省内部の最奥部にある扉。

そこを開くと開けた場所につく。
大きなグランド。幾つかの運動施設。
体育館。

そして目の前には、大きな学校。
晴明、手を広げながら振り向く。

晴明「ようこそ、ヰ滅師の為の専門学校──ヰ怪防衛専門学校へ」

陽子、物珍しげに辺りを見渡す。

陽子「すげェ……。今時の学校って、こんなでけェのか?」

晴明「いや、ここは特別」 

「色々と受け持っててね。ヰ怪を祓う為の任務斡旋からヰ怪専用の武器、術式の開発とか、そうしたヰ怪絡みの研究やら何やら、全部やってるんだよ」

「本当は、横須賀にある陸・海・空の自衛隊関連学校と合併する筈だったんだけど、あっちに捩じ込む余裕が無くてここになったワケ」

晴明の説明を「ほぇ〜」と聞いている陽子。

その背後から命。「……晴明様がここがいいとごねたからでしょう」と答える。

陽子「はっ? そうなの?」

晴明「おいおい命。バラさないでよ」

陽子「コイツ……」

軽蔑の眼差しを向けられる晴明。
言い訳がましく、
「こっちのが色々と利便性が良かったんだよ」と答えながら、校内では無くグラウンドの方へ向かう。

陽子、「どこ行くんだよ?」と尋ねる。
すると晴明、背中越しに返答。

晴明「言ったでしょ。あとで試してあげるって」

先ほどのセリフを思い出す陽子。
一度だけ驚いた顔。
しかしすぐに、闘争心剥き出しの笑顔へと切り替わる。


晴明「今日は珍しく誰も使ってないし、」
「長旅という事もあって、カラダ動かしたかったんだよね」

陽子「いいのかよ? 酒飲んだ後だろ」

挑発的に声をかける陽子。晴明、足を止めて笑う。

晴明「──はっ。おいおい、何の心配をしてんのキミ」 

晴明、そのままゆっくりと振り向き、陽子へ人差し指を向けて。

晴明「雑魚神が、あまり調子に乗るなよ」

陽子、声も出せないまま『何か』にカラダごと掴まれ、勢いよくグラウンドの中心部まで投擲される。

ドゴォ!という轟音と、周囲に舞う砂埃。
命、嫌悪感を抱いた表情。

命「……砂。飛んできたんですけど」

晴明「ごめんって。けどまぁこれは、必要な事だからさ」

晴明、笑いながら謝る。
そんな彼の背後に立つのは、顔に「鬼」と刻まれた札を貼られた、3mの巨人。

命「……式神ですか?」
晴明「ん? いいや?」
命「じゃあ、何?」
晴明「さぁね。なんか適当に呪力流して作った……玩具?」
命「……」

命、(規格外過ぎて)聞くだけ無駄だと判断し、少し離れた所から陽子が投げられた方を見つめる。

陽子、ビキビキと怒りの筋を浮かべながら、全身から炎を放出させて、晴明の方へ歩み寄る。

陽子「ぶっ殺す!!」
晴明「ああそう」

晴明、まともに取り合わず背を見せる。
その直後、陽子が一瞬の内に肉薄。 

空中で弧を描きながら回し蹴りを繰り出すが、玩具鬼がその一撃を軽く防ぐ。

そして足を掴んで、地面に叩きつける。

陽子、「ガハッ……!」と吐血するが、勢いで浮き上がる体をバク転して着地。
ドン! と跳躍して上空で拳を握りしめ、振りかぶる。

しかし拳は巨人の左手で軽く流され、残った右拳をモロに受けて遠くに吹き飛んでいった。

陽子「ハァッ、ハァッ、クッソ……!!」

グルルル、と猫が威嚇する体勢で晴明を睨むが、力が抜けたように倒れる。

晴明、それを確認して玩具鬼を消し、倒れる陽子の元へ。

彼女を見下ろしながら、「わかったでしょ? 今の自分の弱さが」と冷たく言い放つ。

晴明「……さっき僕が車内で言った事。それと昨日天照様に言われた事、覚えてる?」
陽子「……弱ェってんだろ。あァ、そりゃ痛い程理解した──」
晴明「いいや違うよ? 話ちゃんと聞いてた?」
陽子(一々腹立つなこのおっさん……!)

ギリギリと歯を食い縛る彼女へ、晴明はビシッと指を差して発言をする。

晴明「今のキミは弱いって言ったんだ。昔のキミは、もっと強かったよ」
陽子「!!」


 ※


二人のやり取りを、少し離れた所から聞いていた命。

命(……晴明様の話の中で、色々と納得いかない点があった)

回想:「結論から言うと、今のキミの等級は、大体下位の一〜ニ級程度。群れた小鬼に負けるレベルだね」

命(……その程度の等級で、土蜘蛛《上位一級》クラスにあれだけの痛手を負わせる事は出来ない)

命、陽子を睨みながら。 

命(それにあの女、)

(ヰ怪の匂いがする──)

 ※

晴明、目の前であぐらをかく陽子に、微笑みながら告げる。

晴明「キミには一年で、上位一級……最低でもニ級クラス程度には強くなってもらうから」
「そこんとこ、よろしくね♪」

陽子「……ハッ、」

口元から溢れた血を拭い、晴明を強く睨みつけながら。

「上等だよ、クソ野郎」


第三話 了。

いいなと思ったら応援しよう!