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【540文字小説】: 『ねずみが風に乗りゆく日』 お題/「しゃぼん玉」

 しゃぼん玉が落ちて来たのは、妻ねずみが亡くなってすぐのことでした。シャボン玉に映る自分の姿に夫ねずみは妻の姿を重ねます。「同じように笑う夫婦」だと言われ続けた理由がやっと分かりました。夫ねずみがシャボン玉に頬を寄せると、暖かな気持ちに包まれます。


 その日から夫ねずみの隣にはシャボン玉。外出する時も、歯磨きする時も、いつだって一緒です。雨の日には傘を差し、雪の降る日には共に布団を分け合います。シャボン玉は嬉しい時には虹を描き、悲しい時には露を纏い夫ねずみと泣きました。まるで妻ねずみがしていたように。


 月日が経ち、夫ねずみの毛皮も真っ白になった頃。「時間ですよ」シャボン玉がふと、真っ青な空に自ら飛び込みます。夫ねずみは慌てて後を追いかけますが、年老いた体はみるみるシャボン玉から離されていきます。空を飛べないねずみ。妻を想いながら追いかけ、力尽き、静かに息を引き取りました。


 次の瞬間、夫ねずみの体が宙に浮き、小さなシャボン玉に変わりました。「ほら、いつも一緒です」先ゆくシャボン玉が優しく囁きます。そこには懐かしい妻ねずみの笑顔が映っていました。生まれたてのシャボン玉は嬉し涙を流しながら、そっと風をつかみます。
虹を纏うシャボン玉二つ。寄り添いながら空高くへと昇って行きました。


おわり


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