朝日に向かって駆けていく
参加しているメンバーシップ【Saka.の教室】で、今、こんな企画が行われていたりします。
実はこっそり参加表明しておりまして、私のところにバトンが回ってきました。人数的に、4月下旬か5月上旬くらいかな? と予測していたのですが……早い早い! 皆さんペースがお早いです!!
私は23番目の走者です。
バトンをくれたのはNasekaさん。令和の哲学者と名乗られているだけあって、マンガから哲学されていたり、素敵な目線をお持ちの方です。
個人的には レースといえば、
お馬さんの競争を見るのがスキです。
(人それを "競馬" といふ)
似たような競争系は
自転車やボートなんかもありますが、
人(騎手)と馬(競走馬)という
生き物同士の組み合わせが生み出す
ドラマが魅力的なんですよ。
おお! 競馬!
私は現実の競馬はまったく触ったことが無いのですが、「競馬ゲーム」に夢中だった頃があったので「競馬は知らないけど知ってる」というなんだか変な人だったりします。
インブリードとアウトブリードは、チョコボスタリオンで覚えました。
ダビスタじゃなくて、チョコボ(FF)のゲームなところが私っぽい。
ダービーインパクトというアプリで、しょっちゅう勝利しているところを見かけたので、強い騎手といえばルメールさん、みたいな知識レベルです。
あとは「ドキュメント72」というNHKの番組が好きなのですが、この番組で日本ダービーを取り上げた回があり、会場の熱い混雑ぶりが、とても印象に残っています。
レースが始まるまでに密着したドキュメントなので、レースそのものは映らないんです。でも、それがまた、いい。
というわけで、競馬を知らない人間が、想像力の翼を羽ばたかせて書いた競馬(?)小説で、バトンを回したいと思います。
これが私の書く「人と馬のドラマ」だ!
私からのバトンをお渡しする相手は、hiroさんです。
斜め上から叩きつけてすみません、よろしくお願いします!!
こちらは先日、興味深く読んだhiroさんの記事です。
最近、トラベラーズノートのユーザーになったのですが「財布に!?」とビックリしました。いろんな発想がありますね……✨
朝日に向かって駆けていく
嵐
アオイが産気づいてしまって、子供が生まれそうだという連絡を受けたのは、風と雨が窓枠を激しく揺らしている夜のことだった。
予定よりも、大分早い。
「せんせぇ、早く来てよ! 頼むよォ!!」
「わかった。わかってる。すぐに行くから」
まずは君が落ち着きなさい、と携帯電話越しに告げながら鍵を掴む。泣きそうになりながら電話越しに自分を呼んでいるのは、アオイが暮らしている牧場の一人娘・ユリカだ。様子を見に行ったら呼吸がおかしいアオイを見つけてしまったのだから、こんな風に混乱しても仕方がないだろう。
だが。
「傍にいる君が混乱していたら、アオイだって不安になるよ。いいかい? 深呼吸をして………そう、そう。落ち着いてアオイの傍へ戻って……」
出産になるのなら、自分が着くまでの間に準備を整えておいて貰った方が良い。既に何度も説明しておいた通り、アオイの出産に必要な準備をしておくようにと告げれば、冷静さを取り戻したユリカが頷き返す。
「わかった……早く来てね、先生」
「ああ」
一度切ると伝えて、嵐の中へ飛び出す。横殴りの雨で揺れる車に乗ると、すぐにエンジンをつけた。
走馬灯
アオイが生まれたのは七年前のことだ。牝馬として活躍した母親の最初の子供で、その命と引き換えに生まれた仔馬だった。
「これから、たくさんの仔馬を生んでくれることを期待していたのに……」
そう嘆かれながら生まれてきた仔馬に、人々は期待を賭けた。アオイが、ただの仔馬として無邪気に過ごせたのは、出産に立ち会ったユリカ達が世話をした、3か月にも満たない期間だけのことだった。
「アオイ、かわいそう」
別れの日に、まだ六歳のユリカが涙ぐみながら、牧場を出ていくアオイをずっと見送っていたことを、今でもよく思い出せる。
アオイのデビューは二歳で、順調に戦いを勝ち進んだ。
だが、三歳になると、アオイは伸び悩む。重賞を獲れないまま、時はただ無情に過ぎていった。栄光は遥かに遠く、一人、また一人と、アオイに期待する者が去っていく。名馬の誉れを得られないまま、ピークを過ぎたアオイを待っていたのは、あっという間の引退だった。
それでも、アオイの血統の良さは誰もが認めるところだ。アオイが平凡な馬であっても、仔馬は非凡かもしれない。再び期待を賭ける人々によって、
アオイは繁殖牝馬として第二の人生を送ることとなる。
場所は、アオイが生まれた、ユリカ達の牧場だ。
「おかえり、アオイ。あたしのこと覚えてる? 覚えてないと思うけどォ」
キャハハハと笑った後、あたしはちゃんと覚えてるよ、とブラシをかけているユリカは、とても嬉しそうだった。
一人っ子のユリカが出産に触れたのは、アオイの時が初めてだったので、ずっともう一人の家族みたいに思っていたのだと、後から教えてくれた。
――そのアオイが、初めての子供を産もうとしている。
予期せぬ早産に苦しみながら。
朝日
「先生!」
厩舎へ走ると、ユリカと両親が揃ってこちらを見た。その向こう側に見えるアオイは雑に乱れた呼吸を繰り返しており、なるほど、見るからにおかしいことがわかる。
苦しんでいる。辛いだろう。だが、こうなってしまっては、もう止める事などできやしないのだ。
「うん、うん。頑張っているね。――思っていたよりは状態がいい。きっと大丈夫です、このまま産ませましょう」
ユリカの狼狽具合に、もっと酷い状態……最悪の想像までしていたが、これならきっと大丈夫だろうと、祈るようにアオイの傍に寄る。
この手に触れるぬくもりが消えていった瞬間を、今でも思い出せる。それでも、この指先を熱く熱く温めてくれた、あの時のアオイが母になる。
母にする。
今度は決して、連れて行かせたりはしない。
厩舎をガタガタと激しく揺らしている筈の音が遠ざかっていく。もう何も聞こえない。アオイの呼吸だけを耳が掴み、アオイの為だけに体が動く。
ハッと我に返ったのは、産声が聞こえた瞬間だった。
「生まれた!」
「アオイは!?」
仔馬の様子を確認する両親の分まで、アオイを案じるユリカの声がする。
「大丈夫……大丈夫だよ。ほら」
不穏な震えさえ見せていたアオイだったが、ようやく、一息つけるとばかりに、ゆったりと呼吸を繰り返している。それは安定していて、何の心配も要らないのだと知ったユリカがヘナヘナと座り込んだ。
そんな皆の前で、生まれたばかりの仔馬が、アオイの方へ寄っていく。
すると、どこからか、まばゆい光が差し込んだ。
「あ……朝ですね」
「もう、そんな時間でしたか……」
気が付けば、嵐はすっかり止んでいる。いつの間にやら、この一帯を通り過ぎてしまったらしい。
すっかり穏やかになった空から現れた朝日を見ながら、何かを思いついた様子のユリカが、とびっきりの笑顔で振り返る。
「ね、ね! この子の名前、アサヒはどうかな?」
――暗い暗い嵐を抜けて、新しくこの世界へやってきた命。
ここへ、来てくれて、ありがとう。
どうか、幸せに駆けて行っておくれ。
祈りと感謝を込めて見つめる瞳が、朝日を、アサヒを、捉えた。
いいなと思ったら応援しよう!
お読みいただき ありがとうございます。お気に召しましたら💛を押して頂けると嬉しいです。コメント、引用、シェア、マガジンへの追加なども大歓迎です!
チップを頂ける場合は有難く活動資金にさせて頂きます!(資料購入に使います)