【逸話2.0】Little Town LEGACY#6未来との遭遇(出会いそして決意)
逸話2.0 未来との遭遇(出会いそして決意)
ヤッさんのところで働き始めて、
二年が経とうとしていた。
修業も、
次の段階へ進んでいた。
ある日の昼飯。
母親が作ってくれた弁当を開き、
俺はいつものように、
「いただきます。」
そう言った。
するとヤッさんが、
箸を止めて聞いてきた。
「なんで『いただきます』って言うか分かるか?」
俺は、
「母親が作ってくれたからです。」
そう答えた。
ヤッさんは、
少し笑いながら首を振った。
「それもある。」
「でも、一番は――命だ。」
その一言で、
箸が止まった。
ヤッさんは続けた。
「肉も魚も野菜も、
もともとは全部、生きとった。」
「その命をもらって、
俺たちは生きとる。」
「それだけじゃない。」
「育てた人がおる。
運んだ人がおる。
売った人がおる。
作ってくれた人がおる。」
「その全部を、
“いただく”んだ。」
「だから『いただきます』なんだ。」
俺は、
何も言えなかった。
今まで何気なく言っていた
『いただきます』に、
そんな意味があるなんて、
考えたこともなかった。
ヤッさんは、
技術だけじゃない。
生き方も教えていた。
そしてその頃、
俺が教わっていたのは、
事故で歪んだ
車の骨格を直す仕事だった。
車の外板は交換できても、
骨組みは交換できない。
人間で言えば、
背骨のようなもの。
だから、
事故で曲がった骨格は、
元の位置まで、
引っ張って戻すしかない。
まず、
歪んだ鉄板を、
じっくり見る。
車は左右対称。
元の形を頭に
描けなければ、
元には戻せない。
小さな輪っかを
溶接で取り付ける。
そして、
専用の工具で引く。
引いては見る。
また引く。
今度は、
少し角度を変えて見る。
必要なら、
ハンマーで整える。
そして、
また見る。
一度で終わることはない。
見て、
引いて、
叩いて、
また確認する。
その繰り返しで、
少しずつ、
新車だった頃の形へ
戻していく。
焦れば、
鉄は伸びる。
だから、
焦らない。
何度でも向き合う。
最後は、
パテでわずかな傷を埋め、
ヤスリで削り、
塗装をする。
完成した車を見れば、
事故車だったとは、
誰も気付かない。
板金塗装は高い。
そう思われることも多い。
でも、
この工程を知れば、
決して高い仕事ではないと、
私は思う。
一台の車を、
事故前の姿へ戻すには、
知識も、
経験も、
技術も、
根気もいる。
だからこそ、
私が今まで経験した仕事の中で、
板金塗装ほど、
難しい仕事はなかった。
だからこそ、
ヤッさんは言っていた。
「なんでも、最初が大事だ。」
「最後、自分が大変になる。」
その頃の俺は、
仕事の話だと思っていた。
今振り返れば、
あれは、
俺自身の人生を教えてくれていた。
最初に、
引っ張って形を戻すこと。
ハンマーで整えること。
パテをできるだけ薄く仕上げること。
塗装は、
ただ色を塗る工程じゃない。
それまで積み重ねてきた、
すべての仕事が、
そこで試される。
一度だけ、
手を抜こうとしたことがある。
引っ張ることも。
叩いて整えることも。
手を抜き、
パテを盛れるだけ盛り、隠せばいい。
そんな甘えが出たことがあった。
ヤッさんに確認してもらった時
・・・
ボッフゥ。
・・・
言葉より先に、
音が飛んできた。
ヤッさんの性格、
もう言わなくてもわかりますよね。
「工程にはみんな意味がある」
「最初を手抜きすれば、
最後に必ずツケが回る。」
最初に、
引っ張ることを怠れば、
形は戻らない。
叩くことを怠れば、
パテを厚く盛るしかない。
パテは、
時間とともに痩せる。
車は走る。
振動する。
やがて、
パテに亀裂が入る。
でも、
人の目に映るのは、
塗装の割れだ。
車も。
仕事も。
人生も。
誤魔化したものは、
いつか必ず、
表に出る。
そんな毎日を送っていた、ある日。
俺は、
人生を変える人と出会う。
最後まで読んでいただきありがとうございました。

次回
【逸話2.0】後編
Little Town LEGACY
未来との遭遇
― 出会い、そして決意 ―
ヤッさんとの別れ。
そして、新たな出会い。
別れの先で、未来は動き始める。
