AIに相談したら、都合よく賛成された。欲しかったのは反対意見だった。
ひとりで会社をやっていて、いちばん困るのは作業量ではありません。
決めることです。
先日、取引先から値引きの相談がありました。金額だけ見れば受けられる。でも一度下げた値段は、まず戻りません。受けるべきか、断るべきか。会社員の頃なら隣の席に「どう思います?」と聞けました。上司との雑談で感触を確かめることもできた。いまは、聞ける相手がいません。
検索しても一般論しか出てこない。知人の経営者に聞くほどのことでもない。というより、金額の絡む相談は知人だからこそしにくいのです。
それで最初は、AIにそのまま聞いていました。「値引きの相談を受けるべきでしょうか」と。
これがうまくいかなかった。
AIは、聞き方に寄ります。「受けようと思うんですが」と書けば背中を押してくれるし、「断ろうと思うんですが」と書けばその判断を支持してくれる。丁寧で、博識で、最後はこちらに合わせてくる。壁打ちのつもりが、壁が柔らかすぎて手応えがない。
欲しかったのは答えではなく、反対意見でした。
部門を持たせるという発想
意見がこちらに寄ってくるなら、寄る先を最初から固定してしまえばいい。そう考えました。
財務の担当には「会社のお金を守ること」だけを考えさせる。事業の担当には「売上と顧客との関係」だけを考えさせる。法務の担当には「契約とリスク」だけを。それぞれに役割と立場を文書で渡して、同じ議題を別々に諮る。
さっきの値引きの相談を、この体制でかけ直してみました。
財務は反対しました。一度下げた単価は戻らない、この値引きが常態化した場合の年間の影響額を試算せよ、と言ってきます。事業は条件付きの賛成でした。関係維持の価値はあるが、値段を下げるのではなく仕事の範囲を調整して返せないか、と。
そう、それが聞きたかった。
答えをもらったわけではありません。最後は自分で決めました。結論は「値引きはせず、範囲を調整して提案し直す」。でも、決める前に反対意見と代替案を浴びられた。ひとりで考えていたときは「受けるか、断るか」の二択だったのに、諮ってみたら三つ目の選択肢が出てきたのです。
会社ごっこの効用
冷静に見れば、これは会社ごっこです。社員はいないのに部門がある。
でも、ひとりで決めることの怖さは、間違えることそのものではなくて、間違え方に気づけないことだと思っています。自分の考えに反論が来ない環境に長くいると、判断は少しずつ雑になる。だから、反論が来る仕組みを机の上に作っておく。それだけのことで、決断の手前に一段、踏みとどまる場所ができました。
この連載では、このAI経営チームをどう作り、どう運用して、どこで失敗したかを順番に書いていきます。
次回は、役割と性格の決め方。実は最初の設計では全員が似たような優等生の意見しか言わず、まったく機能しませんでした。その話からです。
