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ドラゴンクエストⅢ──文明開化の衝撃と、僕のロト伝説は化粧品店から始まった

1988年、高校生だった僕は、ひとつのゲームによって“世界の見え方”が変わった。
『ドラゴンクエストⅢ』。あの作品は、ただの続編でも、単なる名作でもなかった。ゲームという文化そのものが、次の段階へ進む瞬間を目撃した体験だった。

当時のゲームは、アクションでもRPGでもシミュレーションでも、基本は“一話完結”だった。
クリアしたら世界は消え、物語はそこで終わる。続きは存在しない。
映画や漫画、小説のように、物語が積み重なっていくという概念は、ゲームにはまだなかった。
だからこそ、ドラクエⅡをクリアしたときに残った、あの虚無感──「終わったら全部なくなる世界」という感覚は、当時のプレイヤーにとってごく自然なものだった。

しかしⅢは違った。
紙の復活の呪文が消え、セーブという概念が生まれた。
あれはまるで“役場”が誕生したような出来事だった。
復活の呪文という口伝の家系図が廃止され、王様が窓口の職員のように「記録しておこう」と言う。
冒険の履歴が正式に管理される。
これは、ゲーム世界に行政機能が生まれた瞬間だった。

そして職業選択の自由。
勇者は勇者、魔法使いは魔法使いという固定された役割、いわば“江戸時代”的な身分制度が崩れ、好きな職につけるという“四民平等”がゲームに降りてきた。
セーブという役場と、職業選択という身分解放。
この二つが揃った瞬間、ゲームは江戸から明治へと跳躍した。
ドラクエⅢは、ゲームの明治維新だった。

世界は広がり、歴史が流れ始める。
職業制度が崩れ、世界は地球規模になり、最後に辿り着くのは、広大な世界の果てにぽつんと存在する小さな島国、アレフガルド。
あれはどう考えても“世界から見た日本”だった。

広い世界を旅してきた使節団が、最後に故郷へ帰ってくるような構造。
伊達政宗に命じられてローマまで渡った支倉常長が、帰国したときには「え、政宗の外交もう終わってるの?」と肩透かしを食らう、あの歴史のズレ。
外の世界を知った者が、狭く閉じた故郷に戻るときの、懐かしさと異物感。
アレフガルドに降り立った瞬間、僕はまさにその感覚を味わった。

ただし、支倉と僕には決定的な違いがある。
支倉は世界を見てきたが、帰国したときには何もできなかった。
歴史の大きな流れの中で、彼は「見てきたけれど動かせなかった人」として終わった。
でも僕は違う。
僕はプレイしていた。
自分の手で世界を動かし、歴史を作り、ロト伝説の起点になっていた。

そして何より胸を熱くしたのは、Ⅰで語られていたロト伝説の“ロト本人”が、自分だったという事実だ。
Ⅰで憧れた伝説の勇者。
Ⅱで語られたロトの血筋。
その起源が、Ⅲで自分の名前をつけた勇者だった。

これは映画でも小説でも絶対にできない。
ゲームだけが可能にした、“存在の逆転”だった。
自分が歩いてきた冒険が、ⅠとⅡの世界では神話になる。
自分の体験が、世界の過去になる。

同じストーリーを通っているのに、冒険は千差万別だ。
仲間の構成も違う。
どこで苦労したかも違う。
感じ方も違う。
それでも物語の骨格は同じだ。

この「個人の神話」と「共通の神話」が重なる構造こそ、ゲームの奇跡だった。
この感覚は、僕にとって『プラモ狂四郎』の世界と重なる。
同じガンプラでも、作る人間が違えば、まったく違う世界が生まれる。
子供のイマジネーションが、同じ素材から無数の物語を立ち上げる。

ただしゲームは違う。
子供の世界に限られていたその奇跡を、年齢を越えて引き上げてしまった。
想像力が落ちていくはずの時期に、同じストーリーから「自分だけの冒険」を生み出せる。
プラモ狂四郎が模型でやっていたことを、ドラクエⅢはゲームで実現してしまった。

そしてドラクエⅢは、ゲームの中だけで完結しない物語になった。
なぜなら、あのソフトを手に入れるために、近所の化粧品店のおばさんが、訳もわからない高校生のために無理をして仕入れてくれたからだ。
あの優しさがなければ、僕のロト伝説は始まらなかった。

だから僕のイマジネーションの中では、エンドロールの最後に「化粧品店のおばさん」の名前がクレジットされている。
ゲームの外側にあった現実の優しさが、僕の冒険の一部になっている。
店の匂い、カウンター越しの笑顔、段ボールを開ける手つき。
それらすべてが、ロト伝説の背景として溶け込んでいる。

ドラクエⅢは、ゲームの概念を一新した作品だった。
世界は続き、歴史は流れ、物語は積み重なり、ゲームは“遊び”から“文化”へと進化した。
映画的であり、神話的であり、そして何より個人的だった。

あのとき、僕は確かに感じていた。
ゲームは、ここからもっと先へ行く。
物語は、続いていく。
自分の冒険は、世界の歴史になる。

ドラゴンクエストⅢは、僕にとってただのゲームではない。
あれは、想像力を大人の世界にまで引き上げてくれた、ひとつの文明開化だった。
そしてその裏側には、化粧品店のおばさんの優しさがあった。

僕のロト伝説は、あの日から始まった。

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