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【短編小説 金魚を育てみた】

夏祭りに行った。

屋台が並んでいて、

焼きそばの匂いがして、

遠くから太鼓の音が聞こえていた。

僕はそこで、

金魚すくいをした。

一匹。

二匹。

なんと、二匹も掬うことができた。

家に帰って、

二匹の金魚を水槽に入れた。

名前を決めることになった。

黒いほうは、

シーサー。

なんとなく強そうだったから。

赤いほうは、

パニオン。

名前の響きが気に入った。

僕の家では、

犬や猫を飼うことができなかった。

母親が動物が苦手だったからだ。

父親は、

動物にあまり興味がなかった。

だから、

我が家で育てることを許された動物は、

金魚だけだった。

最初は、

ただ眺めているだけだった。

シーサーが泳ぐ。

パニオンが泳ぐ。

餌をあげる。

水を替える。

それくらい。

でも、

ある日ふと思った。

「この二匹って、

毎日何をしてるんだろう。」

そこで、

夏休みの自由研究に、

金魚の観察をしてみることにした。

朝。

シーサーは水槽の端にいる。

パニオンは、

その周りを泳いでいる。

昼になると、

二匹ともよく動く。

夕方になると、

少し静かになる。

そんなことを、

毎日ノートに書いていった。

最初は、

何を書けばいいのか分からなかった。

「今日も泳いでいた。」

それだけの日もあった。

でも、

毎日見ていると、

少しずつ違いが分かってくる。

シーサーは、

餌を食べるのが早い。

パニオンは、

少し遅れてやってくる。

水槽の中でも、

いつもいる場所が違う。

昨日と今日でも、

泳ぎ方が少し違う。

僕は、

それを見つけるたびに、

ノートに書いた。

気づけば、

自由研究のノートは、

ページでいっぱいになっていた。

完成した研究を見て、

母親が言った。

「すごいね。」

僕は、

少し照れくさかった。

僕には、

これといった才能がない。

勉強が特別できるわけでもない。

手先も不器用だ。

何かに夢中になることも、

あまりなかった。

でも、

シーサーとパニオンを見ていると、

「知りたい。」

と思った。

昨日と違うところを見つけると、

嬉しかった。

それは、

才能なのかもしれない。

特別なことができることだけが、

才能じゃない。

好きでもないと思っていたことを、

毎日見ていたら、

いつの間にか、

もっと知りたくなっていた。

夏休みの終わり。

僕は水槽の前に座った。

シーサーが泳ぐ。

パニオンも泳ぐ。

二匹は今日も、

何も知らずに泳いでいる。

僕は、

ノートを閉じた。

そして、

もう一度、

二匹を眺めた。

自由研究は終わった。

でも、

観察することは、

まだ終わっていなかった。

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